「相続税の税率は高い」とよく言われるが実際はどうなのだろうか。この記事では、相続税の税率と税額の計算の流れ、節税のコツについて解説する。相続税の計算は少し複雑だが、記事中にある理由を理解して、流れをつかんでほしい。
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。
相続税の税率に関するQ&A
最初に相続税の税率に関する3つの質問に答えよう。
相続税の税率はどうなっている?
税率は「(正味の遺産総額-基礎控除額)× 法定相続分」で算出された金額に応じて次のように決まる。
● 1000万円以下……10%
● 3000万円以下……15%
●5000万円以下……20%
●1億円以下……30%
●2億円以下……40%
●3億円以下……45%
● 6億円以下……50%
● 6億円超……55%
実際には税率だけでなく、各税率に割り当てられた控除額も使って計算する。
率は「(正味の遺産総額-基礎控除額)× 法定相続分」で算出された金額に応じて次のように決まる。
● 1000万円以下……10%
● 3000万円以下……15%
●5000万円以下……20%
●1億円以下……30%
●2億円以下……40%
●3億円以下……45%
● 6億円以下……50%
● 6億円超……55%
実際には税率だけでなく、各税率に割り当てられた控除額も使って計算する。
亡父の相続財産が10億円なら相続税の税率は55%?
相続税の税率は相続財産全体に適用するものではない。次の2つに要注意だ。
●みなし相続財産や債務などを含めて正味の遺産総額を正しく計算する
●正味の遺産総額を法定相続分で按分した後、税率を適用する
「亡き父の相続財産=正味の遺産総額」なら、法定相続人が誰かを判断して法定相続分で按分し、税率を決める。
相続税の税率は相続財産全体に適用するものではない。次の2つに要注意だ。
●みなし相続財産や債務などを含めて正味の遺産総額を正しく計算する
●正味の遺産総額を法定相続分で按分した後、税率を適用する
「亡き父の相続財産=正味の遺産総額」なら、法定相続人が誰かを判断して法定相続分で按分し、税率を決める。
相続税の税率が免除になることはあるの?
相続税の税率が免除になることはない。ただし相続財産の評価額を減額する制度や税額から一定額を控除する制度がある。こういった制度を使って相続税を低く抑えることは可能だ。相続人や条件によっては納めるべき相続税額が0円になることがある。
相続税の税率が免除になることはない。ただし相続財産の評価額を減額する制度や税額から一定額を控除する制度がある。こういった制度を使って相続税を低く抑えることは可能だ。相続人や条件によっては納めるべき相続税額が0円になることがある。
「相続した財産×相続税の税率=納付税額」ではない
相続税率の解説をする前に、よくある誤解を解いておこう。
一般の人は「相続した財産額で相続税の税率が決まる」と思っている人が多い。「相続した財産額×相続税の税率」で納付すべき相続税が計算されるとイメージしているのだ。所得税や贈与税の計算の仕方がこのようになっているためだろう。
しかし相続税の計算はこのようにはならない。納付すべき相続税を計算する過程は所得税や贈与税に比べ、複雑になっている。
なぜ「もらった財産×相続税の税率」ではないのか
なぜ単純にもらった財産に税率をかけて税額を算出する仕組みをとらないのだろうか。それは相続税の特殊性にある。
相続税は所得税や贈与税と違い、一個人で申告・納税するものではない。親族同士で同時に計算・申告・納付するものだ。つまり近しい間柄であるゆえ、お互いに示し合わせて相続税がかからないよう相続割合を申告時に操作し、申告・納税後に財産の受け渡しをすることもできてしまう。
このような課税逃れを防ぐべく、相続税はより客観的に税額を計算する仕組みを間に入れて計算する。
課税の公平さを保つべく、少し複雑になってしまったのだ。
相続税の税率は「もしも法定相続分で相続したら」で使う
ではどこで相続税の税率は使われるのだろうか。実は本当の納税額の計算ではなく、相続税の仮計算で使う。仮計算というのは「もしも遺言や遺産分割協議が一切なく、民法の法定相続人が法定相続分で財産を取得したら」という仮定で行う相続税額の計算だ。
遺産配分は恣意的に操作できるが、法定相続人と法定相続分はコントロールできない。つまり客観的かつ公平に相続税額を計算できる。そのため、相続税率を適用していったん仮の相続税額を計算し、後で実際の相続財産の割合に応じて本来の納税額を計算する。
相続税の税率と決まり方
相続税の税率はどのように決まるのか。具体的な税率と控除額を見ていこう。
- 1000万円以下……10%(税率)
- 3000万円以下……15%(税率)・50万円(控除額)
- 5000万円以下……20%(税率)・200万円(控除額)
- 1億円以下……30%(税率)・700万円(控除額)
- 2億円以下……40%(税率)・1700万円(控除額)
- 3億円以下……45%(税率)・2700万円(控除額)
- 6億円以下……50%(税率)・4200万円(控除額)
- 6億円超……55%(税率)・7200万円(控除額)
ここで注目したいのが次の2点だ。
●10~55%の8段階の税率
相続税は所得税や贈与税と同様、「多く取得したら高い税率を、少なく取得したら低い税率を」という累進課税制度を採用している。そのため、仮の相続分での相続財産が少なければ低い税率が適用され、多ければ高い税率が適用される。
●10%以外はそれぞれに控除額がある
さらに10%以外は控除額が設けられている。15%の税率なら50万円、20%の税率なら200万円が控除額だ。控除額は仮の相続分に税率を乗じた後に適用する。
例えば、法定相続分で計算した仮の相続分が4000万円だとしよう。ここでの仮の相続税額は「4000万円×20%-200万円=600万円」と計算する。
実際の相続税の計算の流れ
ここで実際の相続税額の計算の流れを確認しよう。
