医療保険の保障内容は、必要十分なものにすべきである。そこでまず知っておきたいのが、入院した場合に受けられる様々な保障制度だ。どのような場合にどのくらいの保障を受けられるのか把握しておけば、自分に必要な保障内容を決めやすくなるのではないだろうか。

目次

  1. まず日本の公的医療保険制度について把握
    1. ●年齢に応じて保障内容を見直すのもおすすめ
  2. 高額療養費制度により自己負担額を軽減
    1. ●69歳以下の人の自己負担限度額
    2. ●70歳以上の人の自己負担限度額(2018年7月診療分まで)
    3. ●70歳以上の人の自己負担限度額(2018年8月診療分から)
    4. ●限定額適用認定証の活用が便利
    5. ●自己負担額をシミュレーション
  3. 傷病手当金制度により逸失収入をカバー
    1. ●傷病手当金により保障されるのは標準月額報酬の約2/3
    2. ●傷病手当金の有無によって対策を変える
  4. 健康保険組合の付加給付金制度についても確認
  5. 医療保険の保障内容を決める場合のチェックリスト
  6. 各種制度を理解して賢い医療保険選びを

まず日本の公的医療保険制度について把握

医療保険,保険見直し
(画像=PIXTA)

日本は、国民皆保険制度をうたっている。国民全員を公的医療保険により保障することで、安い費用で高度な医療の提供を受けられるようにしているのだ。

医療費の負担割合は、年齢や収入に応じて以下のようになっている。

・0歳〜6歳(義務教育就学前)……2割負担
・6歳(義務教育就学後)〜70歳未満……3割負担
・70歳以上75歳未満……2割負担(現役並み所得者は3割負担)
・75歳以上……1割負担(現役並み所得者は3割負担)

●年齢に応じて保障内容を見直すのもおすすめ

日本では年齢や収入によって医療費の自己負担額が変わる。例えば、40歳の人が肺炎の治療のため入院して医療費が80万円かかったという場合、医療費の自己負担額は24万円になる。一方、患者の年齢が75歳である場合、自己負担額は8万円になるのだ。

近年は、退院後の通院について保障する「通院保障特約」の人気が高まっているが、その保険料は保険金額に比例して高くなる。若い間は医療費の自己負担割合が大きいため退院後の通院に対してもそれなりの備えをしておく必要があるだろうが、70歳以上は医療費の自己負担割合が小さくなる。また老後は年金生活になるため、資金力が低下しがちである。

こういった点について考慮すれば、70歳、75歳といったタイミングで保障内容を見直し、保険金額を下げて保険料負担を抑える、というのも選択肢の1つではないだろうか。

高額療養費制度により自己負担額を軽減

公的医療保険制度には、医療費が高額になった場合の経済的負担を軽減すべく「高額療養費制度」が設けられている。この制度では、1か月間(その月の1日から末日まで)における医療費の自己負担額が高額になった場合に、自己負担限度額を超過した分について払い戻しを受けることができる。

高額療養費制度による自己負担限度額は、年齢や収入に応じて以下のようになっている。

●69歳以下の人の自己負担限度額

・年収約1,160万円〜……25万2,600円+(医療費−84万2,000円)×1%
・年収約770〜1,160万円……16万7,000円+(医療費−55万8,000円)×1%
・年収約370〜770万円……8万100円+(医療費−26万7,000円)×1%
・年収約370万円まで……5万7,600円
・住民税非課税者……3万5,400円

●70歳以上の人の自己負担限度額(2018年7月診療分まで)

・年収約370万円〜……8万100円+(医療費−26万7,000円)×1%
・年収156〜約370万円……5万7,600円
・II住民税非課税世帯……2万4,600円
・I住民税非課税世帯……1万5,000円

●70歳以上の人の自己負担限度額(2018年8月診療分から)

・年収約1,160万円〜……25万2,600円+(医療費−84万2,000円)×1%
・年収約770〜1,160万円……16万7,000円+(医療費−55万8,000円)×1%
・年収約370〜770万円……8万100円+(医療費−26万7,000円)×1%
・年収約370万円まで……5万7,600円
・II住民税非課税世帯……2万4,600円
・I住民税非課税世帯……1万5,000円

●限定額適用認定証の活用が便利

高額療養費制度により限度額超過分が後日払い戻されるとはいっても、一度に多額の支払いをするのは大変であろう。そこでおすすめしたいのが、「限度額適用認定証」の利用である。患者が70歳未満である場合、保険証と限度額認定証を提示することにより、窓口における医療費の支払いを自己負担限度額までに抑えられるのだ。

限度額認定証の交付を受けるには事前の申請が必要になるため、入院や手術が決まり医療費が高額になりそうな場合は、手続きをしておくことをおすすめする。

●自己負担額をシミュレーション

医療保険の主契約について決める際は、入院した場合の自己負担額について詳しくシミュレーションしてみることをおすすめする。

年収700万円の40代男性が、悪性新生物の治療のため30日入院し、100万円の医療費がかかったと仮定する。この場合、医療費の自己負担額は8万1,000円+(100万円−26万7,000円)×1%で、8万8,330円になる。これに1日あたりの差額ベッド代2,407〜7,797円と食事代1,380円をプラスすると、今回の入院では1日につき6,731円〜1万2,121円の自己負担額が発生することになる(差額ベッド代については『主な選定療養に係る報告状況』(厚生労働省)の2017年7月時点のデータを、食事代については2018年4月時点の入院時食事療費をもとに計算)。

