税務署は、相続税申告の約3割を実地調査し、おおよそ8割に申告漏れ、評価誤りを見つけ、修正申告の提出と追加の税金(相続税・加算税・延滞税)の納付を促している。

なぜ、このようなことが起こるのだろうか。

実地調査を受けないように、調査を受けても追徴課税を受けないために、税務署が調査で把握する資料を事前にチェックしておくことが肝要。そのためには、どのような書類を集めなければならないか、多くの税理士も意外と知らない、必要書類について解説する。

税務調査を招かない必要書類の集め方Q&A

相続税申告,必要書類
(画像=PIXTA)

Q


1. ネットに掲載されていたり、税理士が渡してくれる「必要書類一覧表」のようなものを見て、戸籍謄本などを集めればいいのでは?

税務署が調査をして集める書類は、そのような書類にとどまらない。調査官は最低でも、被相続人家族全員の預金通帳や証券会社の顧客勘定元帳、保険契約明細は取得すると考えておく必要がある。

税務署が調査をして集める書類は、そのような書類にとどまらない。調査官は最低でも、被相続人家族全員の預金通帳や証券会社の顧客勘定元帳、保険契約明細は取得すると考えておく必要がある。


Q


2. 必要書類を十分に集められなければ、どんな不利益があるのか。

預貯金の異動、株式の購入資金などから過去の贈与が見つかり、贈与税が追徴されることがある。見つけられた贈与が相続税の納税義務者に対する相続開始前3年以内の贈与ならば基礎控除(110万円)以内の贈与であっても相続財産に加算して修正申告しなければならない。

預貯金の異動、株式の購入資金などから過去の贈与が見つかり、贈与税が追徴されることがある。見つけられた贈与が相続税の納税義務者に対する相続開始前3年以内の贈与ならば基礎控除(110万円)以内の贈与であっても相続財産に加算して修正申告しなければならない。


Q


3. 被相続人が自宅をリフォームしていたりしたら、税務署はリフォーム代がどこから工面されたか調べるのだろうか。

税務署は、大きなお金が動いた時を狙って調査を行う。建物請負契約書などは、事前に確認しておくべき必要書類であり、かつ、支払に対応する資金がどこから出ているか(預金を下ろしているか、株式を売却しているか、他の不動産を処分しているか、退職金を使っているかなど)を調べる。それ故、相続税申告を行う時には、予め預金通帳や証券会社の顧客勘定元帳などもチェックしておくべき必要書類なのである。

税務署は、大きなお金が動いた時を狙って調査を行う。建物請負契約書などは、事前に確認しておくべき必要書類であり、かつ、支払に対応する資金がどこから出ているか(預金を下ろしているか、株式を売却しているか、他の不動産を処分しているか、退職金を使っているかなど)を調べる。それ故、相続税申告を行う時には、予め預金通帳や証券会社の顧客勘定元帳などもチェックしておくべき必要書類なのである。


プロが見る、相続税申告の必要書類とは

実地調査を招かない、調査されても追徴されないしっかりした申告書を作成するために必要な書類のことをいう。

上述したように、実地調査された相続税申告の実に8割も非違が認められる。その原因は、申告書を作成するための必要書類が十分に収集されていないことにある。

・ 残高証明書など相続開始時点の財産内容が分かる書類に限らない

相続税申告の必要書類とは、残高証明書など、単に、相続開始時点の財産内容が分かる書類にとどまらない。生前に被相続人が行った経済行為、言い換えれば税務署が調査する可能性があるお金の動きを事前にチェックできる書類まで含んでいると考えることが重要である。

相続開始時点の財産内容が分かる書類だけで作った相続税申告は、小さな地震(税務調査)でガタガタになってしまう可能性をはらんでいる。

詳細な必要書類はだれが集めるの?

必要書類は相続人(依頼者)が集める。

実地調査に堪える相続税申告に必要な書類は、被相続人の出生地や学歴、職歴、家族関係、病歴などをよく知る相続人(依頼者)しか集められない。

税理士が集めてくれないのかと思うかもしれない。歯が痛ければ、歯医者に依頼し、口を開け、痛い思いを我慢している間に歯科医がなんとかしてくれる。対して、実地調査に堪える相続税の申告を作成するための必要書類は税理士が単独で集めることは無理である。被相続人の出生地や学歴、職歴、家族関係、病歴などをよく知る相続人(依頼者)の協力が不可欠なのだ。

必要書類の収集は税理士との協同作業

・素人が必要書類を抽出することは無理なのでは?

