相続税は、他の税金に比べ国による制度の差が大きく、税率の差も大きい。あくまで理屈上の話ではあるが、多くの経済専門家たちの間では、相続税を無税にすべきだとか、100%にすべきだとか極端な話が繰り広げられている。

相続税は、なんとなく遺産に対してかかる税金だと、多くの人は知っていると思うが、詳細な計算方法のアウトラインについて周知がされていない。この記事では、相続税の計算方法について見ていきたい。

内山瑛
内山瑛
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研さんを積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

なぜ相続税があるのか

相続税
(画像=PIXTA)

・相続税の課税根拠とは

相続税は死亡した人、つまり被相続人の財産を相続や遺贈により取得した配偶者や子どもなどの相続人等に対して、取得した財産の価額を基礎として課税される。財産が家族の中で移転するだけなのに、なぜ税金がかかるのか。それには相続税の機能を考える必要がある。

まずは所得税の補完機能だ。所得税は毎年の所得に対して課税されるものだが、あくまで毎年の課税所得に対して計算されているため不完全なものである。そのような不完全な制度に起因して蓄積された財産を相続開始の時点で清算するといった機能がある。

また富の再分配機能を果たしているとも考えられている。相続で取得する財産は不労収入の最たるものである。相続税がなければ資産家の家族は常に資産家であり、生まれによって生活が確定してしまう不公正な社会になってしまうだろう。そのような財産保有状況の均衡を図りつつ、富の集中を抑制するために相続税が存在するのである。

相続税の計算方法

・法定相続人の確定

相続税を計算するには、まず法定相続人の数を確定させる必要がある。法定相続人の数によって、基礎控除額、生命保険金の非課税限度額、死亡退職金の非課税限度額、最終的な総額の計算過程に影響が出てくる。

法定相続人の数については、民法上の法定相続人の範囲と異なる部分があるので、注意する必要がある。被相続人に養子がいる場合、養子は全員法定相続人であり財産を受け継ぐ権利がある。そうすると養子をとることによる無制限な節税ができてしまうため、法定相続人の数の計算では、養子の数が一定数に制限されている。

具体的には、被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと制限されている。ただし特別養子縁組による養子など特殊な事情がある場合は、制限がかからないケースもあるので、個別に確認する必要があるだろう。

・正確な遺産の把握

相続税は原則として死亡した人の財産を相続遺贈で取得した場合、取得した財産に課税される。この場合の財産とは現金、預貯金、有価証券、宝石、土地などのほか、貸付金、特許権、著作権など、金銭的に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいう。基本的には遺産分割協議の対象になるものはすべて含まれると思って差し支えない。

遺産分割協議に含まれないものであっても、相続税法の規定により相続税の対象となるものがある。死亡退職金や被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金、また確定拠出年金の死亡一時金、被相続人が亡くなる前の3年間に被相続人から相続人に贈与された財産(110万円の基礎控除以内の同意についても相続財産に含まれる)などだ。

ほかにも、相続時精算課税を適用した贈与財産、定期金給付契約により保険会社等から定期的に受け取ることができる定期金や退職年金、被相続人から生前に贈与を受けて、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地、非上場会社の株式や事業用資産など、相続税の課税対象となるものが複数存在する。

・遺産額から負債、基礎控除等を差し引き計算

遺産額が確定したら、先ほど計算した遺産の金額から負債や基礎控除額等の各種控除を差し引く。

最初に、各種特例による非課税枠を控除していく。代表的なのは生命保険の死亡保険金の非課税枠、退職手当金の非課税枠だ。どちらも「500万円×法定相続人の人数」で計算される。

その後に負債を差し引く。負債の代表的なものとしては、金融機関に対する借入金や住民税や固定資産税の未払金、医療機関への医療費の未払金などがある。住民税や固定資産税に関しては1月1日時点で全額課税されることになっているため、支払期限が到来していなくても当該金額を差し引くことができる。

また一定の葬儀費用も控除できる。葬儀費用については、控除できるもの、できないものが細かく定められている。ざっくりとした表現にはなるが、3日目の葬儀までの葬儀費用については控除ができ、それ以降のものは控除できないと考えてよい。

