近年、富裕層に対する課税強化が国際的にも国内的にも進んでいる。いわゆる「パナマ文書」の公開によって、タックス・ヘイブンを使った節税が「税逃れ」として厳しい目が向けられるようになり、日本の国税庁も富裕層にターゲットを絞ったプロジェクトチームを作り、資産の海外移転などに目を光らせている。こうしたこともあり、「スイスに資産を預ける」と聞くと、何かやましいお金、運用で一儲けしようとしている人のお金というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
こうした見方に対し、「リスクの高い日本から海外に資産を避難させるのは当然。決して脱法行為などではない」と異を唱えるのが、T&T FPコンサルティング社長の髙島一夫氏。日本や海外の金融機関に勤めたあと、スイスのプライベートバンクの取締役となった経歴を持ち、現在は、日本の資産家とスイスのプライベートバンクの仲立ちをするエクスターナル(外部)・マネジャーをしている。また、2015年には「なぜ、富裕層はスイスにお金を預けるのか?」(髙島宏修氏との共著、総合法令出版)という本も出している。そんな髙島氏に、『「日本リスク」から資産を守る』と題して、話を聞いた。(聞き手:押田裕太)
第3回は、「日本で住むことのリスク」と「オフショア投資としての香港、シンガポール」について。
富裕層でも対策ができているのはごく一部?
──税制が厳しくなっていく中で、国内の富裕層はどのような対策をしているのでしょうか。資産の避難先なども合わせて教えてください。
全体的に見ると動かしておらず、本当に少数の人が対策をしているだけです。全体的にはやはり「銀行に預けておけば安心」という方がいまだに多いのは事実です。海外移住をしている人も国内には100万人くらいはいるようですが、地方に行くとほとんどいません。東京都や神奈川県では、それなりの人が資産を逃避させる対策を取っていますが、地方と都会ではそのあたりの意識の格差が歴然とあります。
われわれの感触としては、地方でセミナーを開催しても、100人中1人か2人くらいにしか、海外へ資産を逃避させることの重要性をわかっていただけない状況です。横浜などの港に近い、海外に接している地域は比較的反応が早いような実感があります。
そういった方々は地政学的なリスク、たとえば北朝鮮や中国、ロシアなどの動向を気にしている人もいます。あとは原子力発電所です。ゲリラのターゲットになってもおかしくありませんからね。そうしたリスクが冗談ではなく、あるわけです。
そうした危機的な状況になったとき、海外にお金を出していれば、そこへ行けばいいわけですが、なければどうしようもありません。
一部の資産は米ドルに換えておく
──そうした状況の中で、顧客に対し、どのような提案をされるのですか。