カンブリア宮殿,ウィラー,WILLER ALLIANCE
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この春おススメ~安くて快適な高速バス

2年前に開業した日本最大のバスターミナル・バスタ新宿は、北は青森から南は福岡まで、1日約2万8000人が利用する。高速バスを利用するのは若者だけでなく、今はシニア層も増加。高速バスの利用者は、年間1億2000万人。この20年で2倍以上に増えている。

多くのバスが集まるなか、目につくのがピンク色のウィラーエクスプレスのバス。大阪行きが朝9時、バスタ新宿を出発した。

ウィラーのバスはシートに特徴があるという。このバスのシートには、女性に嬉しい寝顔を隠せるフードが付いている。リクライニングは140度と他社のバスより深め。これは「リラックスNEW」というウィラーでは一般的な4列シートで、東京から大阪まで4400円~(料金は時期により変動)。さらに学生は学割で3500円~、55歳以上の人もシニア割引で3500円~になる。新幹線より約1万円安いことも人気の理由だ。

新宿を出たバスは2時間ごとに休憩を取り、3回休んだ後、京都を経由して約10時間で大阪に到着した。大阪梅田にあるバスターミナルの横にはウィラー専用の待合所が。中はオシャレな空間になっている。ウィラーは大阪からの出発だけでも、北は新潟から南は博多まで運行。全国では22路線。およそ300便を毎日運行している。

ウィラーの最大の特徴は「ローコストネットワーク」。低価格で全国各地を結ぶ。東京から名古屋や長野までは1500円~、仙台までは1900円~と、常識はずれの安さを実現している。

東京都江東区新木場にウィラーのバスの拠点、ウィラーエクスプレス本社営業所がある。ウィラーは215のバスを保有する。

車体は似ているが、実はバスによっていろいろなシートがあり、運賃も変わるという。

ビジネスマンに人気が高いというバスには「コクーン」というシート。一車両に19席しかなく、ゆったりとしたスペース。「コクーン」とは「繭」という意味で、繭に包まれたような半個室になっている。電動式のリクライニングシートは斜めに配置され、後ろの人を気にせずに倒せる。さらに座席の前にはモニターがついていて映画やテレビを楽しむことができる。「コクーン」の東京大阪間の料金は7040円~。

一方、「リボーン」は、全18席。「リボーン」とは生まれ変わるという意味。足を伸ばしてゆっくり休み、リフレッシュしてほしいという思いから名づけられた。東京大阪間は1万800円~。さらにワンフロアにわずか4席の「エグゼクティブシート」は同1万1100円~となる。

選べるシートは10種類で、すべてウィラーが自社開発した。ビジネスマン向けシート「ニュープレミアム」には、スーツがしわにならないようハンガーとパソコンが使えるテーブル付き。女性にターゲットを絞った「ボーテ」には、「眠りながらきれいに」をコンセプトに、美肌効果のあるイオン発生機と足のむくみをとるマッサージ器が付くなど、乗客のタイプに徹底して合わせてある。

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なぜ安い?~乗車率80%超えを実現する秘策

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ウィラーの本社は大阪・梅田にある。創業は1994年。従業員はグループ全体で800人。今、バス業界の中で最も注目を集める若い会社だ。

代表の村瀨茂高(54)は、「バスというのは安いことが特徴の一つ。できるだけ運賃は安く。けれどもちゃんと快適なことを実現する」と、安さと快適性の両立を語る。

その安さの理由を、村瀨は「普通のバス会社は乗車率が50%、多くて60%ぐらいを目標としているところが多いと思いますが、ウィラーでは全てのバスの乗車率が80%を超えるようにやっています」と説明する。

高い乗車率を達成するためのカギを握るのが40人からなるマーケティング部隊。その仕事ぶりを見せてもらうと、それぞれがPCの画面でチェックしているのは、韓流アイドルのホームページや、日本各地の桜の開花情報、肉のフェスティバルの案内……。

「いわゆる需要の予測で、例えば大阪でコンサートがあるとその時に需要はぐっと上がる。だから年間にどんな行事があるかということを、担当は全部把握するように努めて、それに合わせて増便できる体制を作っています」(村瀨)

全国各地のイベントをチェックして乗客の数を予測し、バスの便数を調整しているのだ。

他にも工夫がある。例えは新宿から広島に向かうバスは通常は8400円だが、出発日が迫っても空席があると7900円に。乗車率を高めるために料金を段階的に下げている。

「日々のお客様の予約状況をチェックしながら、いつもよりも少しご予約が少ないと思う日程をチェックして、必要があれば料金を下げています」(マーケティング担当・村上真衣)

