相続はいつか誰もが経験することである。にもかかわらず、実際に相続税の申告をしたことがある人を除いて、いつまでに誰が手続き行わなければならないかなど、意外と知られていない。ここでは、相続税の申告期限を中心に、相続税の納付期限や間に合わなかった場合の対応など、詳しく説明したい。
相続税の申告期限に関するQ&A
タイムリミットはいつか?
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなって10ヵ月以内である。正確には、相続が開始した日の翌日から10ヵ月までだ。被相続人が2020年2月1日に亡くなった場合、2020年12月1日までということになる。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなって10ヵ月以内である。正確には、相続が開始した日の翌日から10ヵ月までだ。被相続人が2020年2月1日に亡くなった場合、2020年12月1日までということになる。
誰が、いつ、どこに申告するのか?
申告は相続によって財産を得た人が行うことになる。ただし、相続人が2人以上いる場合は、1通の申告書に相続財産を取得した相続人全員が記載する必要がある。提出先は、被相続人が死亡時に住んでいた住所地を管轄する税務署である。
申告は相続によって財産を得た人が行うことになる。ただし、相続人が2人以上いる場合は、1通の申告書に相続財産を取得した相続人全員が記載する必要がある。提出先は、被相続人が死亡時に住んでいた住所地を管轄する税務署である。
期限に間に合わせるための申告書の記載方法とは?
相続税の申告書は記載する書類、箇所が多いため、できるだけ早めに申告書を入手しよう。国税庁のホームページからダウンロードできるほか、税務署でも入手できる。相続財産や相続人も早めに確定させる必要がある。
相続税の申告書は記載する書類、箇所が多いため、できるだけ早めに申告書を入手しよう。国税庁のホームページからダウンロードできるほか、税務署でも入手できる。相続財産や相続人も早めに確定させる必要がある。
相続税の申告期限はいつか?
相続税の申告期限は、「相続の開始があったことを知った日」の翌日から10ヵ月以内だ。
申告をする前に相続人が亡くなってしまったときは、代わりにその相続人が「相続の開始があったことを知った日」の翌日から10ヵ月以内に申告する。(相続税法第27条第1項、第2項)
●「相続の開始があったことを知った日」とは
「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日のことである。
一般的には「亡くなった日=相続の開始があったことを知った日」となることが多いが、そうならない相続人や受遺者(=遺言によって財産を取得した人)もいる。
こうした場合、通達では「相続の開始があったことを知った日」を次のように扱うとしている。ここでは、把握しやすいように、一部の状況説明について、被相続人をA、相続人らをBやCとして補足している。
状況 | 相続の開始があったことを知った日 | |
1 | 失踪の宣告を受け死亡したとみなされた者の相続人や受遺者 | 失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日 |
2 | Aの相続開始後、Aの相続人Bについて失踪の宣告があり、Bの死亡したとみなされた日がAの相続開始前であることにより相続人となったC(例:Bの代襲相続人など) | 失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日 |
3 | Bの失踪宣告の取消しがあったことによりAの相続人となったB(例:Aの死後、所在不明だったBが現れるなど) | 失踪の宣告の取消しに関する審判の確定のあったことを知った日 |
4 | 認知の訴えによる裁判や相続人の廃除の取消しの裁判の確定により、相続開始後において相続人となった者 | 裁判の確定を知った日 |
5 | 相続人の廃除の裁判の確定により相続開始後に相続人になった者 | 裁判の確定を知った日 |
6 | 相続においてすでに生まれたものとみなされる胎児 | その法定代理人が胎児の生まれたことを知った日 |
7 | 相続開始の事実を知ることのできる弁識能力がない幼児等 | その法定代理人が相続の開始のあったことを知った日 |
8 | 遺贈によって財産を取得した受遺者 | 自己のために遺贈のあったことを知った日 (受遺者が相続人のとき、このルールはない) |
9 | 停止条件付の遺贈によって財産を取得した受遺者 | その条件が成就した日 (受遺者が相続人のとき、このルールはない) |
被相続人から相続時精算課税で贈与を受けている人で、これらの状況があてはまるとしても、「相続の開始があったことを知った日」は、被相続人が亡くなったことを知った日になる。(相続税法基本通達27-4)
