自動車保険には大きく分けて強制保険と任意保険があるが、これらがどうして存在するのか理解しているだろうか。強制保険、つまり自賠責保険はなぜ強制加入なのか。強制保険が存在するにも関わらずなぜ任意保険があふれかえっているのか。

今回はそれぞれの特徴を解説すると共に、保険を選ぶ上で押さえておきたいポイントなどについて紹介する。ぜひ自動車保険見直しの参考としてほしい。

目次

  1. 自賠責保険とは
  2. 7種類ある任意保険とは
    1. 1.対人保険
    2. 2.対物保険
    3. 3.搭乗者傷害保険
    4. 4.人身傷害補償保険
    5. 5.自損事故保険
    6. 6.車両保険
    7. 7.無保険車障害保険
  3. 自動車保険の選び方は?
  4. 任意保険選びの注意点
  5. 補償を見直すときのポイント
    1. 対人保険について
    2. 搭乗者障害保険と自損事故保険
  6. 自動車保険を理解しよう

自賠責保険とは

自賠責保険は、すべての自動車(二輪・原付含む)に加入が義務付けられている保険で、被害者保護の観点から開発されたものである。あくまでも対人事故に際しての補償を目的としているため、対物事故については補償対象としていない。対人事故における補償限度額は以下の通りだ。

死亡:3000万円まで

傷害:120万円まで

後遺障害:75万円~3000万円まで(*)

*重度後遺障害の場合は4000万円まで

自賠責保険は強制加入であるから、上記の限度額はいわば自動車を運転するすべての人間が最低限保障される賠償額だ。死亡事故においては最大で3000万円、重度後遺障害においては4000万円までの補償とされているが、しかし実際に事故が起きたときこれらの補償で果たして十分に足りるだろうか。

端的に言って、金額について考慮しないとしても自賠責保険が機能しないケースは多い。先に述べた通り自賠責保険は対人賠償に限られているため、自動車同士(あるいはその他の車両と)の事故や対物(単独)事故において、巻き込まれた人間への補償は成されるものの破損した物に対する修理代などは一切補償されない。

自賠責保険は、高額な賠償が発生したとしても不払いが起きないよう、被害者のために強制加入が定められている保険なのである。

自賠責保険が被害者のための保険ならば、任意保険は運転手のための保険であり、こちらこそ通常イメージする「保険」の意味合いが相応しい。どうして自動車保険は強制加入させられるのに任意保険にも入らなければいけないのだろうか、と感じていた方もいらっしゃるかもしれないが、それぞれ守る対象が異なるため本質的にはまったく違う保険なのだ。

続けて、任意保険についても種類ごとに分けて解説していこう。

7種類ある任意保険とは

任意保険には、主な分類として7種類の保険が存在する。保険会社や商品によってはそれらを複合的にカバーするタイプのものもあるが、下記7つを認識することで任意保険に対する理解度は確実に深まるはずだ。

1.対人保険

加入している車が、事故によって他者を害した場合に補償される保険。自賠責保険と同様、補償されるのは「加入者が他者を怪我(死亡)させた場合」に支払われるものであって、事故に巻き込まれるケースを想定するものではない。

自賠責保険によって補償し切れない事故に対して加入することが前提であるため、基本的には補償額の上限を定めない無制限のものを選択する。無論十分な支払い能力があればこの限りではないが、自動車を運転するならばその可能性は十分に想定しておくべきだ。

2.対物保険

事故により破損した、自動車を始めとする物品の修理代を補償する保険。自賠責保険では一切補償されない部分であるため、これを目的として任意保険に加入する場合も多いだろう。

こちらも自賠責保険や対人保険と同じく「被害者(相手方)」に対する補償であって、自身の損失を補填するための保険ではない。人身事故にも言えることだが、対物の範囲は相手次第で大きく変動するためこれも基本的に無制限が勧められる。

3.搭乗者傷害保険

運転手を含め、同乗者が怪我(死亡)した場合に一定額の補償がなされる保険。これについては加入者自身も補償範囲に含んではいるものの、基本的に本人が運転していなければ機能しない保険であることに注意したい。