相続人(依頼者)は、相続税の素人なので、被相続人の出生地、学歴、職歴、病歴、家族構成などを税理士に伝えることはできる。それらのことから被相続人特有のお金の動きを考え、集めなければならない必要書類の種類が容易にはわからない。

実地調査を招かない、調査があっても追徴されない申告書を作るには、ベテランの税理士との協同作業が不可欠。相続税は依頼したら終わりではないことに留意することが大切だ。

・ベテランの税理士はどのようなことをして必要書類を見つけるの?

被相続人をよく知る人(主に相続人)に税務調査とほぼ同様のヒヤリングを行い、事前に確認しなければならない書類を抽出する。

・具体例

① 被相続人の両親や祖父母が裕福であったことがわかれば、先代(実父など)から相続した財産の行方を確認する必要がある。実家の不動産が曾祖父名義で未分割で残っていたりすることもあるから出生地のヒヤリングも必要となる。

この結果、先代からの相続税申告書控え、未分割不動産の登記簿謄本、公図、測量図、先代の相続人関係図、戸籍謄本などが必要となる。

② 縁の妻がいる場合は、認知した子どもがいないか、内縁の妻が住んでいるマンションはだれの名義か、内縁の妻名義ならばいつからその名義なのかなどを確認しておかなければならない。

この結果、認知した子どもの戸籍謄本、マンションの登記簿謄本、公図、測量図、建物の固定資産税評価証明書などが必要となる。

③ 被相続人の息子が数年前に自宅を建築したり、被相続人が自宅をリホームしていたり、数年前に老人ホームに入居していることがわかれば、各々の契約書、資金出所を確認することが必要となる。

☞この結果、建築請負契約書や建築費の領収書、息子の住宅ローンの借入金額、返済の内容、相続時精算課税や暦年贈与の申告書控えなどを確認することが必要となる。

・税務署の調査官はどのような権限で相続人に質問できるの?

国税通則法という法律により、調査官は、相続税や贈与税の納税義務者に対し、質問したり、その人の財産や帳簿書類などを検査したり、提示や提出を求めることができる(国税通則法74条の3)。

調査官は、質問検査権の規定による質問、検査、資料などの提示若しくは提出の要求、閲覧の要求、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施をする場合は、その身分を示す証明書(質問検査証)を携帯し、関係人の請求があったときは提示しなければならないとされている(通 74 の 13)。

この質問検査権は行政調査なので黙秘権を行使することはできない。

補足

・ ベテランの税理士のヒヤリングを受ける前に自主的に用意できる書類は?

基本的な資料としては、次のものがある。

① 被相続人の戸籍謄本等、住民票
②相続人全員の戸籍謄本、戸籍の附票
③遺言書(あれば)自筆証書遺言については検認を受けておくこと。
④固定資産税課税通知書
⑤葬儀関係費用の領収書
⑥相続開始日現在未払いだった医療費、住民税、固定資産税、所得税、光熱費等の領収書

・被相続人の戸籍謄本を集めるのは意外と手間なので司法書士に依頼すると楽だ。

相続財産に自宅など不動産があるのなら、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本を取りよせるのは司法書士に依頼すると効率的。

戸籍制度は戦前は家を主体として作られていた。一つの戸籍に二世帯、三世帯が記載されているのが普通だったが、敗戦後、マッカーサーがやってきて、家督制度は民主的でない、戸籍は一世帯にひとつあるべきだという指令を出した。

これを受け、戸籍法が改正され、戸籍の編纂のやり直しが行われた。この結果、現在のように、ひとつの戸籍には一世帯が原則(子どもが結婚すると別の戸籍を作る)になった。

本籍地も変更が可能なので、出生から死亡までの戸籍をすべて取りよせるのに相当手数がかかるケースも珍しくない。

相続税の申告で必要とされる戸籍謄本等は、不動産の相続登記を行う時に必要とされるものと同一なので、被相続人と相続人の最新の戸籍・除籍を取り、司法書士に依頼すると時間と手間の節約になる。また、司法書士に法定相続情報一覧図の作成を依頼し法務局に手続をしてもらい法定相続情報一覧図の写しをもらっておけば爾後の手続が容易になる。

・ 自筆証書遺言は家庭裁判所の検認を受けておくこと

公正証書遺言なら検認は不要だが、自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要だ。 検認のための必要書類は次のとおりで、②と③の書類は法定相続情報一覧図の写しで代替することが可能だ。

① 検認の申立書
② 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本
③ 相続人全員の戸籍謄本と住民票
④ 自筆証書遺言の原本