相続は誰もがいつかは経験することだが、どのような手続きを踏めばいいのか、理解している人は意外と少ない。相続手続きの中でも、特に相続税の申告はある程度の知識がないと、戸惑うことが多い。ここでは、相続税の申告について、必要な書類を中心に詳しく説明したい。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書などの作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

相続税の申告の添付書類にまつわるQ&A

相続税申告書 添付書類
(画像=PIXTA)
Q


書類は何種類必要なのか?

相続財産の状況、相続人の数、相続放棄の有無など、相続の状況によって異なる。主なものには、申告書、遺言書(コピー)、遺産分割協議書(コピー)、被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本、相続人の印鑑証明書などで、7~10種類程度だと考えていただきたい。

相続財産の状況、相続人の数、相続放棄の有無など、相続の状況によって異なる。主なものには、申告書、遺言書(コピー)、遺産分割協議書(コピー)、被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本、相続人の印鑑証明書などで、7~10種類程度だと考えていただきたい。



Q


準備するのが難しい書類は何か?

必要書類のうち、準備が難しいものは特にない。ただ準備に手間取るのが、被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本である。被相続人の出生から死亡までの本籍が連続している戸籍謄本が必要なため、本籍が数回変更されている場合は、手間も時間もかかることになる。

必要書類のうち、準備が難しいものは特にない。ただ準備に手間取るのが、被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本である。被相続人の出生から死亡までの本籍が連続している戸籍謄本が必要なため、本籍が数回変更されている場合は、手間も時間もかかることになる。




Q


すべて自分たちで準備できるのか?

基本的に、専門家に依頼することなく、すべて自分たちで準備できる。ただし、「被相続人の戸籍」については、本籍のある市区町村から取り寄せることになるので、専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に依頼するほうがスムーズに入手できる。

基本的に、専門家に依頼することなく、すべて自分たちで準備できる。ただし、「被相続人の戸籍」については、本籍のある市区町村から取り寄せることになるので、専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に依頼するほうがスムーズに入手できる。




 

相続税の申告に必要な書類とは?

相続税の申告を行ううえで必要な書類については後で詳しく述べるが、ここでは概要について説明する。書類は、大きく分けて3種類必要だ。

1.相続税の申請書

まず、「相続税の申請書」である。書式があらかじめ指定されており、国税庁のホームページ([手続名]相続税の申告手続|国税庁)にアクセスして、申請書をダウンロードし、印刷する。

申請書は、「相続税の申告書等の様式一覧(令和2年分)」、「相続税の申告書等の様式一覧(令和元年分)」と分類されており、該当する箇所をクリックしてダウンロードする。例えば、令和2年1月1日から令和2年12月31日の間に亡くなった人の相続財産に関する申告の場合は、「令和2年分」を使用する。

2.財産に関する書類

次に、財産に関する書類である。文字どおり、被相続人の財産に関する書類で、相続財産をどのように(誰に、どの割合で、いくらで)分けたのかが分かるものということになる。遺言書があり、そこに記載されたとおりに相続財産を分けたのであれば、遺言書が必要な書類に当たる。

一方、遺言書がない場合、あるいは遺言書があっても相続人の話し合いによって遺言書の内容とは別の分け方をした場合には、遺産分割協議書が必要な書類となる。

3.身分関係の書類

最後に、身分関係の書類である。被相続人と相続人との関係が分かる書類ということになるが、具体的には、それぞれの戸籍謄本、住民票などが該当する。相続人の本人確認のために、印鑑証明書も必要となる。

相続税の申請書とは?

申請書は、前述したように、国税庁のホームページから入手できる。税務署にも備えてあるので、近くの税務署でもらうことも可能だ。

申請書は、以下の15分野で構成されている。

(第1表)申請書
(第2表)相続税の総額の計算
(第3表)財産を取得した人のうちに農業相続人がいる場合の各人の算出税額の計算書
(第4表)相続税の加算金額の計算書
(第5表)配偶者の税額軽減額の計算書
(第6表)未成年者控除額・障害者控除額の計算書
(第7表)相次相続控除額の計算書
(第8表)外国税額控除額・納税猶予税額の計算書
(第9表)生命保険金などの明細書
(第10表)退職手当金などの明細書
(第11表)相続税がかかる財産の明細書
(第12表)農地等についての納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書
(第13表)債務及び葬式費用の明細書
(第14表)純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与財産価額・出資持分の定めのない法人などに遺贈した財産・特定の公益法人などに寄附した相続財産・特定公益信託のために支出した相続財産の明細書
(第15表)相続財産の種類別価額表

ただし、申告にはすべての書面が必要となるわけでない。例えば、被相続人の財産を相続した人に「農業従事者」がいない場合、「第3表」は記載する必要がない。

相続税の財産に関係する書類とは?