運転者に関する条件などは、特約によって対象を拡大できるものも多い。補償される一定額は契約次第で変わり、それによって保険料も増減する。どういったケースを想定した上で加入するかによって、個人差がでる部分だ。

4.人身傷害補償保険

⒊の搭乗者傷害保険と補償の適用範囲はほぼ同様だが、補償額が定額でなく「実費で支払われる」という保険。任意保険としては比較的新しい保険タイプで、先進医療の充実などによって治療費が高額になる懸念を払拭するための補償と言える。

基本的には搭乗者傷害保険か人身傷害補償保険のいずれかに加入していれば問題はない(補償内容にもよる)が、保険会社によってはこれらをまとめた保険商品を販売しているものもある。

5.自損事故保険

単独事故や、自身に100%の過失がある事故(停車中の自動車への追突事故など)を起こしたときに、運転者や同乗者のケガ・脂肪に対して補償する保険。

自損事故保険については通常、対人保険に付加されるケースが多いため別個に考える必要はあまりない。しかし事故に際しては、自損事故保険の活用を見送った方が良い場合もある。自損事故保険を利用することにより等級が下がってしまうためである。

自動車保険における等級は最低1等級から最高20等級まであり、数字が大きいほど保険料が割り引かれ、数字が小さければ保険料が割増しになるといった制度になっている。厳密な割引制度は非常に複雑なので割愛するが、基本的には等級の大小が保険料に直結していると考えれば問題ない。

自損事故保険の利用によって下がる等級は3等級だが、現在の等級次第で1~2割の割り増し、あるいは保険料増額が見込まれるだろう。正確な金額を比較して検討することは難しいが、とにかく治療費がそこまでかからなかった場合は安易に自損事故保険を利用すべきではない。

6.車両保険

名前の通り車両にまつわる損害を補償する保険。間違えてはいけないのが、「損害を補償する相手がいない場合に有効な保険」であって、相手がいる交通事故では相手方の保険によって補償がなされるためこちらの保険は機能しない。

具体的な補償範囲は自損事故保険と同様であり、これも被害者のためでなく自分のために加入する保険だ。任意保険といえば車両保険をイメージするという方も少なくないのではないだろうか。

7.無保険車障害保険

事故を起こした相手が任意保険に加入していない無保険車両だった場合など、賠償が支払われないときに代わって補償する保険。交通事故の加害者は被害者へ補償をする責任があるが、無保険車両や契約条件次第ではこれが果たされないケースというのも往々にして存在する。

そういった場合、金額にもよるが結果的に被害者側が泣き寝入りせざるを得ない状況もあり、万全を期すならば加入しておきたい保険のひとつである。

任意保険の加入率は共済保険なども含めると8~9割程度とされているが、それでも1~2割程度の車両が無保険であることを認識しておいてほしい。たかが1~2割とはいえ、そのリスクの大きさは到底捨て置けるものではないだろう。

自動車保険の選び方は?

保険選びにおいて、安易に保険料を比較することは得策ではない。まず自分がどういった保障を求めているのか、これを見極める必要があるだろう。

どんなに保障が手厚くとも、補償範囲が重複している保険に加入する意味は薄く、高額な保険料も無駄になってしまう可能性が高い。逆にどれだけ保険料が安くともいざというときに頼れるだけの補償が確保されていなければ、そもそも任意保険に加入する意味がなくなってしまう。これは典型的な安物買いの銭失いだ。

自賠責保険による対人補償範囲と限度額を正しく認識し、それ以外にどの程度の補償が必要なのか。これは自身の貯蓄などによっても大きく変動するだろう。自動車に乗車する頻度も関わってくる。マイカー通勤ならば走行距離区分は相応のものを想定する必要があるし、逆に普段は乗車しないのであれば最低限度で見積もれば良い。

