相続税は、節税できる税金である。節税方法はさまざまだが、相続人の中に被相続人の配偶者がいる場合は、「配偶者控除」が有効である。ただし控除される金額が大きいため、いくつかの要件がある。

今回は、配偶者控除について詳しく説明する。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書等の作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

配偶者控除にまつわるQ&A

相続税配偶者控除
(画像=PIXTA)
Q


婚姻期間に制限はあるのか?

配偶者控除の適用については、婚姻届を提出して、戸籍上の夫婦であればよく、特に婚姻期間の制限(婚姻期間○年以上)はない。

配偶者控除の適用については、婚姻届を提出して、戸籍上の夫婦であればよく、特に婚姻期間の制限(婚姻期間○年以上)はない。


Q


別居している夫婦でもよいのか?

前述のとおり、戸籍上の夫婦であれば、配偶者控除が適用される。よって、夫婦が別居していても、問題はない。

前述のとおり、戸籍上の夫婦であれば、配偶者控除が適用される。よって、夫婦が別居していても、問題はない。


Q


金額に制限はあるのか?

控除額については後で詳しく説明するが、1億6000万円と配偶者の法定相続分を比べて大きいほうの金額が、控除の限度額になる。

控除額については後で詳しく説明するが、1億6000万円と配偶者の法定相続分を比べて大きいほうの金額が、控除の限度額になる。


 

配偶者控除とは?

配偶者控除とは、被相続人の配偶者(夫または妻)が相続した財産に適用される控除である。

控除額は、1億6000万円と法定相続分のうち、大きい金額までとなる。例えば、配偶者の法定相続分が2億円の場合、2億円まで相続税が控除されることになる。

配偶者控除という特例があるのは、次の3つの理由がある。

 ・配偶者は、被相続人の財産形成に貢献しているため
 ・被相続人の死亡後に残された配偶者の生活を保障するため
 ・配偶者が亡くなった後の相続の負担を軽減するため

配偶者控除の具体例①

被相続人の財産が4億円、法定相続人が配偶者、子ども2人、合計3人だとする。配偶者の法定相続分は2分の1なので、配偶者の法定相続分の金額は2億円となる。

配偶者控除の金額は、1億6000万円と法定相続分(2億円)のうち、大きいほうの法定相続分になるため、配偶者が相続した2億円までが非課税となる。

相続財産には、現金だけでなく不動産なども含まれるが、すべて金額に換算したうえで、相続財産を相続人が分割して相続することになる。

この例の場合、配偶者は、配偶者控除の枠である2億円を相続したほうが節税のメリットを十分生かすことができる。したがって、配偶者は、4億円の相続財産のうち、法定相続分どおりに2億円を相続したほうがよい、ということになる。

配偶者控除の具体例②

被相続人の財産が2億円、法定相続人が配偶者、子ども2人、合計3人だとする。この場合、配偶者の法定相続分は2分の1ので、配偶者の法定相続分の金額は1億円となる。

配偶者控除の金額は、1億6000万円と法定相続分(1億円)のうち、大きいほうの1億6000万円になるので、配偶者が相続する1億円6000万円までが非課税となる。したがって、配偶者は法定相続分の1億円を超えて、1億6000万円を相続したほうが、配偶者控除の恩恵をより受けることができる。

ただし、配偶者が法定相続分以上の相続財産を引き継ぐことになるので、他の法定相続人(子ども2人)の承諾が必要である。2人が承諾すれば、遺産分割協議書を作成し、法定相続人全員が署名・捺印しなければならない。

この場合、法定相続分以上の相続財産を配偶者が引き継ぐメリットは、二次相続(配偶者が亡くなった際の相続)での負担が軽減されることである。配偶者が間を置かず亡くなった場合、配偶者が引き継いだ相続財産をすぐに相続人(子ども2人)が相続することになる。

この際、配偶者控除は適用されないため、相続財産に相続税がかかることになる。それでも、配偶者が法定相続分1億円を相続して配偶者控除を適用した場合と、法定相続分以上の金額1億6000万円を相続して配偶者控除を適用した場合を比べると、後者に大きなメリットがあることは明白である。

配偶者控除の具体例③

被相続人の財産が1億2000万円、法定相続人が配偶者、子ども2人、合計3人だとする。この場合、配偶者の法定相続分は2分の1なので、配偶者の法定相続分の金額は6000万円となる。

配偶者控除の金額は、1億6000万円と法定相続分(6000万円)のうち、大きいほうの法定相続分になるため、配偶者が相続する1億円6000万円までが非課税となる。非課税枠をめいっぱい使い、配偶者が相続財産(1億2000万円)をすべて相続したら、相続税はかからないことになる。

しかし、配偶者がすぐに亡くなった場合、その1億2000万円を相続人(子ども2人)が相続することになるので、相続税は次のような計算式になる。

 ・[1億2000万円-4200万円(基礎控除)-1700万円(2億円以下の控除額)] ×40%(2億円以下の税率)

