2015年の相続税改正により、相続税の課税対象になる人が増加した。2015年の課税割合(相続税の課税対象となった人の割合)は、全国で8.0%、都内で12.7%となり、それぞれ4%、7%前後で推移していたのが一気に2倍近くに増えた模様だ。

しかし、その割には相続税そのものは増加していない。2014年1兆3908億円だったのに対し、2015年は1兆8116億円にとどまった。つまり、課税対象者は増えても、そのほとんどが「相続税ゼロ申告」だったということだ。

ゼロ申告増加の理由は、相続税の基礎控除の額の変更から推測できる。同時にこんな様子もうかがえる。ゼロ申告者たちは、相続税をきちんと勉強している。そして、彼らは皆、オトクな制度の存在を知っているのと同時に「トクするためには申告しないといけない」ことを理解しているのだ。

基礎控除額の変更から推測する「改正で課税対象になった世帯の資産状況」

相続税,申告
(写真=PIXTA)

ゼロ申告が増加した背景は、基礎控除額の変更を見ていくとイメージがわきやすい。改正による基礎控除額の変更は次のようになっている。

改正前:「5000万円+1000万円×法定相続人の数」

改正後:「3000万円+600万円×法定相続人の数」

相続人が妻1人、子ども2人の場合の基礎控除額は、改正前なら8000万円であったのが、改正後は4800万円となる。4800万円から8000万円未満の資産となると、通常は土地付き建物に有価証券、老後資金くらいだ。ここから、相続税のオトクになる制度の適用を受ければ税額ゼロになるであろう世帯が多いことが推し量れる。

ここで、人によってはこう思うかもしれない。「相続税ゼロならわざわざ申告なんてしなくてもいいじゃないか」。ここが、相続税の分かりにくい点であり、怖いところでもある。

「納税義務がない」と「相続税ゼロ」は意味が異なる

「資産総価額が基礎控除額以下による相続税ゼロ」と「相続税のオトクな制度を使えば相続税ゼロ」では意味が違う。前者は課税対象者ではない、つまり納税義務がない。そのため、最初から申告しなくてもいいのだ。しかし後者の場合、資産総価額そのものが基礎控除額を超えているため、納税義務が発生している。

そして、制度の適用を受けることでやっと税額がゼロになるのだが、「ほら、私の相続税額はゼロですよ」と税務当局に言うためには、申告書でその一部始終を書いて示さなくてはならない。つまり、基礎控除額を超えたなら、申告という手間をかけないと、税額はゼロにならないのだ。

「申告しないと税額ゼロにならない」制度には、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減の2つがある。

申告しないと適用を受けられない制度①~小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅や被相続人の事業に使用していた宅地に関して評価減を行うものだ。いずれも相続人の生活基盤となる資産であるため、相続税の犠牲にさせないための法律上の配慮である。小規模宅地等のカテゴリーと評価減割合は次のようになる。

「特定居住用宅地」:被相続人が住んでいた自宅の土地や被相続人の生計同一親族が住んでいた宅地……330㎡まで80%

「特定事業用宅地」:被相続人が事業を営んでいた宅地や被相続人の生計同一親族が事業を営んでいた宅地……原則として400㎡まで80%
「特定同族会社事業用宅地」:被相続人が過半数の株式を保有していたオーナー会社の事業に用いられていた宅地……原則として400㎡まで80%

この特例を使えば、時価8000万円の土地であったとしても、相続税の課税価格計算上は1600万円になる。

さきほどの妻1人、子ども2人のケースの場合、仮に住宅の土地が4000万円だったとする。本来ならこれが税金計算上のベースの評価額となるが、特定居住用宅地等の要件を満たしているのならば、評価額は80%減の800万円となる。もし、この800万円が他の資産と合わせて基礎控除額4800万円以下なら、相続税はゼロだ。80%の恩恵は大きいのである。

ただ、小規模宅地等に関する特例の適用を受けるならば、宅地の所在地や面積などを記載した計算明細書を申告書に添付し提出しなくてはならない。

申告しないと適用を受けられない特例②~配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減も、「申告しないとオトクにならない」制度のひとつだ。配偶者の税額軽減とは、配偶者が財産を相続した場合、法定相続分か1億6000万円のいずれか多い方の金額まで税金がかからないというものだ。被相続人の配偶者は、被相続人の財産形成に大きく寄与している上、その相続後の生活の維持という観点などからこのような制度がもうけられている。

先ほどの妻1人、子ども2人のケースで、正味の遺産総額が1億円だったとしよう。基礎控除額が4800万円なので、課税遺産総額は1億円‐4800万円=5200万円となる。

配偶者の相続分は2分の1、子どもそれぞれは4分の1なので、配偶者2600万円、子どもそれぞれ1300万円となる。相続税率を乗じると、それぞれが納めるべき相続税額は次の金額になる。

配偶者:2600万円×15%-50万円=340万円
子ども:1300万円×15%-50万円=145万円
子ども:1300万円×15%-50万円=145万円

ここで配偶者の税額軽減を適用すると、この配偶者の納付すべき税額340万円がまるごとゼロになる。一見、配偶者がすごくトクしているように見えるが、いずれ配偶者の相続で再び子どもたちは納税することになる。そして、配偶者は被相続人と同世代なので、その相続が遠くない将来であることは想像に難くない。

ただ、この税額軽減も、申告期限までに申告書を提出しないと適用を受けられない。

申告書提出までに分割が終っていることも条件

さらに、こういったオトクな制度は申告書を単に提出すればよいというものでもない。申告書提出までに遺産分割が終っていないと、これらの制度は使えない。

とはいえ、相続発生(被相続人の死亡)の日から10カ月以内に話をまとめて分割して申告するのはなかなか難儀だ。申告書提出するのが先になるケースもあるだろう。申告後に分割が行われ、上記制度の適用を受けてトクしたい場合には、更正の請求を行えばよい。ただし、これにも期限があり、上記制度の適用は、申告期限後3年以内の分割に限られる。

相続税増税時代になり、相続税の知識を身につけている世帯も多いことだろう。「いかにトクするか」を学ぶことはいいことだが、「トクする場合はかならず手間をかけないといけない」という原則を念頭において学んでほしい。

そしてもっとも節税につながるのは、家族の風通しがよく、話し合いができていることだ。いくら知識を身につけても、考えているのは自分ひとりだけで、争族になりやすい雰囲気なら意味がない。まずは、家族内の意志疎通を図ること、そして早めに遺産分割などについて話し合っておくことが最善の策となる。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年税理士登録。現在、外国人の日本国内での起業支援に従事。会計や税金、数字に関する話題についての記事執筆を行う。税金や金銭、経済的DVにまつわる心理についても独自に研究している。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。ブログ「 税理士がつぶやくおカネのカラクリ

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