相続税を申告するときや、自分にどのくらいの相続税がかかりそうかシミュレーションするときに財産の評価額が分からず、計算が進まないということがある。特に計算方法があまり知られていないのが不動産、中でも土地の評価は複雑である。

だが実際には、土地の相続は多い。国税庁によると、2018(平成30)年中の相続として申告のあった相続財産のうち、土地は約1121億円(全体の25.0%)だった。現金・預貯金など1508億円(33.7%)に次いで2番目に金額の大きい財産となる。

(参考)国税庁「平成30年分の相続税の申告状況について

不動産、特に土地にいくら相続税がかかるのか、どうすれば節税できるのか知りたい経営者は多いと考えられる。この記事では、まず不動産の相続税の基本的な疑問をQ&A形式で解消した後、不動産にかかる相続税の仕組みや節税するための4つのポイントを解説する。

中村太郎
中村太郎
中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

不動産の相続税にかかわるQ&A

相続税申告書 添付書類
(画像=PIXTA)
Q


不動産の相続で生じる相続税はどうやって計算するの?

A:相続税はまず相続財産全体の課税価格から基礎控除額(※)を差し引き、そこから相続税の総額を計算する。総額を相続人が、実際に取得した財産に応じて負担する(最終的に負担する税額は各人の控除などで変わる)。不動産単体にいくら相続税がかかるかという計算はできないが、不動産の相続税評価額を抑えることができれば相続人全員の相続税を抑えることが可能だ。 (※)3000万円+法定相続人の数×600万円

A:相続税はまず相続財産全体の課税価格から基礎控除額(※)を差し引き、そこから相続税の総額を計算する。総額を相続人が、実際に取得した財産に応じて負担する(最終的に負担する税額は各人の控除などで変わる)。不動産単体にいくら相続税がかかるかという計算はできないが、不動産の相続税評価額を抑えることができれば相続人全員の相続税を抑えることが可能だ。 (※)3000万円+法定相続人の数×600万円



Q


不動産の相続税評価額はどうやって計算するの?

A:家屋の評価額は「固定資産税評価額×1.0」である。土地は地目で評価方法が変わるが、宅地であれば「路線価×地積×奥行価格補正率等」などで評価する。2本以上の道路に接しているなど利便性の高い宅地の評価額は高めに補正されるが、逆に使いづらい形状のものは低めに補正される。また、用途(自用・貸している・借りている)でも評価額は変わる。

A:家屋の評価額は「固定資産税評価額×1.0」である。土地は地目で評価方法が変わるが、宅地であれば「路線価×地積×奥行価格補正率等」などで評価する。2本以上の道路に接しているなど利便性の高い宅地の評価額は高めに補正されるが、逆に使いづらい形状のものは低めに補正される。また、用途(自用・貸している・借りている)でも評価額は変わる。



Q


借りている不動産に相続税がかかるの?

A:借地権や借家権の設定につき権利金を支払う取引慣行のある地域で土地や家屋を借りている場合、借り主の相続財産になる可能性がある。ただし借り主が支払っている地代によっては評価額がゼロになることもある。なお契約が「賃貸借」ではなく「使用貸借」であれば借り主に相続税はかからない。使用貸借は親子間の不動産の貸借などでよく見られる契約である。

A:借地権や借家権の設定につき権利金を支払う取引慣行のある地域で土地や家屋を借りている場合、借り主の相続財産になる可能性がある。ただし借り主が支払っている地代によっては評価額がゼロになることもある。なお契約が「賃貸借」ではなく「使用貸借」であれば借り主に相続税はかからない。使用貸借は親子間の不動産の貸借などでよく見られる契約である。



Q


不動産で節税する方法はある?

A:不動産の相続税評価額は、人に貸すことで下がるなど特殊な評価が行われたり、不動産の評価額を下げる特例などを活用することで大幅に下げたりすることができる。これらを活用すれば大きな節税効果が期待できる。

A:不動産の相続税評価額は、人に貸すことで下がるなど特殊な評価が行われたり、不動産の評価額を下げる特例などを活用することで大幅に下げたりすることができる。これらを活用すれば大きな節税効果が期待できる。



不動産が相続税対策になる仕組みとは?

相続税は、相続財産全体の課税価格から計算される。課税価格を決めるのは、それぞれの相続財産の相続税評価額である。つまり相続税評価額が低ければ、課税価格も低くなり、相続税も安くなるという仕組みだ。また不動産には、相続税評価額を減らせるさまざまな特例がある。

●評価額が最大で8割減となる「小規模宅地等の特例」

不動産(宅地)の相続税評価額は、小規模宅地等の特例を適用することで大幅に下げることができる。この特例は、居住用、事業用、貸付事業用に使用されていた宅地を、その用途のまま親族が承継しやすくするためのものである。適用面積に上限はあるが、最大で80%もの評価減ができるケースもある。

 特例の対象となる宅地の区分  面積上限  減額割合
 特定居住用宅地等  330㎡  80%
 特定事業用宅地等  400㎡  80%
 貸付事業用宅地等  200㎡  50%

ただし小規模宅地等の特例を適用するための要件は複雑だ。相続開始前の用途が何か、また誰が相続するかなどでも要件が変わるので、個別のケースで判断していく必要がある。

●賃貸用不動産の購入が相続税対策になることも

不動産を人に貸したり、賃貸用不動産を建てたりすると相続税の節税になるという話を聞いたことがないだろうか。主な理由は、その敷地を貸宅地(かしたくち)や貸家建付地(かしやたてつけち)として評価できるからだ。