上の式を計算すると、2440万円となる。最初の相続と二次相続を合わせると、2440万円の相続税がかかることになる。

一方で、最初の相続で配偶者が6000万円を相続した場合、相続人(子ども2人)にかかる相続税の計算式は、次のようになる。

 ・[6000万円-4800万円(基礎控除)-200万円(5000万円以下の控除額)] ×20%(5000万円以下の税率)

上の式を計算すると、200万円になる。さらに、配偶者がすぐに亡くなった場合、相続人(子ども2人)にかかる相続税の計算式は、次のようになる。

 ・[6000万円-4200万円(基礎控除)-200万円(5000万円以下の控除額)] ×20%(5000万円以下の税率)

上の式を計算すると、320万円となり、最初の相続と二次相続を合わせると、520万円の相続税がかかることになる。一度に配偶者がすべての相続財産を相続したときよりも、はるかに相続税を減らすことができる。

このように、最初の相続と二次相続を分散したほうが、相続税を軽減できるケースがある。

配偶者控除の要件①

1つ目の要件は、「法律上の夫婦」であることだ。

「法律上」であるから、夫婦同然で長年生活している、いわゆる「内縁関係の夫婦」は該当しない。つまり、婚姻届を提出し、戸籍上の夫婦でなければならない。

戸籍上の夫婦であればよいので、長年別居している夫婦でも該当する。しかし、20年も30年も夫婦同様に暮らして、周りから「夫婦」とみなされていても、配偶者控除には該当しない。

配偶者控除の要件②

2つ目の要件は、相続財産を隠ぺいしていないということだ。

相続財産を隠ぺいしたまま税の申告を行い、隠ぺいが発覚した場合は、配偶者控除が適用されなくなる。

さらに、重加算税もかかることになる。この場合、重加算税額は35%または40%となり、かなりの負担になるので、くれぐれも相続財産の隠ぺいや申告漏れは厳禁である。

配偶者控除の要件③

3つ目の要件は、相続税の申告期限までに、遺産分割協議書を作成し、相続税の申告を完了することだ。

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなって相続が開始されて10ヵ月以内となっている。申告期限は、基本的に延長が認められない。相続が始まったら、速やかに相続手続きを進めなければならない。

また相続税の申告を行い、配偶者の税負担がない場合でも、税務署に申告しなければならない。この手続きを怠れば、配偶者控除が適用されないことになる。

配偶者控除の注意点

前述のように、配偶者控除の適用を受けるためには、税務署に申告する必要がある。その際は、以下の書類を提出しなければならない。

 ・相続税申告書
 ・亡くなった人の出生から死亡までの履歴がわかる戸籍謄本
 ・遺言書があるときは遺言書
 ・遺産分割協議書(写し)

相続税の申告期限は、基本的に延長は認められていない。しかし、これらの書類に加えて「申告期限後3年以内の分割見込み書」を提出することで、例外的に申告期限を延長することができる。

このような手続きを取ることで、申告期限から3年以内に遺産分割を行えば、配偶者控除の適用を受けることができる。この場合、相続税申告時に配偶者の税額軽減を適用せず、多めに納税して、遺産分割が確定した後で、改めて税務署へ手続きを行い、税金が還付されるということになる。

ただし、相続財産が確定し、その金額が相続税の基礎控除以下の金額だった場合には、そもそも相続税の申告自体必要ないということになる。

配偶者控除のメリット

●控除額

配偶者控除の最大のメリットは、控除額の大きさである。1億6000万円あるいは法定相続分までが非課税となるため、かなりの節税になる。

  

特に相続財産のうち、不動産の割合が大きく、現金が少ない場合、不動産を配偶者に相続することで、配偶者控除のメリットを最大限に活用することができる。

●手続き

税金の控除が適用される場合、一般的に手続きが煩雑である。しかし、配偶者控除の場合、他の税金に関する手続きに比べて、提出書類が少なく、新たに作成が必要な書類もない。

配偶者控除のデメリット

●二次相続の影響

例えば、被相続人が亡くなり、法定相続人が配偶者と子ども2人、合計3人だったとする。相続財産1億6000万円をすべて配偶者が相続し、配偶者控除を適用した。相続税は発生せず、納税の必要はない。

しかし、配偶者が日を置かず亡くなった場合、相続した1億6000万円を子ども2人で相続することになる。このとき、配偶者控除は適用されないので、通常どおり相続税を納めることになる。

相続人の数や相続財産の金額にもよるが、最初の相続でいくらか子どもが相続し、相続財産を分散させたほうが、相続税を節約できる場合がある。配偶者控除の非課税枠が大きいからと言って、相続財産の大半を配偶者が相続することは考えものである。

二次相続を想定して、相続する割合を十分検討する必要がある。

●相続人の数

前述の例で、最初の相続と二次相続との最大の違いは、相続人の数である。相続税の基礎控除の計算式は、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」である。

つまり法定相続人が1人減っただけで、相続税の非課税金額が600万円も減ることになるのだ。配偶者控除を活用しても、相続人の数や相続財産の金額によっては、納税する相続税が増える場合もあると言ったのは、まさにこのことである。

最初の相続から二次相続までの相続財産の増減と、法定相続人の減少などを念頭入れて、配偶者控除の利用を検討する必要がある。