車両本体についたパンタグラフが架線から電力を取り込み走る、というのが従来の電車です。しかしこの方式では地方に電車を走らせることが難しく、これまで地方路線では、エンジンを搭載しディーゼルで動く「気動車」が利用されてきました。

「地方路線でも電車を走らせることができたら」、そんな願いを叶えてくれたのが、秋田県男鹿線にあらわれた寒冷地仕様蓄電池電車「ACCUM(アキュム)」です。導入以降、地元で大人気となっているアキュムの全貌と、蓄電池電車のこれからに迫ります。

「ACCUM(アキュム)」の仕組み

train
(写真=PIXTA)

2017年3月、秋田の男鹿線に導入された蓄電池電車アキュム。この蓄電池電車は電化区間ではパンタグラフを上昇させ、車両本体下にある大容量バッテリーに電力を蓄電しながら走行。架線のない非電化区間では、パンタグラフを下降させ蓄電池の電力を利用し走行します。「電力を架線からとるか、バッテリーからとるか」という違いはあるものの、基本的には一般的な電車と変わりません。

実は男鹿線にアキュムが導入される以前に、2014年には栃木で直流区間用の初代アキュムが、JR九州では交流区間用「DENCHA」が2016年より走行しています。秋田のアキュムはJR九州で開発された交流用蓄電池電車をベースとし、北国の冬でも走行できるよう耐寒・耐雪仕様にカスタマイズされています。

アキュムに搭載されたリチウムイオン電池は、ターミナルにある専用急速充電設備を利用して充電することもできるため、走行区間の途中で充電が切れてしまうという心配もありません。

便利なのにエコな蓄電池電車

地方で利用される気動車は燃料にディーゼルを利用するため、走行中は大量の二酸化炭素を排出してしまうというデメリットがありました。また、エンジンを搭載した気動車と電車では運転士の資格も異なり、電車の運転士は気動車を運転することができません。

ところが蓄電池電車の仕組みは電車と変わらないため、電車の免許を持つ運転士がそのまま蓄電池電車を運転できます。電化区間と非電化区間のある路線の場合、運転士は両方の免許を取得する必要がありましたが、アキュムであればその必要がありません。

アキュムは完全に電力のみで走るため、二酸化炭素の排出量も大幅に削減できます。さらに気動車よりもメンテナンス費用が安く、ランニングコストにも優れているのが特長です。

蓄電池電車は今後、普及するのか

namahage
(写真=PIXTA)

さまざまな魅力を持つこの蓄電池電車は、男鹿線で人気を博し、導入後、間もなく県民に愛されています。車両は赤と青で大胆にカラーリングされ、ヘッドマークには秋田でおなじみの「なまはげ」マークを採用。この地では歓迎ムードで迎えられた蓄電池電車ですが、他の地方での普及は進んでいくのでしょうか。

いち早く蓄電池電車が導入された栃木の烏山線では、2017年3月より全車両がアキュムに切り替わりました。しかし蓄電池電車はすべての面で優れているわけではなく、次のようなデメリットもあるため、日本全国すべての路線で利用するのは難しいともいわれています。

●長距離区間の走行が難しい
バッテリーの蓄電量と非電化区間での走行距離は比例します。現段階では、非電化区間を蓄電池で長距離走行することは難しく、導入路線が絞られてしまうというデメリットがあります。非電化区間が長い地方の路線での導入は難しいでしょう。

●導入コストの問題
蓄電池電車はランニングコストに優れている一方で、路線区間やターミナルに蓄電池電車用の整備を必要とすることから、ある程度の導入コストを必要とします。

蓄電池自転車に注目を

全区間を電化するよりも蓄電池電車を導入するほうが安いのは確かですが、短距離しか走れないという問題を解消しない限り、地方路線での導入は難しいでしょう。過疎化の進む地方では「そもそも鉄道が利用されていない」という実態もあります。蓄電池電車がどのように国内で普及していくのか、長い目で見守る必要がありそうです。

それでも導入メリットの大きい蓄電池電車は、この先も多くの人が期待を寄せるでしょう。これからどのように進化するのか、蓄電池電車のこれからに目が離せません。(提供:JIMOTOZINE)