ビルの賃貸経営をしている方にとって、将来の相続時に保有するビルがどのように評価されるのかは気になるところではないでしょうか。同じ建物や敷地でも、オフィスビルや商業ビルの場合と自宅の場合とでは、相続税法上、異なる評価がなされます。オフィスビルや商業ビルの評価方法を知って将来の相続税に備えましょう。

自宅用と賃貸用で異なる評価方法

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(写真=Ahmet Misirligul/Shutterstock.com)

相続税法上、土地は路線価、建物は固定資産税をもとに評価されるのが基本です。もし、土地や建物が自宅用である場合には、それらの評価がそのまま適用されますが、賃貸されている土地や建物の場合には評価額がさらに下がります。

まず、土地については、自宅用の土地は「自用地」として評価されるのに対して、オフィスビルなどの賃貸物件が建てられている土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」と呼ばれ、評価額が80%前後まで減額されます。

また、建物については、オフィスビルなど賃貸用の建物であれば「貸家」という扱いになり、固定資産税評価額から借家権割合が控除されることになります。借家権割合は全国一律で30%となっていますので、建物の評価は約70%に減額されます。

「小規模宅地等の特例」にも違いがある

不動産は賃貸されることにより上述のように評価額が下がりますが、それに加えて「小規模宅地等の特例」が適用される場合には評価額はさらに下がります。

小規模宅地等の特例というのは、相続や遺贈により取得した宅地等について相続税の課税価格を減額する制度です。相続開始の直前において被相続人の事業や居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の面積が対象となります。

具体的には、居住用宅地であれば330㎡までの範囲で80%減額、事業用宅地であれば400㎡までの範囲で80%減額となります。そして、オフィスビルや商業ビルの敷地の場合は、貸付事業用宅地として、200㎡までの範囲で50%が減額となります。

なお、この減額計算は「貸家建付地」としての評価を行った後の金額に対して行われます。つまり、どちらかの評価方法が適用されるのではなく、評価方法が併用されることになります。

計算例で理解する評価方法

ここでは特に土地部分に注目して相続税法上の評価方法を計算例で確認してみましょう。前提として、相続時点でオフィスビルの土地面積が500㎡、路線価が30万円とします。

また、この土地の借地権割合は70%、借家権割合は30%とします。なお、貸付事業用宅地として小規模宅地等の特例の要件も満たしているものとします。

上記を前提とすると、まず土地の路線価による評価額は1億5,000万円(=500㎡×30万円)となります。これは自用地としての評価とも言い換えられます。

貸家建付地としての評価は、先ほど80%前後になると説明しましたが、正確には「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」として計算されます。したがって、貸家建付地としての評価は1億1,850万円(=1億5,000万円-1億5,000万円×70%×30%×100%)となります。

小規模宅地等の特例により500㎡のうち200㎡の範囲で50%減額が適用されます。そのため、減額される金額は2,370万円(=1億1,850万円×50%×200㎡/500㎡)となります。結果として、この敷地の相続税評価額は9,480万円(=1億1,850万円-2,370万円)と計算されます。

以上のように、路線価による評価額1億5,000万円に対して相続税法上の評価額は9,480万円となりました。なお、敷地の実勢価格は1億5,000万円より2~3割ほど高いことが想定されますので、それと比べると、相続税評価額は抑えられているといえます。今回ご紹介した計算方法を参考に自身が保有する賃貸ビルの評価額を概算してみてはいかがでしょうか。(提供:ビルオーナーズアイ