なお、これらに該当しない他の相続人や受遺者は、それぞれ自己のために相続の開始があったことを知った日で申告期限を判断する。
ただし他の相続人や受遺者についても、申告期限の直前に相続人が変わるような状況があれば申請によって申告期限を延長できる場合がある。詳しくは「相続税の申告期限の延長を申請できるケース」で解説する。
●「翌日から10ヵ月以内」とは
「相続の開始があったことを知った日」の「翌日から10ヵ月以内」とは、暦上の10ヵ月後の応答日をいう。
<具体例>
・相続開始のあったことを知った日が1月10日のときの申告期限→11月10日
・相続開始のあったことを知った日が4月30日のときの申告期限→翌年2月末日
申告期限が土日祝日に当たるときは、その翌日が期限となる。
「10ヵ月以内」と聞くと、十分な時間があるように思えるが、相続財産や相続人の確定、相続放棄の期限(3ヵ月以内)などを考えれば、意外と時間は少ない。期限内に申告書、添付書類を提出できるように、綿密な準備をしておかなければならない。
相続税の納付期限はいつか?
相続税の納付期限は、申告期限と同じである。つまり被相続人が死亡した翌日から数えて10ヵ月以内だ
納付は、相続人全員分をまとめて支払うのではなく、相続人が個別に行う。納付先は、税務署や金融機関、郵便局の窓口などである。
基本的に、相続税は現金一括で支払う。現金以外の財産あるいは分割で支払うことは原則として認められていない。
相続税の期限を過ぎたときのペナルティとは?
期限内に相続税の申告、納付をしなかった場合には、延納税が課されることになる。
延納税の利率は、年月日によって異なる。例えば、2018(平成30)年1月1日から2020(令和2)年12月31日の3年間を対象とした延滞税の率は、以下のとおりである。
・納付期限の翌日から2ヵ月を経過する日まで……2.6%
・納付期限の翌日から2ヵ月を経過する日の翌日以後……8.9%
相続税の納付期限から2ヵ月内にすべて納めるか、2ヵ月を超えても滞納しているかによって延滞税の利率は大きく異なる。
相続税の期限を延長できるケース
相続税の申告は、基本的に期限の延長は認められない。被相続人が亡くなって10ヵ月以内には、相続税の申請を行わなければならない。ただし例外がある。天災などの不可抗力によって、物理的に申請できない場合だ。まずは、どのような場合に申請の延長が認められるか確認しておこう。
●災害その他やむを得ない理由がある場合
相続税に限らず、国税は「災害その他やむを得ない理由」が生じているため申告できないとき、申請によって申告期限を個別に延長することができる。(国税通則法第11条)
延長後の申告期限は、その理由のやんだ日から2ヵ月以内で指定される。
●新型コロナウイルスによる申告期限の延長
国税庁のFAQによると、新型コロナウイルスの影響によって、以下のことが起きた場合は前項の「やむを得ない理由」にあたるとしている。
・体調不良により外出を控えている
・平日の在宅勤務を要請している自治体に住んでいる
・感染拡大により外出を控えている
新型コロナウイルスに関しては、申告が困難であれば、これらの場合に限らず申告期限の延長を個別に認めるという柔軟な対応がとられている。
新型コロナウイルスによる相続税の申告期限の延長を申請するときは、申告書を提出する際、その余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載する。e-Tax利用者は、「相続税の申告書等送信票」の「特記事項」欄にその旨を入力する。このとき、相続税の納期限は申告書を提出した日となることに注意が必要だ。
国税庁:「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」問3
●申告期限の直前に認知などがあった場合
例えば、子どもの認知の訴えなどによって、申告期限の直前に相続人が変わるようなケースがある。そのような事由が生じた日後1ヵ月以内に相続税の申告期限がやってくる場合は、相続人や受遺者の申請によって、その事由が生じたことを知った日から2ヵ月の範囲内で申告期限を延長することができる。(同通達27-5)
申告期限の延長を申請できるのは、主に次の事由が発生した場合である。
・認知や相続人の廃除・取り消しの裁判が確定したことによって相続人が変わった
・相続回復請求や相続放棄の取り消し等によって相続人が変わった
・遺留分の侵害による支払い額が確定した
・遺贈にかかる遺言書の発見や遺贈の放棄があった
・上述の「相続の開始があったことを知った日」のケース2や6があった
など
延長期限は、「申請することができないやむを得ない理由」が止んでから2ヵ月以内となる。ただし、相続税の申告期限後に申告書を提出すれば、その提出日が納税の期限となる。よって、申告書の提出前に納税すれば、滞納税がかからない。
相続税の納付期限までに支払えないときには?
