終活がすっかり定着した現在、相続税対策にも関心が集まっている。その中で、生命保険を使った対策はかなり有効だが、意外とその方法やメリットは知られていない。ここでは、生命保険を使った相続税対策について、詳しく説明する。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書等の作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

相続税生命保険にまつわるQ&A

生命保険,相続税対策
(画像=PIXTA)

Q


生命保険に相続税はかかるのか?

同じ「生命保険」でも、契約者、被保険者、受取人が誰なのかによって、かかる税は大きく異なる。契約者と被保険者が同じ場合は、相続税がかかる。ただし、この形態の生命保険には、相続税の非課税枠がある。

同じ「生命保険」でも、契約者、被保険者、受取人が誰なのかによって、かかる税は大きく異なる。契約者と被保険者が同じ場合は、相続税がかかる。ただし、この形態の生命保険には、相続税の非課税枠がある。


Q


生命保険が控除される要件は?

相続税が控除される生命保険の形態は、上述のケース(契約者と被保険者が同じ)である。例えば、契約者が夫、被保険者も夫で、受取人が妻の場合だ。つまり夫が亡くなったら、保険金が妻に支払われるような生命保険を夫が契約する場合である。

相続税が控除される生命保険の形態は、上述のケース(契約者と被保険者が同じ)である。例えば、契約者が夫、被保険者も夫で、受取人が妻の場合だ。つまり夫が亡くなったら、保険金が妻に支払われるような生命保険を夫が契約する場合である。


Q


控除される金額は?

受け取った保険金から、相続税が控除される金額は「500万円×法定相続人の数」である。つまり法定相続人が多ければ多いほど控除される額が大きくなる。

受け取った保険金から、相続税が控除される金額は「500万円×法定相続人の数」である。つまり法定相続人が多ければ多いほど控除される額が大きくなる。


 

相続税における非課税枠

●非課税枠の計算式

生命保険を使った際の相続税の「非課税枠」は、「500万円×法定相続人の数」だ。この範囲内なら、相続人は非課税で保険金を相続できる。

ただし生命保険であればどれも適用されるわけではなく、「終身保険」に限定される。終身保険とは一生涯の保障があり、死亡時に保険金が支払われる保険である。一方、「定期保険」は保障が一定期間であり、期間を過ぎると保障がなくなるため、適用されない。

上述のように、生命保険の契約形態は、契約者と被保険者が同じでなければならない。契約者と被保険者が異なる生命保険は、相続税の非課税が適用されない。

●具体的な計算式

例えば、夫、妻、子ども2人の4人家族だとする。夫の資産が7000万円だった場合、夫が亡くなれば、法定相続人は3人なので、基礎控除額は「3000万円 +(600万円×3人)= 4800万円」だ。
※基礎控除額:3000万円+(600万円×法定相続人の数)

したがって、被相続人の遺産である7000万円から4800万円を引いた2200万円に対して相続税がかかる。相続税課税対象財産が3000万円以下の場合、控除額は50万円、相続税率は15%なので、相続税は「(2200万円-50万円)×15%=322万5000円」となる。

ここで1500万円の生命保険に加入していた場合、非課税枠は「500万円×3人=1500万円」なので、相続人は1500万円まで非課税で相続できることになる。

夫の遺産から基礎控除と生命保険の非課税額を引くと、「7000万円-4800万円-1500万円=700万円」となる。相続税対象財産が1000万円以下の場合、控除額は0円、相続税率は10%なので、相続税は「(700万円-0)×10%=70万円」となる。

つまり1500万円の生命保険に加入することで、「322万5000円-70万円=252万5000円」も節税することができる。

生命保険に課税される税金

●相続税

一般的に法定相続人が、被相続人の財産を受け取った場合、相続税が課税される。生命保険の場合、被相続人が生命保険の契約を行い、掛け金を負担する場合は、相続税がかかることになる。ただし上述のように、この場合の相続税には「非課税枠」が設けられている。

●所得税

一般的に金銭を得た場合は、所得税が課税される。生命保険の場合、法定相続人が契約者となり、被 相続人が死亡した際に契約者である法定相続人が保険金を受け取ったときは、所得税が課税される。

●贈与税

一般的に他者に金銭を渡した場合は、受け取った人に対して贈与税が課税される。生命保険の場合、 例えば父親が死亡した際に子どもが保険金を受け取るような契約を母親が結んだときには、受取 人である子どもに贈与税が課税される。

契約者・被保険者・受取人の関係と税金の種類

●契約者と被保険者が同じ場合

生命保険を締結した人と被保険者、つまり保険にかかっている人が同じ場合は、相続税が課税されることになる。この場合、契約者と被保険者は同じであっても、受取人は異なる必要がある。

受取人が法定相続人であれば、非課税枠を使い、相続税が減税されるが、法定相続人以外が保険金を受け取る場合は、非課税枠が使えない。また法定相続人でも、相続放棄をした場合は、非課税枠を使うことができない。

●契約者と受取人が同じ場合

生命保険を締結した人と受取人が同じ場合は、受け取った保険に所得税が課税される。例えば、妻が自分を受取人として、夫が死亡した際に保険金が受け取れる生命保険の契約をした場合である。

