はじめに
大企業によるベンチャー企業への出資、資本提携が増えつつある。これから、本格的にベンチャー企業との連携を考えようとしている企業もあるだろう。ベンチャー企業と一口に言っても、その成長ステージによって、見るべきポイントやリスクも異なってくる。ここで、ベンチャー企業の成長ステージについて整理し、狙うターゲットについて論じてみたい。
企業の成長ステージ
いろいろな定義はあるが、ベンチャー企業は大きく4つの成長ステージに分類される(図表1)。
シードステージのように早いステージほど、「目利き」は難しくなる。そのベンチャー企業が手がける技術・製品・サービスに精通している場合はともかく、まだ開発・構想段階、もしくは出来上がったばかりの製品・サービスを評価するハードルは高い。また、売上がほとんどない状態で、人件費や開発、マーケティングの費用で赤字が続く段階である。通常は、更なる成長のために複数回の資金調達が必要であり、資本参加するのであれば、追加出資に応じる想定も必要だ。一方で、企業価値が低いうちなら、少ない投資金額で一定の株式持分を保有して、経営に影響力を持つことも可能だ。将来その企業が大きく成長すれば、その株式持分の価値は何倍にもなろう。そして、まだ世に広く知られていない「イノベーション」にいち早くアクセスできるというメリットもある。
他方、レイターステージのように遅いステージになると、一定の売上・利益が出ていて、顧客や従業員等、会社としての基盤がそれなりに出来上がっている。早いステージと比較して、投資してからすぐに倒産してしまうリスクも低くなる。また、販売・開発等のトラックレコードがある分、製品・サービスの評価や、事業計画・収益力の分析は手がけやすくなる。一方で、企業価値は成長している分だけ高くなっているので、一定の株主持分を保有するためにはそれなりの投資金額が必要になる。注目の有望ベンチャー企業であればなおさらで、億円単位の金額を想定する必要がある。また、先に同業の競合他社が資本参加していて入り込めない等、先行者メリットを享受出来ない場合もある。リスクが低くなった分、投資の果実も少なくなる。
上記のように、ステージによって、必要資金、投資リターン、リスク、要求される目利き・経営支援能力、投資効果の実現時期や成功確度が異なってくる。ベンチャー投資を専門にする投資家の中には、得意なステージに特化した投資戦略をとっているプレイヤーもいる。どのステージまでターゲットを広げるのかは、よく考えておきたいポイントだ。
参考として、米国における創業後の企業生存率(図表2)を見ると、創業から1年で約8割、2年で約7割、3年で約6割となっている。創業間もない企業が生き残るのは簡単ではない。もし、早いステージのベンチャー企業もターゲットにするのであれば、投資した後、製品・サービスの開発が計画から遅れて資金も底を突きつつある、という痺れる局面に出くわすことも、十分想定しておきたい。
新しいサービスの提供、マーケティングを目的にネット系ベンチャー企業との連携を考える場合もあれば、大学発ベンチャーのように研究開発型ベンチャー企業との連携を考える場合もあるだろう。一般的に、研究開発型ベンチャーは、設備・開発機器等の初期投資が大きく、事業化・黒字化するのに時間がかかる。その分、多額の資金が必要になるケースも多い。また、研究者出身で、資金調達やマーケティング等、ビジネス面で不慣れな経営者もいるだろう。早いステージの研究開発型ベンチャーに資本参加するのであれば、追加の資金調達やビジネス面でのサポートにも注力したい。
おわりに
ベンチャー企業との連携に注目が集まる中、早いステージのベンチャー企業と接触する企業も増えるだろう。もちろん、早いステージに手を出すことが悪いというわけではない、それなりの理解と覚悟が必要なのだ。その上で、とことんベンチャー企業と付き合う姿勢の企業が増えて欲しい。
日本のベンチャー企業・イノベーションを取り巻く環境は良くなってきた。そのような中、投資の目的や理解が不十分なままで失敗してしまい、「こんなはずじゃなかった。」とベンチャーとの連携をやめてしまう事例が出るのはあまりに惜しい。足もとの良い機運が一時的なブームで終わることなく、多くの企業にとってベンチャーとの連携が当たり前になることを願ってやまない。
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中村洋介(なかむら ようすけ)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任
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