いずれにせよ大切なのは、最安プランとして与えられた内容を鵜呑みにするのでなく、自分自身が最善と思うプランをまず設定しておくことだ。

任意保険選びの注意点

保険は補償内容もさることながら、いざというときの対応力も問われる。よく言われるのは、インターネット主体の保険は肝心の事故時対応力が低いなどといったもの。特に驚くほどリーズナブルな保険などはこういった傾向が見られることもあるが、一概にそう決めつけられるものではない。

一昔前ならば利用してみなければ分からないことも多かったが、現在はそれこそインターネットによりさまざまな事例が口コミなどによって確認することができる。

ロードサービスは自社スタッフが行うのか外注なのか、賠償対応は素早いのか否か、そのほか細やかな気遣いが行き届いているのかなど、事前に確認できる部分は多い。補償内容や保険料に納得の行く保険が見つかったならば、ぜひその辺りのサービス状況にまで気を配ってほしい。

自動車保険は保険の中では比較的更新期間も短く乗り換えタイミングはあるものの、一度加入した保険を数年ごとに見直すという人もあまりいないだろう。だからこそ、保険選びで妥協してはいけない。

補償を見直すときのポイント

対人保険について

対人保険は通常無制限にすべきとしたが、これには自賠責保険の補償限度額が関係している。自賠責保険は「被害者1人あたり」に支払われる補償であるため、これを超える補償でなければ任意保険で対人補償を加える意味はあまりないのだ。

逆に自賠責保険による補償範囲で十分だと考えるのならば、対人保険に加入しないという選択肢もあり得るだろう。無論、支払い能力がないのであれば基本的に対人保険を外すべきではない。それほどに重視される補償なのである。

対物保険は相手次第で賠償額が大きく変わるが、これを理解するには「直接損害」と「間接損害」について認識しなければいけない。直接損害とはずばり物そのものの損害であり、間接損害とは事故によってその後得られるはずだった利益を失ったことなどを指す。

例えば一般車両との事故と、タクシーやバスなどとの事故では賠償責任の生じる範囲が大きく異なるのだ。直接損害だけを考えれば、数千万円の補償限度額でも十分に思えるかもしれない。しかし間接損害を鑑みると、やはり無制限でなければ対応しきれないケースが出てくるだろう。

搭乗者障害保険と自損事故保険

搭乗者傷害保険と自損事故保険は非常に似通った補償範囲を備えているが、これらは別々に補償される。また、人身傷害補償保険と自損事故保険はいずれか一方(基本的に人身傷害補償保険)が適用されるようになっている。

これは元々自損事故保険の補償限度額が単独では不十分なものであり、「対人保険に付加される」という傾向からも分かる通り、おまけ的な意味合いが強いからだ。ただ、だからといって搭乗者傷害保険や人身傷害補償保険に加入しなければいけないというわけではない。

これらはあくまでも「自分のため」の任意保険なので、生命保険や医療保険といったその他の保険を手厚い補償内容で契約している場合などは、自損事故保険の補償で足りる可能性もあるだろう。自動車保険は交通事故にまつわる保険ではあるものの、その中には大きく分けて「被害者(同乗者)に対する補償」、「物に対する補償」、「自分(搭乗する車含む)に対する補償」があり、最優先されるのはいわずもがな被害者に対する補償だ。

これは運転手の責任を果たすという面もあるが、現実として対人・対物以外の補償についてはその他の保険で賄える部分が大きい。保険は単独で捉えるのでなく、総合的な補償を見据えることがなによりも大切なのだ。

自動車保険を理解しよう

自動車保険を見直すならば、まず自賠責保険が補償する範囲、そして7種類の任意保険それぞれがどのようなケースを想定した保険であるのかを理解していこう。これがクリアできれば、自然と自分に必要な保険構成が見えてくるはずだ。

この前提を怠ってしまうと、いくら各保険会社の商品を見比べたところで何が良い点なのか、どう比較して良いものかまったく分からなくなってしまう。理解しないまま加入した保険というのは、どうしても信頼しきれず不安も解消されない可能性がある。

これから任意保険を選択する、あるいは一から保険を見直すという方は、ぜひそのようなことがないようにしていただきたい。