相続税の有無を判定する際の目安となるのが「相続税の基礎控除」だ。計算式も決まっているので一見簡単そうに見えるが、要素となる法定相続人の考え方が分かりにくい。また、相続税の課税対象となる財産の算定の仕方も難解だ。
今回は基礎控除の計算の仕方を押さえた後で、申告の要不要の考え方を見ていこう。
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。
相続税の基礎控除にかかわるQ&A
最初に相続税の基礎控除の基本を3つ押さえよう。
相続税の基礎控除ってどういうもの?
相続税の基礎控除とは、相続税の基準となる課税価格を計算する際、正味の遺産総額から差し引く金額のことだ。相続税がかかる金額は「正味の遺産総額-基礎控除額」で算出する。
相続税の基礎控除とは、相続税の基準となる課税価格を計算する際、正味の遺産総額から差し引く金額のことだ。相続税がかかる金額は「正味の遺産総額-基礎控除額」で算出する。
どうやって計算するの?
相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する。法定相続人の数を考えるときは、「相続人に死亡・欠格・廃除があると子どもの代わりに孫を、兄弟姉妹の代わりにおいやめいを相続人とする」「養子は2人までしかカウントできない」「相続放棄はなかったものとして考える」などのルールがある。
相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する。法定相続人の数を考えるときは、「相続人に死亡・欠格・廃除があると子どもの代わりに孫を、兄弟姉妹の代わりにおいやめいを相続人とする」「養子は2人までしかカウントできない」「相続放棄はなかったものとして考える」などのルールがある。
法定相続人って何?
法定相続人とは、民法で定められた相続人をいう。配偶者は常に相続人になるが、直系血族や兄弟姉妹については順番が決まっている。子どもや亡くなっていれば孫が、兄弟姉妹が亡くなっていればおいやめいが代わりに相続人となる。遺言による指示がなかったり、遺産分割協議がまとまらなかったりしたときは、最終的に家庭裁判所が法定相続人に対し民法に定められた相続分で相続するよう命じることになる。
法定相続人とは、民法で定められた相続人をいう。配偶者は常に相続人になるが、直系血族や兄弟姉妹については順番が決まっている。子どもや亡くなっていれば孫が、兄弟姉妹が亡くなっていればおいやめいが代わりに相続人となる。遺言による指示がなかったり、遺産分割協議がまとまらなかったりしたときは、最終的に家庭裁判所が法定相続人に対し民法に定められた相続分で相続するよう命じることになる。
「相続税の基礎控除額≧正味の遺産総額」なら申告不要
「相続したら誰でも相続税を納めなくてはならないのか」と思われがちだが、実は違う。財産を引き継いでも一定額以下なら、「税金を負担できるだけの余力はないだろう」とみなされて相続税を納めなくてもよいことになっている。相続税では、この「一定額」を「基礎控除額」という。
基礎控除額は贈与税のように一律で決まっていない。相続した世帯ごとに「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する。つまり、基礎控除額を超えなければ相続税の申告は不要で、超えたら超えた部分の金額についてだけ相続税を納めることになるのだ。
なお、相続財産の考え方についても「現預金や不動産をもらったら全部相続税がかかる」と思われがちだが、実際は違う。相続したもののうち純粋にプラスになった財産だけが相続税の対象となる。これを正味の遺産総額というが、具体的な内容は後述する。
法定相続人の考え方
基礎控除額の計算をするうえで重要な要素となるのが「法定相続人」だ。法定相続人は民法に定められた相続人のことだ。相続財産の承継先や配分について遺言書による指定がなければ、遺産分割協議が行われるが、この協議に参加できるのは法定相続人だけなのだ。
実際の相続では遺言書で赤の他人に財産を分けることもできるが、財産をもらった人の数で基礎控除額を決めてしまうと恣意的に課税逃れができてしまい、課税の公平が図れない。そのため、法定相続人を基礎控除の計算の要素としているのである。
なお、被相続人の家族だったら誰でも法定相続人になれるわけではない。民法上、次のようなルールがある。
●配偶者は常に法定相続人
配偶者は常に相続人になる。ここでいう配偶者はあくまで相続開始時点で被相続人と法律婚の関係にあった妻か夫だけであり、事実婚は含まれない。
●子どもや親、兄弟姉妹には順位がある
生きている子どもや親、兄弟姉妹は法定相続人になり得る立場にあるが、実際には「相続開始時に誰が生きているか」で次のように順位が決まる。
● 第一順位……直系卑属(最初に子ども、子どもが亡くなっていると孫が子どもの代わりに相続人となる)
● 第二順位……直系尊属(最初に父母、父母両方が亡くなっていると祖父母になる)
● 第三順位……兄弟姉妹(兄弟姉妹の誰かが亡くなっていると、その子どもであるおい・めいが代わりに相続人となる)
第一順位になるべき人が全くいなければ第二順位が、第二順位になるべき人が全くいなければ第三順位が法定相続人になるという仕組みである。
養子も民法上、実子と同様に扱われるため法定相続人の数に含まれる。ただし無制限に養子を実子と同様に扱うと養子縁組による課税逃れを助長しかねない。そこで相続税法では「実子がいるなら養子は1人まで」「実子がいないなら養子は2人まで」を法定相続人の数に入れるとしている。
法定相続人になる人、ならない人
生きているからといって法定相続人になるとは限らない。また、相続権を放棄しても相続税法上は法定相続人として数えることもある。
●死亡・欠格・廃除は法定相続人にならない