さらに乗車率を高める秘策があった。高速路線バスでの信州松代温泉の旅は、高速バスと宿泊をつけたプランで1泊2食付きで9800円~。長野行きの高速路線バスは、5年前、新たにバス停を作った。ウィラーと提携する人気ホテル「信州松代ロイヤルホテル」の入り口に停留所を設けることで、長野に向かう高速バスの乗車率を高めているのだ。

ホテルの部屋は北アルプスが見渡せる落ち着いた雰囲気の和室。夕食は食べ放題のバイキングで、一番人気はカニだ。ホテル側は「当ホテルは345室あるので、夫婦、カップル、いろいろな層をとっていかないとどうしても客室を埋められない現実がありますので、そういう点でウィラーとの提携はとても助かっています」(伊藤たけ実さん)と言う。

ウィラーは様々なプランで全国各地のホテルと提携。お得なサービスで客を集めている。

ウィラーの売り上げは今やバス業界でナンバーワン。村瀨は「日本中の隅々に、快適に便利に、安全に行けるような移動のネットワークを作りたいと思っています」と語る。

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安全と快適を両立~人気ナンバーワンの高速バス

富山県の「エムビーエムサービス」は、バス会社の要求に応じて車体の改装や整備を行っている。現在、ウィラーのバスの改装はここが一手に引き受けている。

この日、村瀨は開発中の2階建てバスを自らの目でチェックしにやってきた。シートをつける床には安全対策の補強材が据えられていた。

「安全は整備がすごく大事です。車両に関しては快適性というのもあるんですけど、実際には安全整備がすごく重要なので、最初からやっていました」(村瀨)

安全を第一に考える村瀨。その裏には過去の苦い経験があった。1963年、名古屋に生まれた村瀨。子供の頃の楽しみは家族旅行だった。大学では旅行サークルに入りさまざまなツアーを企画。その延長線で卒業後はツアー会社に入社、全国を飛び回った。94年にバスツアーの企画会社「西日本ツアーズ」を設立。業績は順調に伸びた。

しかし、運行を委託していたバスに対するクレームが相次ぐ。実際に客を集めて話を聞くと、「シートが窮屈で腰が痛くなる」「シートが不潔だしダサい」という不評の声が上がった。

「バスの席は狭いとか、バスは臭いとか、バスに対するイメージが非常に良くなかった。この思い自体を変えてしまうことがスタートしてすごく重要だと考えました」(村瀨)

村瀨はシートを変えるようにバス会社に掛け合ったが、応じてくれるバス会社は一社もなかった。村瀨は「だったら、自分たちで作ろう」と思った。

独自のシートづくりに協力してくれたのが、10年来の付き合いになる富山県・天龍工業社長の吉川德雄さんだ。シートの開発は、試行錯誤の連続だったという。

「部品ひとつひとつに大変さがあります。クッション、カノピー(フード)、枕、高さ、全てが勉強の連続でした。いかに乗り心地を良くするか、究極のシートです」(吉川さん)

独自のシートが完成するまでに要した時間は1年以上。試作した数は実に60を超えた。こうしてできたのがピンク色の「リラックス」だ。

2007年にはウィラーに社名変更し、バスの車体もピンク色に。きれいで快適なシートは評判となり、ウィラーは急成長していった。

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「二度と事故は起こさない」~バス業界初の安全対策

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しかし大きな転機が訪れる。2012年、関越道で高速ツアーバスの事故が発生。7人が死亡、39人が重軽傷を負う大事故だった。他社の事故ではあったが、当時、高速ツアーバス協議会の会長をしていた村瀨は矢面に立ち、国会にまで呼ばれた。3年後、村瀨はさらなる窮地に立たされる。ウィラーのバスが事故を起こしたのだ。当時、他社に運行を委託したバスだったが、23人が重軽傷。村瀨にとっては痛恨の出来事だった。

「心臓が張り裂けるという言い方がいいのか分からないけど、どうしたらいいんだろうと、すごく辛かったです。事実を受け止めると同時に、しっかりと僕が対応しないといけない。特に社員に向けての指揮系統も含めて」(村瀨)

二度と事故は起こさない。そう誓った村瀨は業界初ともいえる安全対策に踏み切る。それは運転手の健康を最大限サポートすることだった。

その要ともいえる施設「新木場ベース」が今年1月、江東区の本社営業所にできた。

勤務を終えた運転手が向かうのは宿泊室。79室あり、次の乗務までしっかりと睡眠をとる。以前は駐車場から30分ほど離れていたが、ここに宿泊施設ができたことで往復1時間分、長く休める。また運転手の健康診断の結果を4段階に分け、ランクが上がると報奨金がもらえるようなシステムも整備した。

健康管理は運転手任せにしない。「新木場ベース」にある食堂では、栄養バランスがとれた日替わりのヘルシーメニューが食べられる。塩分控えめで500キロカロリー。会社をあげて食生活の改善に取り組んでいる。さらにこの施設には2人の保健師が常駐し、生活そのものからアドバイスを行う。

