例年より満開を早く迎えた桜に続き、新年度の幕開けとともに、春の風物詩ともいえる入社式が各企業で行われた。鉄鋼業界で国内最大手の新日鐵住金 <5401> でも、希望を胸に膨らませた新入社員が、人生の新たな一歩を踏み出した。

アメリカのトランプ大統領による鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置として、追加関税の導入が発表され、業界には不透明感が漂う。そのような状況で実施された入社式で、同社の進藤孝生社長が語った言葉とは。

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(画像=Joseph Sohm/Shutterstock.com)

好調需要も過度な楽観論にクギ刺し

不安と期待で胸をいっぱいにした新入社員を前に、進藤社長は新日鐵住金で共通のあいさつである「皆さん、ご安全に!」という言葉からメッセージをスタートした。同社長は「鉄鋼需要は中長期的に着実に伸びていくと想定される」と続け、新入社員には安心感が広がった。

一方で、トランプ米大統領による鉄鋼やアルミニウムの追加関税措置に関連し、「世界各国では保護主義や自国産化を目指す動きが鮮明になっており、当社を取り巻く環境は楽観できるものではない。競合他社の競争力向上や、需要家業界におけるプレイヤーの変化等、ビジネスモデル自体が早いスピードで大きな変化を迎えようとしている」とも指摘。国内最大手の新日鐵住金といえども、グローバルな潮流に対応できなければ、厳しい状況が待ち受けていることを強調した。

工場での事故が相次ぐ新日鐵住金

鉄鋼業界を取り巻く状況について説明を終えると、新入社員に対し、同社のものづくりの価値観を心に刻むように注文を付けた。その価値観とは、「第一に『安全・環境・防災』、第二に『品質』、第三に『生産』、そして『コスト、収益』」の優先順位で構成されるものだ。

まず、「安全・環境・防災」を掲げて力を込めた背景には、同社の全国各地の製造現場で事故が相次いだことが影響しているだろう。2017年12月には和歌山製鉄所、2018年に入ってからは2月に新潟県の直江津製鉄所で、作業中に事故が発生し、それぞれ作業員が死亡。また、このほかにも17年1月には大分製鉄所厚板工場において大規模な火災が発生し、操業再開までに7か月近い歳月を要した。

品質や生産、コスト、収益の価値観に言及したのは、日本のメーカーで相次いだデータの改ざんなどにより、世界でもトップレベルの品質を誇ってきた日本製品の信頼が揺らぐ事態を憂慮したことが影響しているだろう。業界のライバル社でもある神戸製鋼所 <5406> では、品質データの改ざんが発覚し、社長が辞任する事態にまで発展した。

グローバルで活動する新日鐵住金にとっても、日本メーカーの製品に対する信頼が失墜すれば、対岸の火事では済まされない。こうした状況を踏まえ、進藤社長は新入社員に対し、「一人ひとりの規律ある行動、ルールの遵守」を心に刻む重要性を説いた。

総合力世界No.1の鉄鋼メーカーへ

さらに、新入社員の門出とともにスタートを切る中期経営計画についても進藤社長は説明。具体的には「『つくる力』を徹底的に鍛えなおし、安全操業と安定生産を確立する。事業基盤『設備』と『人』に経営資源をしっかりと投入するなど、息の長い取り組みを継続していく。

その一方で事業をとりまく『メガトレンド』を捉えて、高度ITの製造現場への実装や、マルチマテリアルへの対応など、10年、20年見据えた事業戦略を構築する」と述べた。その上で、「鉄を極めることで最先端の技術を磨き続けるとともに、総合力世界No.1の鉄鋼メーカーに向け進化を続ける」と、高らかに目標を掲げ、新入社員の奮起を促した。

世界経済の堅調な成長により、底堅い需要の恩恵を受けると期待された鉄鋼業界も、アメリカによる追加関税措置など政治によって翻弄されかねない事態を憂慮している。日本鉄鋼連盟の会長も務める進藤孝生氏は、同連盟のトップとしての声明で、追加関税に対し遺憾の意を述べた。一方、日本からアメリカ向けに輸出される製品は自動車部品の線材、ラインパイプ用の鋼管など、高品質の製品が多く、日本メーカーしか製造できないとされ、関税が引き上げられても、安価な代替え製品にシェアを奪われる事態は想定しにくい。

こうした不透明な状況でも、世界トップクラスの品質を誇れば、厳しいグローバル市場においても企業として生き抜いていける。進藤社長が入社式で品質の徹底管理を強調したのは、 他の企業における品質改ざんなどが長年の企業体質が改められなかったことで発生したためだろう。まだ企業の体質に染まっていない新入社員に大きな期待をかけた。

業界最大手というブランドも、品質などの強みが揺らげば、一瞬にして競争力を失うことに警鐘を鳴らし、身を引き締めながら、厳しいグローバル市場で生き抜く精鋭たちの門出を祝った。(ZUU online 編集部)