相続税の申告が必要となった場合など、その計算方法は知っておきたいものです。今回は、具体的な相続税の計算方法、また相続税自体について詳しく解説します。

相続税,計算方法
(画像=PIXTA)

どのぐらい財産があると相続税の申告が必要?

相続税の申告をしなければいけない人は、いったいどのくらいの割合なのでしょうか。国税庁の資料によると平成30年に亡くなった人で相続税の申告が必要な人は全国平均では8.3%となっています。大体12人に一人の割合です。しかしながら東京都に限った場合13.6%となっており,だいたい7人に一人が申告が必要となっています。その理由としては、何と言っても都内は土地の値段が高いのが大きな理由です。そのため、東京都内で戸建などを保有していると相続税の申告対象者となる可能性が高くなります。

実は平成26年までは、相続税の申告が必要な人は4%を少し超えるぐらいでした。これは税制改正により平成27年より相続税の基礎控除の引下げの改正があったためです。

それまではたとえば相続人が3人であった場合,基礎控除額が5000万円+1000万円×3人となり,基礎控除額は8000万円でした。しかし、平成27年からは基礎控除が6割に圧縮され、平成27年以後は基礎控除3000万円+600万円×3人=4800万円と基礎控除額が大幅に縮小されることとなりました。 逆に言うと、相続財産が基礎控除額以下であれば,相続税の申告は必要ありません。

相続税の対象財産と評価方法とは?

相続税はいったい何に対してかかるのでしょうか?

それは金銭的に価値があると見積もれるものが課税対象となります。主なものとしては現金預金,有価証券,土地建物となります。一般の会社員が相続人であると仮定して一般的な相続財産について確認してみましょう。

〇現金

現金の評価方法は手持残高となります。亡くなる直前に入院費用の支払いや当面のお金の引き出しなどで,多額な額を出している場合も多いため、病院などに支払い,手許にない場合でも,亡くなった日現在の現金残高をきちんと確認しましょう。

〇預金

預金は取引があった銀行に亡くなった日現在の残高証明書を取得しましょう。

またできれば,通帳も破棄せずにあるものは取っておき,あるものはすべて集めておいて下さい。たとえば子に対する贈与などがあった場合、亡くなった日から3年以内に贈与がある場合,相続税の課税対象となるためです。過去の通帳をさかのぼり大きな金額の異動がないか確認し、ある場合は内容を確認しておきましょう。税務署はこのあたりを注意深くみるため、不注意にしていますと相続税の調査で、過去の通帳の動きをもとに、贈与や名義預金などがないかよく確認しておいて下さい。

〇有価証券

上場株式は、亡くなった日の終値か,亡くなった月,前月,前々月の株価の平均額の内、一番低い額が評価額となります。

〇ゴルフ会員権

ゴルフ会員権の評価は亡くなった日における取引価格の70%となります。

〇土地

土地の評価額は、不動産屋で取引する通常の売買価格で評価するわけではありません。国税庁により土地の評価は定められており、土地の相続税評価額は、「路線価方式」又は「倍率方式」により計算します。

「路線価方式」とは、毎年7月初旬ごろ国税庁が発表します。これは国税庁のホ-ムペ-ジにて公表されているので、参考までに自宅の前の道路がいくらぐらいなのか、一度確認されてみてはいかがでしょうか。この路線価図には道路に金額が書かれてあります。これは㎡当たりの単価となっているため、たとえば自宅の前の道路が370と書いてあった場合、自宅が100㎡×370千円=37,000千円といった評価となります。またこの上で、土地の形状によりさまざまな評価減が適用される可能性があります。また,他人に土地を貸している場合などには一定の評価減があります。

また、土地は居住用や事業用で使用している、小規模宅地等の特例が使えます。

居住用は330㎡までであれば土地を80%評価減する事もできます。ただし、相続税の申告期限までに遺産分割が行われていないと適用できないため注意が必要です。

〇建物

建物は固定資産税評価額で評価します。貸している場合はその部分について30%の評価減があります。

みなし相続財産とは

相続財産には民法上の財産と、相続税法上のみなし相続財産があります。みなし相続財産とは、亡くなった時点では被相続人の財産ではないけれども、亡くなったことに起因して受け取る財産のことを言います。主なものとして生命保険金と退職手当金があります。生命保険金と退職手当金は一定の非課税枠が設けられております。

非課税財産って?