一方、これが㈼住民税非課税世帯の70歳男性であった場合、医療費の自己負担額は2万4,600円であるため、差額ベッド代と食事代をプラスしても、1日あたりの自己負担額は4,607〜9,997円となる。

こうして具体的に計算してみると、医療保険の入院保障日額をいくらにすればいいのか、何歳を境にその保障額を見直せばいいのか、といった点が具体的に見えてくるのではないだろうか。

傷病手当金制度により逸失収入をカバー

病気やケガにより入院すると仕事を休まなければならず、その間、収入を得られない場合がある。実際、生命保険文化センターが入院経験者を対象に直近入院時の逸失収入の有無について調査したところ、21.8%の人が「逸失収入があった」と回答しているのだ(『平成28年度 生活保障に関する調査』より)。

公的医療保険制度や高額療養費制度を活用することで治療費の自己負担額については抑えることができるものの、入院・療養中の逸失収入について不安を抱える人は少なくない。

そこで知っておきたいのが、「傷病手当金制度」である。これは、病気やケガで会社を休んだ場合に本人とその家族の生活を保障するためのもので、以下の条件を全て満たす場合に手当金が支給される。

・業務外の病気やケガの療養であること
・病気やケガの療養のために、仕事を休んでいること
・療養のため、4日以上にわたり仕事を休んでいること
・仕事を休んでいる間、給与の支払いを受けていないこと

●傷病手当金により保障されるのは標準月額報酬の約2/3

支給される傷病手当金は、「支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3」により算出される。傷病手当金制度には3日間の待機期間(仕事を休み始めた日より連続した3日間)があるが、概ねこの制度を利用することで給与の2/3の支給を受けられると考えて差し支えないだろう。

●傷病手当金の有無によって対策を変える

傷病手当金は、支給開始日より最長1年6か月間にわたり受け取ることができる。また一定の要件を満たす場合は、退職後も傷病手当金の申請が認められる。

給与所得者が医療保険の保障内容について検討する場合は、療養により仕事を休んだとしても給与の2/3程度の保障は受けられることを念頭に置いておくといいだろう。一方、自営業者については、療養のため休業しても傷病手当金の支給を受けることができない。そのため医療保険の入院給付日額をやや高めに設定したり、医療保険とは別に所得補償保険に加入したり、といった対策が必要になる。

健康保険組合の付加給付金制度についても確認

健康保険は、「国民健康保険」と「社会保険」の2種類に大別される。国民健康保険の運営者が市町村であるのに対し、社会保険は健康保険組合もしくは協会けんぽにより運営されている。

健康保険組合により運営されている社会保険に加入している場合、付加給付制度を利用できる可能性がある。「付加給付」とは保険給付に併せて「追加で」支給されるもので、これにより医療費の自己負担等をさらに軽減することができる。

追加給付制度の概要は健康保険組合によって異なるが、例えばエヌ・ティ・ティ健康保険組合の場合、医療費の自己負担額を軽減するための制度が設けられている。医療費が高額になった場合は「高額療養費制度」により自己負担額を所定の限度額に抑えられるが、同健康保険組合ではその負担をさらに軽減すべく、自己負担額から2万5,000円を控除した額が追加給付されるのだ(100円未満切り捨て、算出額500円以下は不支給)。

これにより被保険者は、毎月の自己負担金を2万5,000円程度にまで抑えることができる。

医療保険の保障内容を決める場合のチェックリスト

医療保険は、保障内容が良くなればなるほど保険料が高くなる。手厚い保障を用意するに越したことはないが、それにより家計が圧迫されたり、保険料を払えなくなって失効したりするのでは、本末転倒だ。医療保険の保障内容は、保険料を無理なく負担できる範囲で必要十分なものにすることをおすすめする。

公的医療保険制度や高額療養費制度は、年齢や収入によって受けられる保障が変わってくるし、傷病手当金制度や付加給付金制度は、誰でも使えるわけではない。そこで、医療保険の保障内容について決める場合は、最低限以下のポイントをチェックするといいだろう。

・年齢と収入に基づく医療費の自己負担割合
・医療費が高額になった場合の自己負担限度額
・傷病手当金制度の適用対象かどうか
・傷病手当制度が利用できる場合、どのくらいの給付が受けられるか
・加入している健康保険の運営者が健康保険組合かどうか
・健康保険組合が、付加給付金制度を設けているかどうか

健康保険の運営者が健康保険組合かどうかについては、保険証の左下に記載されている「保険者名称」による確認できる。この部分の表記が「〇〇健康保険組合」になっていれば、付加給付金制度が設けられている可能性がある。

各種制度を理解して賢い医療保険選びを

日本は公的制度が充実しており、病気やケガの療養をする場合には様々な保障が受けられる。ただし、具体的な保障内容は職業や収入、年齢などによって異なるため、まずは自分が受けられる保障の種類とおおよその額について、予め把握しておくことが大切だ。どのような場合にどのような保障を受けられるのか理解しておけば、自分にとって必要な保険の種類とその保障内容について、見えてくるものがあるのではないだろうか。

曽我部三代
保険業界に強いファイナンシャルプランナー。富裕層の顧客を多く抱え、税金対策・相続対策を視野に入れたプランニングを行う。2013年より、金融関連記事のライターとしても活動中。