●1.正味の遺産総額を計算
最初に相続人・受遺者各人の正味の遺産額を計算した後、それらを合計する。正味の遺産額自体の計算は次の2段階で行う。
- 相続・遺贈で取得した財産(現預金や不動産など)+ 死亡保険金・死亡退職金などみなし相続財産+相続時精算課税制度の贈与財産-非課税財産-債務・葬式費用= 純資産価額(赤字だと0円)
- 純資産価額+相続開始前3年間の贈与財産=正味の遺産額
●2.基礎控除額を差し引く
1の正味の遺産総額から基礎控除額を差し引く。基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」だ。なお、基礎控除額については以下のリンクを参考にしてほしい。
●3.法定相続分で按分
先ほど言った相続税の仮計算の1段階目を行う。具体的には、2の金額を法定相続分で按分する。なお法定相続分は相続順位に応じ、次のようになっている。
第1順位:配偶者1/2、子ども1/2
第2順位:配偶者2/3、親または祖父母(直系尊属)1/3
第3順位:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
なお、子どもや親または祖父母、兄弟姉妹が複数いるときはその中で法定相続分をさらに按分する。子どもが2人いるなら、それぞれの法定相続分は1/4になる。
●4.相続税の税率をかけて仮の相続税額を計算
ここで相続税の仮計算の2段階目を行う。2で算出した金額に応じ「相続税の税率と決まり方」にある税率と控除額を使って仮の相続税額を計算する。
●5.3を合計し、実際の相続分で税額を按分
ここから本来の相続税額の計算に入る。3で算出した仮の相続税額をすべて足し、実際の相続分で按分する。具体的な式は「3の相続税額の合計額×相続人・受遺者の正味の遺産額÷正味の遺産総額」となる。
●5.納付すべき税額を計算
相続人・受遺者の各人の事情に合わせ、相続税の2割加算や配偶者の税額軽減、未成年者控除や贈与税額控除といった制度を適用し、税務署や金融機関で納めるべき納付額を算出する。
相続税の税率を下げるには
相続税の税率は法定相続分で按分した仮の相続財産で決まる。按分比率自体は変わらない。税率を変えられるとしたら計算の最初の部分、つまり正味の遺産総額だ。この金額が多ければ高い税率が適用され、少なければ低い税率が適用される。
正味の遺産総額を下げることが税率を下げるカギとなる。この正味の遺産総額を下げるには次のような方法がある。
●小規模宅地等の特例
最初に検討したいのが本来の相続財産である宅地の評価額を下げることだ。相続財産の大半は評価額を下げることができない。しかし居住用や事業用、賃貸事業用の敷地に関しては200~400㎡を上限に50%か80%評価減ができる。1億円の土地が居住用か事業用なら最大2000万円に抑えることもできるのだ。
メリットが大きい分、前提となる条件がかなり細かいので注意したい。
●生命保険金等の非課税枠
被相続人が生前保険料を負担していた死亡保険金や被相続人が生前勤めていた会社からの死亡退職金は民法上の相続財産ではない。受け取った人の固有の財産となる。しかし相続税法では実質的に相続財産と同じであるとみなして相続税の課税対象としている。
「相続税がかかるのか」とがっかりしないでほしい。死亡保険金と死亡退職金それぞれに「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があるのだ。受け取った人が法定相続人で相続放棄をしていないのなら、税金を抑えてお金を受け取れる。納税資金の事前準備に適した方法でもある。
●基礎控除額
基礎控除額は既述のとおり、「3000万円×法定相続人の数」で計算する。この法定相続人は死亡・欠格・廃除された者は除かれるが、1つ注意点がある。基礎控除額を計算する際、相続放棄はなかったものとして計算するということだ。
例えば、配偶者1人、子どもが3人いる世帯で子どもの1人が相続放棄をしたとする。このとき、放棄はなかったものとして考えるので基礎控除額は「3000万円+600万円×4人=5400万円」となる。
ただし法定相続人の考え方は少し難しい。「法定相続人には養子の数のカウントに制限がある」「子どもが先に死亡しているときは孫が代襲相続して子どもと同様にカウントする」などの注意点がある。
相続税の税率が高くても相続税額を下げるには
「小規模宅地等の特例の対象になる敷地なんてない」「生命保険金もない」など税率を下げられないときはどうしたらよいのか。この場合、高い税率は変わらないが相続税を抑える方法がある。それは税額控除だ。
税額控除は相続人・受遺者それぞれの本来納付すべき相続税額を算出する際に使う。具体的には次のような税額控除がある。
- 配偶者の税額軽減
- 贈与税額控除(死亡日以前3年間の贈与・相続時精算課税の贈与)
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
適用するには各要件を満たす必要がある。丁寧に調べて使えそうなら使うとよいだろう。
相続税の税額が出たら10ヵ月以内に申告を
計算の結果、相続税額が算出されたら速やかに対処しよう。相続税の申告・納付は相続開始があったことを知った日から10ヵ月以内だ。遅れると無申告加算税や延滞税といったペナルティが生じる。なお、納税は現金一括納付であることも留意しよう。
相続税の税額が0円でも申告しなくてはいけないとき
「納付税額が出たら申告」は当然だが、税額が出なくても申告はしないといけない。特に次の2つの制度は、申告を条件としている。申告しないと適用できない。
- 配偶者の税額軽減
- 小規模宅地等の特例
原則として「正味の遺産総額≦基礎控除額」でなければ、相続税の申告は必要だ。納税額が0円だからといって油断しないように気を付けよう。
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