相続開始前にすでに死亡していたら、当然法定相続人にはなれない。しかし生きていても法定相続人になれないことがある。「欠格」「廃除」に該当するケースだ。
欠格とは被相続人や他の相続人を殺すか殺そうとしたり、詐欺や脅迫、遺言書の偽造をしたりして不当に相続財産を手にしようとした相続人から相続権を剥奪するというものだ。
廃除とは被相続人が生前、相続人から受けた虐待や相続人の著しい非行を理由として家庭裁判所に請求して相続権を剥奪したがために相続人としての地位を失ったことをいう。
いずれも死亡と同等に扱われ、本人に子どもがいれば、子どもが相続人の地位を代襲して法定相続人となる。
●相続放棄をしても法定相続人として数える
法定相続人の中には相続放棄をする人もいるが、これを含めて基礎控除額を計算すると課税の公平が保てない。基礎控除額を計算するうえでは、相続放棄はなかったものとして扱う。
●姻族は法定相続人になれない
配偶者の父母や兄弟姉妹も一見法定相続人になれそうだが、実はなれない。配偶者以外で法定相続人になれるのは被相続人の血族のみである。
孫やおい・めいが相続人になる「代襲相続」とは
本来法定相続人になるべき人が後述する死亡・欠格・廃除で相続権がないとき、その子どもが本人の代わりに法定相続人となる。これを「代襲相続」という。直系卑属ならひ孫ややしゃごなど次々と再代襲することになるが、兄弟姉妹についてはおい・めいによる代襲のみで再代襲はない。
また、直系尊属についてはこのような考え方はない。父が死亡しており母が生きているなら、母のみが相続人となる。父の両親、つまり被相続人の祖父母が相続人となることはない。
相続税の基礎控除の計算を3つの事例で見てみよう
ではここで、相続税の基礎控除額を次の3つの事例で見てみよう。
●配偶者、子ども2人、父が生きていて、子どもが全員相続放棄したとき
子どもが全員相続放棄しているので実際の相続は配偶者と父が行うことになる。しかし、相続税の基礎控除額の計算上は「相続放棄はなかったものとして扱う」ので基礎控除額の計算上、法定相続人は「配偶者と子ども2人」と考えて「3000万円+600万円×3人=4800万円」と計算する。
●配偶者、子どもAとB、Aの子どもCがいて、Aが欠格事由に該当するとき
配偶者1人と子どもAとBが一見法定相続人になりそうだが、Aは生きていても欠格事由で相続権が剥奪されているため法定相続人にならない。そこでAの子どもCがAの代襲相続人として法定相続人となる。結果、基礎控除額は配偶者と子どもBと孫Cを法定相続人として数え「3000万円+600万円×3人=4800万円」となる。
●配偶者と父、母方の祖父母がいて母はすでに死亡しているとき
母が死亡しているので母方の祖父母が法定相続人となりそうに見えるが、父が生きているので母方の祖父母は法定相続人にならない。法定相続人は配偶者と父となり、基礎控除額は「3000万円+600万円×2人=4200万円」である。
正味の遺産総額はどう計算する?
誤解されがちなのが、「何らかの財産があれば全部課税される」というものだ。相続税法上で課税されるのは「正味の遺産総額」だ。これは次の流れで計算する。
1. 財産を取得した各人分の正味遺産額を次の算式で計算する。
相続・遺贈で取得した現預金などのプラスの財産+生命保険金などみなし相続財産-お墓などの非課税財産+相続時精算課税制度で生前贈与された財産-債務・葬式費用+相続開始前3年間に贈与された財産
2. 1.で計算したものを合計し、正味の遺産総額を算出する。
「残った財産=課税対象」ではなく、被相続人の借金や葬式代は差し引くということを覚えておこう。
遺産総額を計算するときの注意点
相続税の課税対象となる財産額は「相続時の時価」で考える。この時価は法律で決まっている。「実勢価格や購入価額とは違う」「タダでもらったものでも相続税がかかるかも」と覚えておこう。
●値段の分からない財産は「評価」が必要
相続財産の時価は相続税法の財産評価基本通達で評価すると決められている。つまり、法律に則って評価しなくてはならないのだ。「土地なら路線価方式か倍率方式で評価」「建物は固定資産税評価額」などだ。現預金はすぐに分かるが、それ以外は手間がかかる。
●生命保険や死亡退職金も相続財産とみなされる
民法上は被相続人が保険料を負担していた生命保険金や死亡退職金は相続人が受け取っても相続財産とはならないが、相続税法上は「被相続人の労力で得られたものなので相続財産と実質的に同じ」とみなされ、課税対象となる。「500万円×法定相続人の数」という非課税枠はあるが、評価の仕方は若干複雑だ。
●死亡日以前3年間の贈与も含めて考える
生前贈与は相続税対策として有名だが、死亡日以前3年間に行われた生前贈与は節税効果がない。この間に贈与された財産はすべて相続財産に持ち戻すからだ。遺産総額計算上、うっかり見落とすことがないように注意したい。
相続税の基礎控除で申告の要不要を考える注意点
「相続税の基礎控除額≧正味の遺産総額」であれば申告不要だ。「事前に知っておきたい」とばかりに評価をする人もいるかもしれないが、注意点が2つある。
1つ目は正味の遺産総額の評価額は、あくまで相続開始時点のものという点だ。事前に評価した価格と同じになるとは限らない。土地の評価を今行って基礎控除額以下になったとしても、相続開始時に路線価が上がり、申告が必要になることもある。
2つ目は財産評価基本通達に従ったものだけが相続税法上の評価額という点だ。「路線価評価は実勢価格の8割」などと言うが、これは分かりやすく理解するための方便に過ぎない。実務では法律に従って評価したものだけが対象となる。
いずれにせよ、生前の見積もりはあくまでも目安でしかないことを念頭に置いておきたい。
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