神社や寺などへの支払いは領収書が出ないことも多いが、その場合は支払金額と支払先を記載したメモなどで代替することが可能である。

これらの控除額を引いた金額からさらに基礎控除を引く。基礎控除の金額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」で計算される。法定相続人が3人の場合、「3000万円+600万円×3人」で、4800万円になる。

・法定相続分で相続したと仮定し各相続人へ分配

ここからが相続税法の税金計算の肝である。なぜなら、実際の相続分で計算するのではなく、法定相続分で相続したと仮定して各相続人にまず分配するのである。遺産の分け方により相続税の総額が変わってしまう場合、税金対策のために相続税財産の分け方を変えてしまうからである。税金のせいで相続遺産相続が歪められてしまっては税の中立性が害されてしまうという観点から、このような計算方法となっている。

例えば配偶者と子ども3人が法定相続人として想定される場合、配偶者が1/2、子どもがそれぞれ1/2×1/3の1/6ずつ相続したと仮定して計算される。

・相続税総額を計算

上述の仮定のもと、それぞれの相続人に仮に配分された金額に税率をかけて、それぞれの相続人の仮の相続税を計算する。相続税は累進課税となっており、1000万円以下は10%、3000万以下は15%、5000万円以下は20%、1億円以下は30%、2億円以下は40%、3億円以下は45%、6億円以下は50%、6億円以上は55%となっている。

よくある誤解として、遺産総額がこれらの金額以上の場合、それぞれの税額が適用されると思っている人が多いが、違う。相続税の計算の部分で判定するため、各相続人に仮に配分される金額がこれらの金額を超えているかどうかになり、遺産総額に税率をかけた場合よりも、正しく計算された実際の税額のほうが大きく下がることが多い。

・計算した相続税総額を、実際に各相続人の相続割合で分配

ここまで計算された金額を、各相続人が受け継いだ遺産の純額の金額に比例して分配する。その後、属人的な控除が適用されることになる。

代表的なものは配偶者の税額の軽減である。被相続人の配偶者が、遺贈により取得した正味の遺産額が1億6000万円か配偶者の法定相続税相当額のいずれか多い金額までは配偶者に相続税かからないという制度だ。

配偶者の税額の軽減に関してよくあるのが、配偶者以外が相続した金額が基礎控除の金額以下であれば、相続税がかからないのではないかという誤解である。この段階で配偶者の税額の軽減が適用されるため、基礎控除以上の金額の遺産がある場合は、配偶者以外が少しでも遺産を承継すれば、その部分に関しては相続税が課税されることになる。

また配偶者の税額の軽減によって税額がゼロになる場合、例えば正味の遺産額が1億6000万円以下で全額を配偶者が相続する場合もあるが、この場合も相続税の申告が必要である

配偶者の税額軽減以外の属人的な税額控除としては、未成年者の税額控除や障害者の税額控除がある。

未成年者の税額控除は、相続人が未成年者のときは相続税の額から一定の金額を差し引ける制度である。国籍要件や居住地要件などが複雑だが、原則として日本に住んでいる日本人であれば20歳未満の法定相続人が財産を相続した場合、その未成年者が満20歳になるまで1年当たり10万円の金額が控除される。

なお、この「1年」について端数は切り下げて計算する。未成年者の税額控除額がその未成年者本人の相続税額より大きいため、控除額の全額が引ききれない場合は、引ききれない金額を未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引く。ただしこの未成年者が今回の相続以前にも未成年者の税額控除を受けている場合、控除額が制限されることがあるので注意されたい。

障害者の税額控除とは、相続人が満85歳未満の障害者のときに相続税の額から一定の金額を控除できる制度だ。障害者の税額控除が受けられるのは日本国内在住で法定相続人である障害者である。

障害者の税額控除の額は、その障害者が満85歳になるまでの1年につき10万円、特別障害者については1年につき20万円を差し引くことができる。障害者の税額控除の金額がその障害者の相続税額より大きいため控除額の全額が引ききれない場合は、引ききれない部分もその障害者の扶養義務者の相続税額から差し引く。ただし未成年者の税額控除と同様、その障害者が今回の相続以前の相続において障害者の税額控除を受けているときは控除が制限されることがあるので注意されたい。

公認会計士・内山瑛