近年、富裕層に対する課税強化が国際的にも国内的にも進んでいる。いわゆる「パナマ文書」の公開によって、タックス・ヘイブンを使った節税が「税逃れ」として厳しい目が向けられるようになり、日本の国税庁も富裕層にターゲットを絞ったプロジェクトチームを作り、資産の海外移転などに目を光らせている。こうしたこともあり、「スイスに資産を預ける」と聞くと、何かやましいお金、運用で一儲けしようとしている人のお金というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
こうした見方に対し、「リスクの高い日本から海外に資産を避難させるのは当然。決して脱法行為などではない」と異を唱えるのが、T&T FPコンサルティング社長の髙島一夫氏。日本や海外の金融機関に勤めたあと、スイスのプライベートバンクの取締役となった経歴を持ち、現在は、日本の資産家とスイスのプライベートバンクの仲立ちをするエクスターナル(外部)・マネジャーをしている。また、2015年には「なぜ、富裕層はスイスにお金を預けるのか?」(髙島宏修氏との共著、総合法令出版)という本も出している。そんな髙島氏に、『「日本リスク」から資産を守る』と題して、話を聞いた。
第6回は、「エスクターナルマネジャーの仕事の中身と難しさ」について。(聞き手:押田裕太)
プライベートバンクと富裕層を結ぶ「エクスターナルマネジャー」の役割
──髙島さんは「エクスターナルマネジャー」として、プライベートバンクとの橋渡しをされていますが、このエクスターナルマネジャーという職業そのものを知らない人も多いと思います。どのような仕事なのか、教えてください。
プライベートバンクは、一見さんでは絶対に口座を開けません。誰か信用できる人の紹介が必要です。口座開設に必要な書類は英語で書かれていますから、日本人ではなかなか一人で契約できません。
ですから、われわれがエクスターナルマネージャーとしてプライベートバンクを紹介して、口座開設や契約の手助けをしています。アドバイザーのようなものです。我々は顧客の秘密を絶対に漏らさないし、顧客も我々の秘密について話してはいけない秘密保持契約を締結しています。
主にお付き合いしているのは、1つのプライベートバンクだけです。ほかのプライベートバンクでも口座を開設しようと思えばできないことはないですが、私が手の内を知っている銀行を紹介した方が責任も持てますので1つだけにしています。これまでお話したように資産10億円くらいを保有していないと断られるプライベートバンクもありますが、我々は個人でやっているので、1億円〜5億円の資産を持つ人が対象になります。そのくらいの規模の人たちが相手なので、そのプライベートバンクを選んでいるという面もあります。もう何十年もやっていますからね。
たとえば資産家が「私はお金を持っているので、口座を開きたい」と言っても、信用を大事にするプライベートバンク側からすれば、何者かわかりません。そのようなときにエクスターナルマネージャーが直接顧客に会って、資産状況や口座開設の目的などをヒアリングしていきます。そうした上で推薦状を書き、スイスのプライベートバンカーに紹介します。あちらも「髙島が紹介する人間だったら信じよう」ということで話が進みます。もちろん、プライベートバンク側でも審査にかけますから、そのまま通るわけではありません。そういう関係性があるので、エクスターナルマネジャーと呼ばれるようになりました。エクスターナルは「外部」という意味ですから、プライベートバンク内部の人間ではないけれど、非常に近い関係にあると理解してください。
「非常に近い関係にある」というのが、まさに我々の最大の強みです。通常、口座開設のためにスイスに行かなくてはなりません。スイス以外であれば香港やシンガポール。そこで、すべての契約書類を作成しなければなりません。でも、我々は書類を扱う権限も与えられていますから、スイスにまで行かなくても、日本で説明を聞いて、書類にサインをすれば、口座開設ができます。日本ですべての手続きを終えられるというのが、最大の強みです。
ただ、最終的な審査はプライベートバンク側が行いますから、必ずしも口座開設できるとは限りませんがね。