相続時における土地の評価は、税理士試験などの資格試験でも頻出論点である非常に込み入った話である。多くの相続では土地が絡んでおり、土地の評価いかんによって、相続税がかかったりかからなかったり、また思ったより高くかかってしまったりするなど、極めて影響が大きい。

現金などと異なり、相続人が考える実際の価値と評価額にかなり開きがあり、トラブルの元になりやすいのも土地の特徴だ。今回は相続税における土地の評価について見ていきたい。

内山瑛
内山瑛
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研さんを積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

相続税における土地の評価方法とは?

相続税の土地評価
(画像=PIXTA)

・相続税における土地の評価と固定資産税における土地の評価

よくある勘違いが、毎年市役所や町村役場から送られてくる固定資産税評価通知書に記載されている金額が土地の評価額であるという点だ。土地には値札が付いているわけではないため、さまざまな価格がある。

実際に土地を取引する場合でも、誰と誰が取引するかによって金額が変わることがある。固定資産税と相続税では趣旨が違うので評価額も変わってくる。

公的な土地の評価について均衡と適性が図られるよう努めるという土地基本法の趣旨を踏まえ、相続税においては地価公示価格の8割程度、固定資産税においては同じく7割程度めどに評価を行っている。

つまり通常固定資産税における評価額のほうが低くなるのである。しかし、必ずしもこの比率で定められているわけではない。相続税は税務署が、固定資産税は自治体が目的に応じて、それぞれの制度に基づいて算定している。またそれぞれの算定価格に大きな差異が生じないように情報交換も行われている。

よくある誤りとして、固定資産税評価通知書に基づき金額を積算したときに相続税の申告が不となった場合でも、相続税の財産評価基本通達に基づき計算した際に相続税の申告義務がある場合もあるので注意が必要だ。

・路線価方式

相続税における土地の評価方法は、路線価方式と倍率方式の主に2つだ。ここでは路線価方式について見ていこう。

路線価方式とは、主に市街地の宅地で用いられている評価方法だ。路線価とは道路に1㎡当たりの評価額がついており、どの道路に面しているかによって土地の値段を定める方法だ。

ある土地の路線価を調べるには、路線価図を確認する必要がある。路線価図は国税庁のホームページで公開されているので、誰でも簡単に調べられる。固定資産税における路線価は3年に1回しか改定されないのに対し、相続税における路線価は毎年1月1日を基準に国税局長が決定し、夏頃に公表される。

前述のとおり、路線価の水準はその年の土地の公示価格の約80%とされている。路線価は相続税のほか、贈与税の計算でも活用される。また道路に面している土地であっても、形や接道の方法はさまざまで、それによって評価が変わることになる。

路線価方式では、算定された路線価を基礎としてさまざまな補正を行っている。宅地の奥行きに応じた奥行価格補正率や、宅地の道路への接し方によって側方路線影響加算や二方路線影響加算などの各種の調整率を使って評価額を調整する。これらの各種調整率はその宅地の地区区分によって定められている。

・倍率方式

倍率地域の土地については、固定資産税評価通知書に記載された評価額を基礎として計算する。

倍率地域は地方に多く、1㎡当たりの評価額も低いことが特徴だ。宅地以外にも、農地や山林など路線価地域に比べ、地目もバリエーションに富んでいる。

ただし固定資産税評価通知書に記載された金額がそのまま評価額となるわけではない。路線価図と同じように国税庁のホームページに評価倍率表が公表されている。評価倍率表では、その土地の存在する地域および地目によってさまざまな倍率が定められている。

通常、固定資産税評価において、宅地は高く、農地や山林は低く算定される。固定資産税の課税の趣旨および政策的な配慮から生じるものであるが、相続税の課税においてはこれをならさなければならない。そのため地目によって異なる倍率を掛け合わせることになっているのだ。

小規模宅地の特例とは?