前述のように、相続税は現金一括払いが基本である。しかし、相続財産のうち、大部分を不動産が占める場合、つまり現金が極端に少ないケースでは、期限を延ばして納税する「延納」という方法や不動産などを現金の代わりに納税する「物納」という方法がある。
延納は、相続税を分割して5~20年かけて支払う方法である。この場合、本来の相続税に加えて、ローンの利息に当たる「利子税」という税金が加算される。ただし延納は無条件に認められるものではなく、以下の4つの条件を満たさなければならない。
1. 相続税額が10万円を超えること
2. 金銭で一度に納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
3. 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。なお、延納税額が50万円未満で、延納期間が3年以下である場合、担保は不要である
4. 相続税の申告期限(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して、税務署長に提供すること
延納のための担保として提供できる財産は、以下の6つである。
1. 国債および地方債
2. 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
3. 土地
4. 建物、立木、登記された船舶などで保険に附したもの
5. 鉄道財団、工場財団などの財団
6. 税務署長が確実と認める保証人の保証
これらの担保は、相続や遺贈で取得した財産に限定されない。相続人が元々所有していた財産、共同相続人や第三者が所有している財産でも構わない。ただし、担保にふさわしくない財産や必要な担保額を満たしていない財産は、担保として認められない。
一方、物納は相続税を現金で納税する代わりに、有価証券や土地などで納税する方法である。延納を選択しても、現金で納税することが困難な場合は、納税者の申請によって、納付困難な金額を限度として、認められる。
なお、物納できる財産は、相続や遺贈で取得した財産に限られる。土地を物納する場合は、相続税評価額になる。
物納できる財産は、次の4つに限られ、この順番で充当される。
1. 国債、地方債
2. 不動産、船舶
3. 社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
4. 動産
物納するためには、次の4つの条件をすべて満たす必要がある。
1. 延納を選択しても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
2. 申請財産は、納付すべき相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、先述した物のできる財産1~4であり、日本国内にあること
3. 物納しようとする財産が、管理処分不適格財産に該当しないものであること。その財産が物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
4. 相続税の申告期限(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続き関係書類を添付して、税務署長に提出すること
期限までに相続財産が確定しないときは?
前述したように、続税の申告期限は、基本的に延長できない。したがって、期限までに相続財産を確定できないことを理由に、申告しない(できない)という事態は避けなければならない。
相続開始から申告まで10ヵ月間あるので、相続財産・相続人の確定を行い、計画的に申請書の作成、添付資料の収集を行う必要がある。
申告内容が間違っていたときは?