実は運転手の生活習慣病がきっかけで事故につながるケースは多い。特に突発性のある心臓や脳の疾患は、死亡事故の大きな要因になっているのだ。だからウィラーでは早期発見にも力をいれ、脳や心臓などの定期検診を全額会社負担で実施している。

さらに、バス会社で初めて導入した安全対策装置が「フィーリズム」。これをドライバーが首にかけると、耳たぶの血流から眠気を感知、装置が振動して注意を促してくれるのだ。

さらにすべてのドライバーのデータはリアルタイムで運行管理本部に送られる。ドライバーの眠気を検知するとモニターがオンに。バスが真っ直ぐ走っているか、ドライバーに異変が起きていないかをチェックする。

「ふらついた運転がもし見えれば、即座に無線で連絡して安全な場所に停車させる、という指示まで持っていきます」(運行管理責任者・柳原昭仁)と言う。

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赤字ローカル線を再建~バス会社がなぜ鉄道を?

リアス式の海岸線が美しい京都・舞鶴。西舞鶴駅から出ているのが通称「丹鉄」、京都丹後鉄道だ。木目調のおしゃれな車内の観光列車「丹後あかまつ号」は、西舞鶴から日本三景のひとつ、天橋立までを走る人気の列車。実はこの路線、かつて赤字ローカル線の象徴だった。1988年、旧国鉄の宮津線が第3セクターの「北近畿タンゴ鉄道」として再出発。しかし利用者が増えず、日本一の赤字鉄道となり、事実上破綻した。2015年、その再建に手を挙げたのがウィラーだった。

「人間の体でいうと毛細血管のような、交通に言い換えると地域を回る交通を作っていこうということが、丹鉄という地方の基軸交通となる鉄道会社を始めた理由です」(村瀨)

村瀨は丹鉄を観光列車とすることで客を呼び再生。結果として地元の人の足を残そうと考えた。そのためには沿線の観光スポットを発掘することも必要だ。

「丹後あかまつ号」は途中の丹後由良駅で30分停車する。乗客は駅のすぐそばにある建物へ。お湯と海水を混ぜた足湯を楽しめる。ウィラーは観光列車と町歩きを組みあわせて地域に人を呼び込もうとしているのだ。

「あかまつを利用してここを訪問してくださる。今までになかったことなので、非常に村の人も喜んでいる。ますます丹後鉄道が繁栄してほしいと思います」と、観光案内ボランティアの高橋洋二さんは期待をかける。さらに働く場として地元の人を積極的に雇用。乗務員の増本友美は「あかまつ号ができた当初から乗務させてもらっているので、地元の方と一緒に丹鉄を盛り上げたいという気持ちがあります」と言う。

一方、島根県江津市の駅前に止まっているのは真っ赤なバス。ウィラーが仕掛ける日本初のレストランバスだ。1階は調理場。地元食材を味わいながら隠れた名所を巡り、地域おこしに一役買おうと始めた。コースは全部で5品。本格的な懐石料理を堪能できる。天気がよければ屋根を開放。目の前には日本海が広がる。

一行はその海の幸が上がる江津漁港へ。漁師からのサプライズは朝獲れたばかりの大きなアワビの試食。続いて地元で古くから伝わる石見焼の窯元「石州宮内窯」を見学。石見焼は国の伝統工芸品に指定されているが、全国的に知名度は低い。その良さ知ってもらうのもツアーの目的だ。

ウィラーとレストランバスを共同企画した地元のレストランバス実行委員会・原田真宜さんは、「窯元や漁業の生産者など、横をつなぐツールがなかった。レストランバスで町おこしが一緒にできるのは本当にいい取り組みだと思います」と言う。

町おこしに一役買うレストランバス。全国の自治体や企業と提携できれば、どこにでも駆け付けるそうだ。

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~村上龍の編集後記~

市場が成熟し陳腐化がはじまると、低価格競争が起こる。その波に巻き込まれないためには、安定期に、変化を準備するしかない。

ウィラーは高速バス事業参入後、独自にシートを開発した。低料金よりも、快適さのほうが、利用者にとって魅力だろう、という判断だった。

そして、運行管理から、販促・宣伝まで、徹底してITを駆使した。SEも、Webデザイナーも、自社でそろえている。

村瀨さんは今後、さまざまな交通機関のネットワーク化を考えている。市場に従うのではなく、新しい市場を生みだす、その戦略は徹底している。

<出演者略歴>
村瀨茂高(むらせ・しげたか)1963年、愛知県生まれ。1994年、西日本ツアーズ設立。2005年、WILLER ALLIANCE設立。2006年、高速バス「WILLER EXPRESS」事業を開始。

放送はテレビ東京ビジネスオンデマンドで視聴できます。

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