「問題解決のサイクル」を回すために、知っておきたい思考法とフレームワーク

苅野進,ロジカルシンキング
(画像=The 21 online)

社会人であれば、必ず聞いたことがあるだろう「ロジカルシンキング」という言葉。「ロジカルシンキングの基本」【前編】では、ロジカルシンキングのベースになる考え方と問題解決に至るための「ロジカルシンキングのサイクル」を学んだ。後編では、「ロジカルシンキングのサイクル」を回すうえで役立つ6つの思考法とフレームワークについて紹介する。

「帰納法」と「演繹法」

論理的に推論する方法には、「帰納」と「演繹(えんえき)」があります。

「帰納」とは、類似の事例を集めて、結果を予測する方法。

「A社もB社もC社も、入会金半額キャンペーンをやったら、登録ユーザーが増えた。だから、我が社も同じキャンペーンをやれば、入会者が増えるはずだ」

これが、帰納的な推論です。あくまで推論なので、同じ結果が100%保証されるわけではありませんが、未来が不確定なものである以上、類似の事例から先を予測するというやり方は、組織が意思決定をするうえで納得感が高くなります。

一方の「演繹」とは、ある個別の事柄と、100%正しい規則を組み合わせて、そこから確実に言えることを導き出す方法。

「D社は銀行から融資を受けたい金額と同じ価値の担保を持っている。銀行は担保と同じ金額まで貸し出す。だから、D社は希望する額の融資を受けられる」

これが演繹的な推論です。業界ルールや普遍的な大前提など、「100%正しいと言えること」がある場合は、こちらの方法も有益となります。

どちらもビジネスに活用できる思考法ですが、それぞれ注意すべき点があります。

まず、帰納法は、「過去の事例と目の前の事例は、本当に類似しているか」を確認する必要があります。先ほどの例でいうと、「A社、B社、C社はもともと知名度が高いが、後発の我が社が同じキャンペーンをして同じ結果が出るのか?」といった点を検討すべきです。

演繹法は、そのルールや大前提が本当に100%正しいのかをよく確認すること。先ほどの例なら、「銀行は担保と同じ金額まで貸し出す」というルールが、融資を求める銀行にも当てはまることが確認できなければ、演繹的な推論は成立しなくなるので注意してください。

「SCAMPER」

SCAMPERとは、ある問題に対して、解決策を考えるときに役立つ「考える型」です。次の7つのやり方で、状況を改善する突破口を見つけます。

S:Substitute(代用する)
代わりに何か使うことができないかと考える。
例:「人手不足でスタッフを採用できないので、代わりにロボットを導入する」

C:Combine(組み合わせる)
組み合わせることで新しい価値や効果を生み出そうと考える。
例:「コンビニとコインランドリーを組み合わせて営業する」

A:Adapt(適応させる)
成功事例を新たな状況に適応させてみる。
例:「必ず結果を出すフィットネスジムのやり方を、英会話教室に適応させてみる」

M:Modify(修正する)
今あるものを変形させて、新たな状況に対応できないか考える。
例:「古い町家を改造して、若者向けのカフェにする」

P:Put to other uses(その他の使い方をしてみる)
別の用途で使うことで、新たな価値やニーズを創出する。
例:「少子化で空いた学校の教室を、デイサービス施設に使う」

E:Eliminate(取り除く)
今あるものをシンプルにしたり、絞り込んだりする。
例:「 メニューを塩ラーメンのみに特化した専門店にして、味噌やトンコツのラーメンは取り除く」

R:Rearrange (並び替える)・Reverse(逆にする)
本来の順序や手順、立場を入れ替えてみる。
例:「 注文を受けてから栽培を始めるメロン」「太りたい人のためのエステサロン」