これは自分が保険金を受け取る保険契約を契約者が結んだことで、掛け金を自らが負担するからである。掛け金の負担者と保険金の受取人が同じなので、受け取る保険金を所得とみなすのである。

●契約者、被保険者、受取人が異なる場合

生命保険を結んだ人、被保険者、受取人がすべて異なる場合は、贈与税が課税される。例えば、父 親が死亡した際に保険金が受け取れる保険契約を母親が結び、子どもを受取人とした場合だ。

母親が保険の掛け金を負担し、父親の死亡によって、子どもが保険金を受け取るため、母親から子ど もへの贈与とみなされる。

生命保険を使った節税対策(一時払い終身保険)

一時払い終身保険とは、契約を締結した際に、一括で掛け金を支払い、一生涯の死亡保障が得られるという保険形態である。

例えば、預貯金が8000万円ある夫に、法定相続人が3人(妻、子ども2人)いたとする。保険料1500万円で、受取金額が1500万円の一時払い終身保険に加入したとする。

法定相続人が3人なので、生命保険の非課税枠は「500万円×3人=1500万円」だ。加入した保険金1500万円から非課税枠「1500万円」を差し引くと0円となり、受ける保険金には相続税がかからない。

相続税は、「8000万円-1500万円=6500万円」に課税されるが、もしこの生命保険に加入しなかった場合は8000万円に課税されることになる。このように生命保険に加入し、非課税枠を利用することで、かなりの相続税対策となる。

生命保険を使った節税対策(子ども・孫に保険を掛ける)

子どもや孫が被保険者になり、祖父母や親が保険契約を結び、掛け金を支払った場合、生命保険の相続税評価額は、解約返戻金となる。解約返戻金とは、生命保険を解約した際に、払い戻されるものである。この生命保険の契約を相続した人は、その後の掛け金を負担することになる。

例えば、初期の解約返戻金が低額で、後で金額が上がる解約返戻金に係る生命保険を子どもや孫を被保険者として加入したとする。これによって、生命保険の解約返戻金が低い間に相続することができ、その後解約返戻金が上がった時点で、多額の解約返戻金を受け取ることが可能となる。

生命保険を使った節税対策(一時所得での受け取り)

保険契約者(掛け金の負担者)と保険金の受取人が同じ形態の生命保険で、保険金を受け取った場合は、一時所得とみなされる。つまり受け取った保険金は、相続財産には組み込まれない。しかし一時所得であるから、所得税がかかることになる。

この場合、相続税のような非課税枠はないが、所得税を軽減する方法はある。計算式は、まず受け取った保険金から、払い込んだ掛け金と特別控除額50万円を差し引く。残額の2分の1が課税対象となる。

最終的に所得税を納めることにはなるが、所得税の最高税率50%、住民税の税率10%、併せて負担する税が50%であることを考えれば、受取保険金の実質負担の税額は25%ということなる。

もちろん保険金額や法定相続人の数によって、相続税の対象となる生命保険にしたほうがよいかは、ケースバイケースなので、個々の世帯の事情を考慮して検討する必要がある。

生命保険のメリット(手続き)

被相続人が遺言書を残していなかった場合の相続では、法定相続人が協議を行い、遺産分割協議書を作り、合意した内容を記載する。そして、その内容に則って遺産を分割し、相続することになる。ただし法定相続人の1人でも分割内容に合意しなければ、話が前に進まない。

しかし生命保険は、保険金を受け取る人だけで手続きを進めることができる。つまり法定相続人の了承を得る必要がない。被相続人にとっては、誰かに財産を渡したい場合は、その人を受取人、自分を契約者と被保険者にして、保険契約を結べばよいことになる。

生命保険のメリット(相続放棄)

相続財産には被相続人の債務(借金)も含まれる。仮に財産よりも債務がはるかに大きかった場合、相続放棄を検討する必要が出てくる。

しかし生命保険については、たとえ相続放棄をしても保険金を受け取ることができる。したがって、被相続人の借金を支払いたくなくて相続を放棄しても、自分が生命保険の受取人になっていれば、受け取りは可能ということになる。

生命保険のメリット(遺留分)

被相続人が遺言書を残し、ある特定の相続人だけに財産を相続する旨を記載していた場合、何も相続できない相続人が出てくる。相続人は財産をあてにしていたはずなので、遺言書によって不満を持つ相続人が生まれることになる。

このような不公平感を解消するために、法律では法定相続人について、最低限度認められる取得分を規定している。これを「遺留分」という。相続財産をまったくもらえない、あるいは遺留分に満たない分しかもらえない場合は、他の相続人に対して請求できる。

しかし生命保険の受取金は、遺留分に含まれない。被相続人が特定の相続人に対して、他の相続人よりも余分に財産を渡そうと思ったら、自分を契約者と被保険者にして、その相続人を受取人とする保険契約を結べばよい。

ただしあまりにも極端で、相続人間に不公平感を与えるような保険契約は遺留分に含まれる可能性があるので、十分注意する必要がある。