近年、富裕層に対する課税強化が国際的にも国内的にも進んでいる。いわゆる「パナマ文書」の公開によって、タックス・ヘイブンを使った節税が「税逃れ」として厳しい目が向けられるようになり、日本の国税庁も富裕層にターゲットを絞ったプロジェクトチームを作り、資産の海外移転などに目を光らせている。こうしたこともあり、「スイスに資産を預ける」と聞くと、何かやましいお金、運用で一儲けしようとしている人のお金というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
こうした見方に対し、「リスクの高い日本から海外に資産を避難させるのは当然。決して脱法行為などではない」と異を唱えるのが、T&T FPコンサルティング社長の髙島一夫氏。日本や海外の金融機関に勤めたあと、スイスのプライベートバンクの取締役となった経歴を持ち、現在は、日本の資産家とスイスのプライベートバンクの仲立ちをするエクスターナル(外部)・マネジャーをしている。また、2015年には「なぜ、富裕層はスイスにお金を預けるのか?」(髙島宏修氏との共著、総合法令出版)という本も出している。そんな髙島氏に、『「日本リスク」から資産を守る』と題して、話を聞いた。
第5回は、「トラストをめぐる海外と日本の解釈の違い」と「相続税対策」について。(聞き手:押田裕太)
トラストの解釈をめぐる日本と欧米の大きな違い
──著書には、富裕層が資産をスイスに預ける真の目的は「資産を安全に次の代に継承すること」だとありました。その方法として、「トラスト」を挙げていますが、その仕組みを教えてください。また、日本でいう「信託」とはどのような違いがありますか?
トラストは、もともとイギリスの農民が、悪徳領主に自分たちの土地を奪われないよう教会に土地を寄進して、土地を守ったのが始まりです。形式的に、教会の土地にしておくことで、領主は手を出せませんからね。
海外と日本での大きな違いは、資産の所有権に対する考え方にあります。海外では資産をトラストに預けると、トラストに所有権が移ります。しかし、日本では信託に預けても所有権が移ったとはみなされません。日本の場合、信託を使っての運用はできないのです。
海外のトラストは、受託者がつくったトラストに資産を信託します。信託した時点で所有権はトラストに移り、トラストは契約に基づいて資産を保全・運用します。所有権はトラストにあるので、運用益について委託者が課税されることはありませんし、もし、委託者の財産が差し押さえられるようなことになっても、信託した財産は守られます。
ところが、日本ではマイナンバー制度や国外財産調書制度によって、海外に資産を移してもすべて当局に把握されてしまいます。トラストは最低でも10億円〜20億円という資産がなければ運用できませんから、当然、その資産は当局に把握されてしまいます。
そして、日本の場合には「トラスト」に預けたといっても認められません。「あのお金はどうしましたか」と聞かれたときに「トラストに預けました。もう、私に所有権はありません」と言っても、「それはあなたの資産でしょう」と言われ、課税対象になります。
海外トラストを利用した方法は、日本人は使えないのです。以前は可能でしたが、今はマイナンバーなどで海外を含めて個人資産を把握する体制ができたので、日本人が資金の逃避先としてトラストやファミリーオフィスを活用することはできません。
日本でいう信託には土地信託などがありますが、自分に所有権が残ります。海外の場合、トラストを作って資産を移すと、所有権も放棄することになります。海外の信託とはそこが違います。
たとえば、プロゴルファーのタイガーウッズが離婚したとき、彼はオフショアにトラストを作りました。そこにほとんどの資産を移したので、離婚協議で「自分はお金を持っていない」と言えたわけです。トラストのお金ですから所有権が無いことになります。こういったことは日本ではできないでしょう。
トラストの個人版「ファミリーオフィス」
──ファミリーオフィスについての言及がありました。ファミリーオフィスについても説明してもらえますか。