このように、さまざまな切り口から考えてみることで、目の前の問題を解決する糸口やヒントが見つかります。結果や現状をもとに、改善策を考えるときに役立つ思考法です。

「MECE」

ロジカルシンキングの基本となる概念で、「漏れなく、ダブりなく」全体を網羅して考えるという意味です。

仮説を立てるとき、問題が起こったときなどに、「抜けている前提はないか」「見落としている例外はないか」と常にチェックをするクセをつけましょう。最近、ある製菓会社の高カカオタイプのチョコレートが大ヒットしていますが、これは、あまり売れていなかった商品のパッケージを大胆にリニューアルしたことに所以すると言われています。「美味しいから売れる」「本格派のチョコは売れる」という前提に漏れがないか再検討して、「写真に撮って共有したくなるパッケージ」という漏れを見つけたのでしょう。

また、ダブりに注目することで、計画のムダや非効率なプロセスを改善することも可能になります。

「フェルミ推定」

フェルミ推定は、一見、掴みどころのない量を、それを構成する要素に因数分解し、それぞれの要素に数字を当てはめて考えることで概算を出す方法です。

「売上げ=客単価×客数」「利益=売上げ-コスト」などと、分解して考えることで改善策が見えやすくなります。この場合、「売上げ=客単価×客数」なら、「客単価を上げる」か「客数を増やす」という2つの問題解決策があり、数字を当てはめればより効果的な方法がわかるでしょう。

ただし、分解の仕方は一つではありません。「売上げ」は、多店舗展開している小売業なら「売上げ=客単価×客数×店舗数」になり、「利益」も、「コスト」でひとまとめにせず、「人件費」「宣伝費」「販売管理費」などに分解して考えるべき場合もあります。

「Bad Case Thinking」

その名のとおり、「悪いケースを考えてみる」という方法。いったん仮説を立てても、あえてうまくいかない場合や失敗する場合を想定し、自分で自分に反論してみることで、仮説に穴がないか、前提に漏れや抜けがないかなどを確認できます。

私がよく小学生に出題するのが、「テレビゲームを買ってもらうための理由を挙げてみよう」というもの。すると、たいていは「皆が持っているから」「テレビゲームをやると勉強の息抜きになってよいから」などの答えが出ます。彼らは「これでうまくいく」と信じているわけです。

そこで、あえてうまくいかない場合を想定させるため、続けて「意地悪な保護者の立場になって反対してみよう」という問題を出します。「“皆”というのは本当に全員か」「なぜ他の皆が持っていると、自分も持たなくてはいけないのか」「テレビゲームは本当によい息抜きになるのか。むしろゲームに夢中になって、勉強に集中できなくなるのではないか」

こうして、これでもかと反論を考え、それに備えて準備することで、自分の意見はより強固なものになります。また、プレゼンや会議で意見を述べた際の予想外の反応にも対応しやすくなるはずです。

なお、企業の会議でも、「とにかく逆の意見を言う担当」を置いて、チームとしての仮説を検証している会社があります。社内の価値観や常識だけを前提に考えることを防ぐためには有効な方法の一つです。

「ゼロベース思考」

目の前の現象にとらわれず、ゼロベースで考えるという思考法。そもそもの問題設定を疑ってみたり、絶対的だと考えている前提条件や制約条件を取り払ってみたりすることです。

たとえば、広告を出しても集客ができず儲けが少ない店があるとします。しかし、問題(儲けが少ない理由)は現在取り組んでいる集客ではなく、当たり前だと受け入れている仕入れコストや価格設定にある場合があります。常に問題の「論点」を考えることが解決の糸口となります。

苅野 進(かりの・しん)学習塾ロジム塾長兼代表取締役社長
東京都生まれ。東京大学文学部卒業後、経営コンサルティング会社にて、社会人向けのロジカルシンキングの研修・指導などを担当。自ら問題を設定し、試行錯誤しながら前進する力を養うことこそ教育の最も重要課題であるという考えから、2004年に学習塾ロジムを設立。小学生から高校生を対象に、論理的思考力・問題解決力をテーマにした講座を開講している。著書に、『10歳でもわかる問題解決の授業』(フォレスト出版)など。(取材・構成:塚田有香)(『The 21 online』2018年2月号より)

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