どちらも建物の敷地として利用されている被相続人の土地だが、貸宅地は「土地」を貸しており、建物を建てているのは土地の借り主である。これに対し、貸家建付地は貸家の敷地となっている宅地のことで、土地も建物(貸家)も被相続人のものである。

貸宅地と貸家建付地の計算式は次のようになる。

<貸宅地の評価額>
自用地評価額 ×(1-借地権割合)

<貸家建付地の評価額>
自用地評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

細かい説明は省略するが、いずれも借り手が土地を利用する権利などを自用の評価額から控除している。

まず貸宅地から見てみよう。借地権割合は、90%・80%・70%……30%の7段階(A~G)で設定され、国税庁の路線価に付されている。中心地など利用価値の高いエリアほど、借地権割合も高く設定されていることが多い。貸家建付地の場合は、あくまで建物を人に貸している状態なので、貸宅地のようにダイレクトに借地権割合を控除することはできない。

仮に賃貸割合(賃貸部分の床面積の割合)が100%であれば、だいたい10%~20%ほど自用地よりも低く評価することができる。貸家建付地は小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の要件を満たすことで、貸家建付地としての評価額からさらに50%減額できる可能性がある。

不動産にかかる相続税を抑える4つのポイント

●ポイント1:「小規模宅地等の特例」の要件を早めに把握する

不動産にかかる相続税を抑えるのに、最も効果が高いのは小規模宅地等の特例である。しかしながら小規模宅地等の特例は適用要件が多く、複雑だ。

自分の土地に家を建てて住んでいた父が亡くなったケースを例に、特定居住用宅地等として相続するための主な要件を見てみよう。

【例】
相続開始前の状況:父が自分の土地に家を建てて住んでいた

このケースで小規模宅地等の特例の対象になるのは、

  • 配偶者
  • 父と生前に同居していた親族
  • 自宅を持たない親族(父に同居人や配偶者がない場合)

が宅地を相続した場合である。

自宅を持たない親族については、その親族自身が家を持っていないだけではなく、相続開始3年以内に一定の親族や特別の関係がある一定の法人が所有する家に住んだことがないなどの要件を満たさなければならない。

また、配偶者以外の親族が相続した場合は、相続税の申告期限まで宅地を保有していることが必要だ。さらに、生前に同居していた親族が相続した場合は、相続税の申告期限まで引き続きその建物に住む必要がある。

ほかにも特定居住用宅地等が使えるケースとしては、被相続人の土地に被相続人と生計を一にする親族が住んでいた場合である。この場合は、特例の対象になる相続人が変わる。

このように小規模宅地等の特例の要件は非常に複雑で、すべてを把握することは難しい。相続時に慌てないよう、現状から「何の要件を満たせば特例が使えるか」をシミュレーションしておく必要がある。

●ポイント2:使っていない不動産は人に貸す

現在、使わないまま放っている土地はないだろうか。人に貸せば、その土地を貸宅地として評価できる可能性がある。この場合、そのままにしておくよりも相続税評価額を下げることができるので、ぜひ活用したい。

●ポイント3:宅地の補正率を漏らさず使う

宅地の補正率には土地の相続税評価額を下げるものが多い。例えば、がけ地補正率で、最も小さい値は0.53である。適用できれば評価額はほぼ半減だ。

ここまで低い補正率を使えるケースはまれだが、補正率は種類が多いため使えるものは漏れなく使うことが大切である。むしろ低い補正率が適用できる宅地は使い勝手が悪い場合が多く、収益性が高くない宅地だと一般的と考えられる。そのため、補正率をしっかり使わなければ、逆に実際の価値以上の相続税を支払ってしまうことになる。宅地の補正率を使いこなすのはかなり難しいため、計算は税理士に依頼することをおすすめする。

<不動産の相続税評価額を下げる主な補正率>
不整形地補正率、間口狭小補正率、奥行長大補正率、がけ地補正率など

(参考)国税庁ホームページ:補正率

●ポイント4:生前贈与での相続税対策も忘れずに

相続税は超過累進税率で、最高税率は55%まで上がる。不動産の相続税評価額を低くしても、現金など他の資産が多ければ結局のところ税負担は大きくなってしまう。よって、不動産にかかる相続税を抑えたい場合は、不動産以外の財産に対する相続税対策も有効である。

他の資産の相続税対策で有効なものが、生前贈与である。贈与税の基礎控除(110万円)を活用した暦年贈与や、贈与税の非課税特例である。

・住宅取得資金贈与
・教育資金の一括贈与
・結婚子育て資金の一括贈与

などを検討してみよう。

なお不動産そのものを2000万円(+基礎控除110万円)まで非課税で贈与できる「贈与税の配偶者控除」という特例がある。20年以上婚姻期間のある夫婦間限定の特例であり、贈与する不動産は居住用(購入のための資金でもよい)に限られる。

ただし相続には「贈与税の配偶者控除」よりもはるかに優れた「配偶者の税額軽減」があるうえ、土地については小規模宅地等の適用もあるため、節税効果を感じられるケースは少ないかも知れない。

不動産の特例を使って相続税を確実に節税しよう

この記事をまとめると以下のようになる。

・相続税は相続財産全体の課税価格から計算される
・相続税を節税するには、相続財産の相続税評価額を下げることが有効である
・不動産の相続税評価額を下げる方法には、「小規模宅地等の特例」や「貸宅地」「貸家建付地」「補正率を使う」などがある
・相続税は相続財産全体に対してかかるため、生前贈与で他の財産に対する相続税対策も忘れずに行うこと

不動産の相続税評価額、とくに土地の評価には専門知識が不可欠であり、専門家の間でもぴったり同じ額にならないことがよくある。ムダな相続税を支払わなくて済むよう、不動産の相続は信頼できる税理士に相談していただきたい。