相続税法において一定の財産は非課税と定められており、たとえば次のようなものは非課税となります。

〇墓地や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝をしているもの
〇相続や遺贈により取得した財産で相続税の申告期限までに国や地方公共団体等に寄付をしたもの
〇生命保険金のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額
〇退職手当金等のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額
〇その他相続税法において定められたもの

債務、葬式費用はどうなるの?

〇借入金や病院への未払金、固定資産税や住民税などの債務は、亡くなった日現在である場合、プラスの相続財産から控除することができます。
〇また葬式費用は、亡くなった時点での非相続人の債務ではありませんが、亡くなったことにより必然的に発生する費用であるため、債務と同様にプラスの相続財産から控除することができます。

相続税の計算方法

ステップ1

では、これから具体的な相続税の計算方法を紹介します。

まず、上記に基づき、プラスの相続財産とマイナスの相続財産求めます。

プラスの相続財産からマイナスの相続財産と基礎控除を引いた金額が課税遺産総額となります。基礎控除とは3000万円+600万円×相続人の数です。

ステップ2

課税遺産総額を相続人の法定相続分で分けたものと仮定して相続税額を算出します。

各人が実際に遺産分割でもらった分ではなく、法定相続分として計算するのは、どのような遺産分割をしたとしても相続税の総額は、変わらないようにするためです。

たとえば相続人が妻、子2人の3人で課税相続財産が1億である場合、

妻(法定相続分1/2)5,000万円×20%-200万円=800万円
子(法定相続分1/4)2,500万円×15%- 50万円=325万円
子(法定相続分1/4)2,500万円×15%- 50万円=325万円

となり、被相続人に係る相続税の総額が1,450万円と確定されることとなります。相続税の税率は超過累進税率といい1,000万円以下であれば10%ですが、遺産が多くなるほど高くなり、1億円を超えると40%、3億円を超えると50%、6億円超は最高の55%の税率が適用されることとなります。

ステップ3

ステップ2により相続税の総額がでたところで、次は各人の相続税額を算出することとなります。上記では法定相続分による相続税額を求めたのですが、次は具体的に相続人の実際の財産取得の割合における各人の相続税額を求めます。

たとえば、相続があり、配偶者がいる場合は老後の生活資金等も考慮し、配偶者に多くするというのが一般的であるため、今回では仮に1億円の課税財産のうち妻が8,000万円、子がそれぞれ1,000万円相続したものと仮定して、各人の相続税を計算します。

妻 相続税1,450万円×8,000万円/1億円=1,160万円
子 相続税1,450万円×1,000万円/1億円=  145万円
子 相続税1,450万円×1,000万円/1億円=  145万円

これで、各人の具体的な相続税が算出されました。合計ですと1,450万円となります。

ステップ4

ステップ3により各人の相続税が確定しました。相続税には様々な税額控除があるのですが、次はそれに適用できるか確認してみます。税額控除には配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、贈与税額控除等があります。

今回は、配偶者がいるため、配偶者の税額軽減を適用します。配偶者の税額軽減とは今回で言えば法定相続分(1/2)の5,000万円か、1億6,000万円のどちらか多い金額までは相続税がかからないというものです。今回は8,000万円相続し、法定相続分より多くもらっておりますが、1億6,000万円までは達していないため、奥さんの税額軽減額は1,160万円となり、相続税額は0円となります。

これは配偶者の老後保障や、二次相続も遠くないうちに発生するであろう事も考慮され、配偶者には手厚く配慮していると言われています。

なお、申告期限までに遺産分割が確定されていない場合、この配偶者の税額軽減は使えないことに注意しましょう。申告期限は亡くなってから10ヶ月となっておりますが、あっという間に10ヶ月は来てしまいますので、49日を過ぎたあたりから、相続人同士で遺産分割について少しずつ話しあうことをおすすめいたします。

これにより具体的な相続税額は、

妻 相続税1,160万円-配偶者の税額軽減1,160万円= 0円
子 相続税145万円
子 相続税145万円

となりました。子供たちがそれぞれ145万円づつ納付し、納める相続税額は290万円となります。

まとめ

いかがだったでしょうか。相続税の計算の流れはだいぶ簡略化はしてありますが、上記のとおりとなります。都内に不動産を所有している場合などは、相続税の申告が必要となるケースも多いため、今のうちに準備できるものはしておくとよいでしょう。たとえば居住用宅地の特例が適用できるかどうかで相続税は大きく変わってくるため要件にあてはまるかチェックしておくとよいでしょう。また遺言として故人の意思が示されていると相続がスムーズに行くことが多いので、残された相続人のために遺言を残しておくことをおすすめします。