2019年2月14日に国税庁からの通達で法人保険の損金計上が認められる範囲が大きく縮小しました。実は生保業界でバレンタインショックと呼ばれたこの通達が出る前に節税目的を売り文句に販売されていた各商品も実際は法人税の課税繰り延べの効果しかなかったのは皮肉な現象といえるでしょう。しかし今までの節税を前面に押し出した売り方が良くなかっただけでプランすべてが悪いわけではありません。
中小企業は、毎期安定的に利益を出せるとは限らないケースもあり法人保険を活用して中長期的に利益の平準化ができれば経営者にとってメリットは少なからずあったわけです。
法人保険を使った相続税対策
このように損金計上できる保険は少なくなりましたが相続税対策として使える生命保険は、まだ存在します。そのうちの代表的なものを見ていきましょう。例えば社長だった父親がすでに実務上は会社経営から退いて会長などの役職で会社に残っている場合、引き継いだ子どもの社長がいずれ亡くなる会長の死亡退職金を準備しその費用として生命保険を活用するケースです。
生命保険には「500万円×法定相続人数」の枠内で相続税が非課税になる制度がありますが、上記のケースで会長がなくなった場合、会社から受け取る死亡退職金も非課税枠が同額適用されます。仮に配偶者と子ども2人の場合であれば、500万円×3人=1,500万円が相続税非課税限度額です。一例としてこのときに使う生命保険は、掛け捨ての終身保険になります。
生命保険には、少ない掛け金で大きな保障を得ることができるというレバレッジ効果があることが特徴です。掛け捨て型のため、貯蓄型の保険より死亡保障が多くなるでしょう。例えば役員退職慰労金規定を事前に作成して金額も適正な範囲内で設定、亡くなった時点で1,500万円の死亡保険金を会社がいったん受け取れるよう設計しておきます。契約者、被保険者、受取人の対象は以下の通りです。
契約者 | 法人 |
---|---|
被保険者 | 父である会長 |
受取人 | 法人 |
同時に死亡退職金を会社から法定相続人に支給します。こうすることで少ない掛け金で法人から個人への資産が移動できます。
暦年贈与
キャッシュリッチな企業オーナーが考えたい相続税対策におけるオーソドックスな手法は「生前贈与」です。なかでも暦年贈与は定番ともいえる方法でしょう。暦年贈与とは1年間で受け取った財産の合計が110万円までは贈与税がかからないというものです。多額の財産がある場合は暦年贈与の範囲内で贈与を行っても相続時の税金を回避するのは容易ではありません。しかし年月をかけてコツコツと活用することでまとまった財産を非課税で贈与することが可能です。
ただ贈与税は相続税より高い税率で知られています。そのため税務署から暦年贈与が認められなかった場合は高額な贈与税が課税される可能性がある点は注意が必要です。それをしっかり回避するのに有効なのが生命保険を使った贈与です。本来であれば贈与の都度「贈与契約書の作成」が必要になります。しかし生命保険の活用はその手間を省く方法ためにも有効な手段です。
贈与として税務署から認められないのはどんなケースでしょうか。
定期贈与
例えば子ども2人に「10年間、毎年100万円を贈与する」といった契約書を作成して贈与すれば生前に2,000万円の資産を移転することが可能です。暦年贈与は年間110万円までは非課税になるため毎年100万円ずつの贈与であれば一見何の問題もないように感じるかもしれません。しかしこのケースだと税務署は、10年間資産を移転することを事前に契約することが決まっていると判断します。
そのため初年度に総額1,000万円を贈与する契約とみなされ、1,000万円に対して贈与税がかかってしまうケースがあります。1,000万円を贈与した場合の贈与税は(1,000万円-基礎控除110万円)×30%-90万円=177万円になります。非課税のつもりが177万円も納税が必要になってしまっては本末転倒です。
終身保険で贈与の意思確認の手間を省く方法
贈与の意思確認を省くには解約返戻金がある終身保険を使う方法があります。以下の具体例で比較を確認してみましょう。
家族構成 | 父(65歳)、母(63歳)、長男(33歳)、長女(30歳) |
---|---|
相続財産評価額 | 父名義現預金7,000万円 |
相続税の基礎控除 | 4,800万円(3,000万円+600万円×3人) |
上記の家族で父が亡くなった場合、相続税は7,000万円-4,800万円=2,200万円に対してかかります。相続税を0にするためには、基礎控除前の課税遺産評価額を2,200万円減額することが必要です。2018年の60歳男性の平均余命は、23.84年ですので仮に20年贈与を続ければ110万円×2人×10年=2,200万円が移転できます。
ただし20年後に父が亡くなった場合、相続発生前3年分は持ち戻しとなるため最後の660万円は、相続財産です。贈与だけで相続税対策をするのは非常に時間がかかり「いつまで生きるか分からない」という不確定要素もあることが理解できるのではないでしょうか。ここで契約関係が以下の内容の積立終身保険に父親から贈与を受けた毎年110万円相当を保険料として払い込みした場合を考えてみましょう
契約者 | 子ども |
---|---|
被相続人 | 父 |
保険受取人 | 子ども |
13年目の解約返戻率が102%と仮定します。13年目に払済保険とすると110万×13年×2人=2,860万円-660万円(持ち戻し分)=2,200万円となり相続税が0となります。また満期時点で102%となるので、その時点で受け取れば1人あたり約28万6,000円のプラスです。この場合、2人の子どもに所得税(一時所得)がかかるかどうかを考える必要があります。これを計算すると以下の通りです。
・(解約返戻金約1,459万円-累計保険料1,430万円-一時所得50万円控除)×2分の1=0円
このように贈与契約書を作成することなく終身保険に加入することで手取りも増えて相続税も所得税もかからないという方法も取れるのです。
生前贈与と生命保険うまく活用して相続税対策をしよう
法人保険と終身保険を使った相続税対策を見てきました。これらは、生命保険を使った相続税対策の2例であり、他にもさまざまな保険を使って対策が取れます。相続税対策のラストリゾートは、生命保険なのです。(提供:YANUSY)
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