土地の相続税評価における最も重要な特例としては、小規模宅地等の特例が挙げられる。個人が相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前に被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用または居住の用に供されていた宅地等のうち一定のものがある場合は、その宅地のうち一定部分の面積については相続税の課税価格に算入するべき額の計算上、一定割合で減額する制度だ。

つまり一定の要件に該当する土地を相続した場合は、その土地の評価額を一定限度安くするという制度である。

減額の割合はさまざまだが、特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等、特定居住用宅地等については最大8割減、貸付事業用宅地等については最大5割減と大きな減額がなされている。

ただし、一定の面積制限があり、特定事業用宅地等については400㎡、特定居住用宅地等については330㎡、貸付事業用宅地等については200㎡が限度となっている。併用する場合も一定の計算式に基づき限度面積が計算されるが、計算が複雑になるため割愛する。以下でそれぞれの適用要件について見ていきたい。

・特定事業用宅地等

特定事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人の事業の用に供されていた宅地等で、一定の要件に該当する親族が相続または遺贈により取得したものをいう。

典型的なものとしては、個人商店がある土地を相続した場合だ。一定の要件とは、まず被相続人自身の事業の用に供されていた宅地の場合、土地を相続した者がその宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつその申告期限までその事業を営んでいることが必要である。また、その宅地等を相続税の申告期限まで有していることも必要だ。

相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業に利用されていた宅地等の場合、例えば配偶者の事業の用に供されていた宅地などが考えられる。この場合にも相続開始の直前から申告期限までその宅地の上で 事業を営んでいること、またその宅地等を相続税の申告期限まで有していることが必要だ。

・特定同族会社事業用宅地等

相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業の用に供されていた宅地等で、一定の要件に該当する被相続人の親族が相続または遺贈により取得したものをいう。

一定の法人とは相続開始の直前において被相続人および被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数または出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人をいう。一定の要件とは、その土地を受け継いだ相続人が相続税の申告期限に、その法人の役員であり、相続税の申告期限までその宅地を有していることである。

典型的なものとしては、個人所有の土地の上に同族会社が建物を建て、土地を借りて事業を行っている場合などが想定されている。特定事業用宅地等また特定同族会社事業用宅地等は事業承継を円滑に進めるためにもぜひ利用したい特例だ。

・特定居住用宅地等

特定居住用宅地等は、最もこの中では該当する場合が多いのではないかと思われる。これは、相続開始の直前に、被相続人等の居住の用に供されている宅地等で一定の要件に該当する被相続人の親族が相続または遺贈により取得したものをいう。なお、その宅地等が2以上ある場合は主として居住その居住の用に供していた宅地等に限る(複数の場所に居住していたとしても1ヵ所のみ)。

特定居住用宅地等の要件は細かく規定されており、被相続人の居住の用に供されていた宅地の場合、取得者が被相続人の配偶者だと特段の要件はないが、被相続人の居住の用に供されていた建物に居住していた親族、つまり同居親族については、相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつその宅地等を相続税の申告期限まで有している必要がある。

またそれ以外の親族が取得した場合は、非常に細かい条件が規定されているので適用を予定している場合は税理士などに事前に相談しておくとよいだろう。

相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等の場合は、被相続人の配偶者が取得した場合は特段の要件はない。ただし被相続人と生計を一にしていた親族が取得した場合は、相続開始前か相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住しかつその宅地等を相続税の申告期限まで有している必要がある。この場合、それ以外の親族は特例を受けられない

・貸付事業用宅地等

相続開始の直前に、被相続人等の貸付事業、つまり不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業などの用に供されていた宅地等で一定の要件に該当する被相続人の親族が相続または遺贈によって取得したものをいう。被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等については、取得した者がその宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎかつ、その申告期限まで貸付事業を行っていること、またその宅地等を相続税の申告期限まで有していることが必要だ。

また被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等については、相続開始前から申告相続税の申告期限までその宅地等に係る貸付事業を行っていることと、その宅地等を相続税の申告期限まで有していることが必要だ。