相続税の申告後に、申告内容が間違っていた場合は、改めて正しい税額に修正する。これを「修正申告」という。
修正申告で、新たにプラスになった税額は、申告を行った当日に追加納付しなければならない。税務署から税務調査が実施される前に、納税者から修正申告を行った場合には、加算税は課税されない。もし税務調査後に指摘されて、修正申告を行えば、故意でなかったとしても、申告漏れと取られてしまう。そうなると、延滞税や加算税が課されることになる。
一方、実際の相続財産よりも金額を多く計算して申告した場合には、提出した税務署に対して、納めすぎた税額の払い戻しを請求できる。これを「更生の請求」という。
相続税の申告が終わり、相続税を納めても、相続財産の内容を再度検証しておく必要がある。相続財産に誤りがあれば、期限内に修正申告するなどの対応が必要だ。
●修正申告の期限
特に定めはないが、税務調査の通知前までに行えば、過少申告加算税はかからない。間違いに気がついたらなるべく早く自分から申告することで、余分な税金を支払うリスクを回避できる。(延滞税はかかる可能性がある)
なお、国税の更正・決定の処分を行うことができるのは、法定申告期限から5年(偽りその他不正があれば7年)なので、これを過ぎて修正申告を行う必要はない(国税通則法第70条第1項)。
●更正の請求の期限
更正の請求の期限は、通常は申告期限から5年以内である(同法第23条)。例えば、相続財産の課税価格や税額の計算を間違えたなどの理由で更正の請求を行う場合は、この期限になる。
ただし相続開始後の後発的な事由によって更正の請求を行う場合は、その期限がその事由が生じたことを知った日の翌日から4ヵ月以内になる場合がある。
相続税の更正の請求ができることに気がついたら、すぐに税理士や税務署に確認するとよい。
参考まで、4ヵ月以内となるケースの一部を紹介する。
・未分割のまま法定相続分で申告した財産を分割したことで課税価格が変わった
・認知や相続人の廃除・取り消しの裁判が確定したことによって相続人が変わった
・相続回復請求や相続放棄の取り消しなどによって相続人が変わった
・遺留分の侵害による請求額が確定した
・遺贈にかかる遺言書の発見や遺贈の放棄があった
など(相続税法第32条第1項)
「5年以内」と「4ヵ月以内」なので4ヵ月の期限のほうが短いように感じるが、両者は起算日が異なるため、場合によっては4ヵ月のほうが長くなる場合がある。
●未分割の遺産があるときはどうする?
遺産分割がまとまらないまま申告期限を迎える場合、未分割の遺産は、法定相続分や包括遺贈の割合で相続したものとして申告する。(相続税法第55条)
このとき、未分割の遺産には使えない特例があることに注意が必要だ。主なものは小規模宅地の特例と配偶者の税額軽減で、いずれも相続税の節税にかなり有利な特例である。
遺産分割後にこれらを適用するには、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けて提出し、申告期限から3年以内に分割して更正の請求等をすることとなる。
なお相続に関する訴えが提起されているなどの理由から3年経っても分割できないときは、税務署長の承認を受けることで、判決の確定日などの翌日から4ヵ月以内に遺産分割を行い更正の請求等をすることで、これらの特例を適用できる。
この場合、3年を経過する日の翌日から2ヵ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署長に提出して承認を受ける必要がある。
納付後に新たな相続財産が見つかったら?
相続税を納付した後で、新たな相続財産が見つかった場合には、「修正申告」あるいは「更生の請求」を行う。ただし、その前に新たに見つかった相続財産の分割をする必要がある。
相続財産については、すでに「遺産分割協議書」を作成し、財産の分割は終了している。しかし、新たに相続財産が見つかったわけなので、その財産について、再度、相続人全員で話し合って、誰がどの割合で相続するかを決定しなければならない。その結果について、「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員の署名、捺印(実印)が必要となる。
「遺産分割協議書」ができれば、新たに見つかった相続財産を証明する書類を添えて、「修正申告」を行うことになる。
相続税の専門家を探すコツ
遺産分割などの相続に関する業務は、弁護士、司法書士、税理士、行政書士など、多くに士業が参入している。だが、相続税の申告は、税理士にだけに認められた「独占業務」だ。税理士は、税の申告を行うスペシャリストなので、基本的には誰に頼んでもよいだろう。
しかし税の申告といっても、税には所得税、固定資産税、贈与税、相続税など多くの種類があり、税の申告者には個人、法人(会社)の2通りある。よって、個人申請の相続税を得意とする税理士を探す必要がある。
税理士を探すのに最も早く有効な方法は、ホームページのチェックである。その際、相続に関する業務を専門としているかどうかがポイントとなる。相続を専門としている税理士だと記載されていれば、相続税に関するスペシャリストと考えても構わないだろう。