財産に関する書類は、主に以下のとおりである。

【財産】
・不動産に関する書類……登記事項証明書、固定資産税評価証明書、賃貸借契約書など
・有価証券……銘柄一覧表、売買報告書、残高証明書、証書など
・預貯金……残高証明書、預金証書、預貯金通帳など
・生命保険金……保険証券、保険会社の支払明細書・保険金通知書など
・退職金……支払調書
・貸金・売掛金……金銭消費貸借契約書、明細など
・美術品・骨董品……作品名・作者の氏名など
・贈与財産……贈与税申告書控(相続時精算課税・相続前3年以内の贈与)

【債務(借金)】
・借入金……金銭消費貸借契約書、借入金残高証明書など
・未払金……請求書、領収書など
・公租公課……課税通知書、納付書など
・葬式費用……領収書など

被相続人の財産を相続人が引き継いだ際に、遺言書のとおりに分割、相続した場合は、遺言書に記載されている財産の関係書類をすべて準備する必要がある。遺言書どおりに相続しなかった場合や遺言書がなかった場合は、遺産分割協議書に記載された財産の関係書類をすべて準備しなければならない。

なお、相続する土地が広大で、境界線があいまいな場合には、早めに境界を明確にして、全体の面積を算出しておかなければならない。債務に関しても、早めに把握しておく必要がある。なぜなら、相続開始から3ヵ月以内に、個々の相続人が相続放棄をするか否かを決断しなければならないからである。

相続税の身分関係の書類とは?

身分に関する書類は、主に以下のとおりである。

・遺言書(コピー)
・遺産分割協議書(コピー)
・被相続人の戸籍・除籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・相続人の戸籍謄本および住民票
・相続人の印鑑証明書
・被相続人および被相続人の略歴書
・親族関係図
・特別代理人の選任申立書
・相続放棄申述の証明書

被相続人が遺言書を残していた場合、相続人が勝手に開封することはできない。家庭裁判所で、「検認」の手続きを取らなければならない。「検認」とは、家庭裁判所で、相続人全員の立会いの下、遺言書を開封し、遺言書の内容を確認することである。「検認」の手続きを取らずに、相続人の誰かが勝手に遺言を開封した場合、その相続人は相続の権利を失う可能性がある。

ただし、被相続人が遺言書を残していたからといって、遺言書の内容どおりに相続財産を分ける必要はない。もちろん遺言書は被相続人の遺志なので、相続人は遺言書の内容を最大限に尊重する必要がある。

しかし、相続人全員が了承すれば、遺言書とは異なる方法で、相続財産を分割、相続することができる。この場合は、遺産分割協議書を作成し、全員の署名、捺印が必要となる。相続を放棄する相続人の署名、捺印も必要となる。なお捺印は実印であり、印鑑証明書を添付しなければならない。

被相続人の戸籍謄本・除籍謄本は、被相続人の出生から死亡まで連続した謄本が必要だ。連続した謄本とは、被相続人の出生時の本籍から死亡時の本籍までが、途切れることなく、つながっている状態である。

また、相続人全員の戸籍謄本も必要だ。これは、被相続人と相続人の関係を証明するためである。相続を放棄する相続人がいた場合も、その相続人の戸籍謄本が必要となる。

被相続人および被相続人の略歴書、親族関係図は、特に書式はない。書面に、被相続人と相続人全員の氏名、生年月日、死亡年月日、住所、本籍地を家系図としてまとめればよい。

相続放棄申述の証明書は、相続人の中に相続放棄手続きを行った人がいる際に必要だ。相続放棄とは、被相続人の財産をすべて引き継がない手続きである。相続放棄は、相続人個人に認められた権利なので、相続人は自分の判断で相続放棄をするかどうかを決めることになる。

なお、相続放棄は、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に手続きをしなければならない。もし3ヵ月を過ぎれば、相続を承認したとみなされる。

必要書類や添付書類を集めるコツ

●書類を集める期間はどれくらいか?

相続税の申告期限は、相続開始つまり被相続人が亡くなってから10ヵ月以内である。申告期限を過ぎると、延納税がかかることになる。相続を放棄したい場合は、相続開始から3ヵ月以内に手続きしなければならない。

その選択には、相続財産や相続人の確定が必須となる。できれば被相続人が亡くなって2ヵ月以内に、被相続人の戸籍・除籍謄本、相続人の戸籍謄本を入手しておきたい。また、相続財産を確定させるためにも、「財産に関する書類」を準備しなければならない。

「10ヵ月」と聞くと、時間に余裕がありそうだが、このように考えると、相続税に関する書類は、相続税の期限である10ヵ月よりも、かなり早く準備しなければならないことになる。

●効率よく集めるには?

ここで説明したように、相続財産・相続人確定に必要な書類と相続税の申告に必要な書類は、重なるものが多い。重複する書類については、被相続人の四十九日法要の前後辺りから入手することが望ましい。

被相続人の戸籍謄本を入手する際に、本籍が数回変わっている場合は、本籍地の市区町村役場に直接請求する必要がある。その市区町村役場が遠隔地にあれば、郵送で取り寄せることになるので、思いのほか時間がかかることになる。被相続人の戸籍謄本の入手は、早めに取りかかったほうがよいだろう。