(本記事は、津田倫男氏の著書『誰も書けなかった「銀行消滅」の地図帳』宝島社、2018年5月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

誰も書けなかった「銀行消滅」の地図帳
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

金融はバブルの二の舞へと歩み出している

今、銀行も信金も本業を疎かにしている。その一例が貸出の減少だと私は主張しているが、貸出量のデータだけをみるとそうでもない印象がある。

17年3月期に貸出額が7.8兆円増加しているが、その内訳は個人向けが▲+2.9兆円、地方公共団体向けが+0.6兆円、中小企業向けが+4.8兆円、大・中堅企業向けが▲0.5兆円となっている。個人向けの相当の部分は住宅ローンとカードローンだと思われるが、詳細は不明だ。

そして、順調に増えていると見える法人向け貸出+4.3兆円(中小企業向け4.8兆円▲大・中堅企業向け0.5兆円)だが、法人不動産業向け+2.1兆円、個人賃貸業向けが+0.9兆円、合わせて3兆円の増加分が不動産関連貸出であることが判る。

世に言うアパマンローンである。

バブルの時に懲りたはずの不動産関連融資に銀行がまた手を出していることが判る。

銀行の立場からすれば、借入ニーズがあり、しかも担保付なので安心ということになるが、これでは後述の「人を見て貸す」という融資業務本来の姿から乖離している。

日本の銀行はいつまで経っても不動産しかやらないと揶揄されるゆえんだ。

銀行の貸出残の増加は個人向け住宅ローンと消費者ローン、加えて不動産関連融資によるものであることが数字の上から証明された。

これでは銀行、信金ではなくバブル崩壊後に破綻した住宅ローン専門会社と変わらない。

銀行本来の目的は殖産興業と個人富裕化のために、伸びる企業と個人に融資することにあるはずだ。土地持ちが更に裕福になる金融というのは国民のためにはならない。日本経済につきまとう批判、土地資本主義が更に強化されるだけだ。

高利回りと謳う仕組み債の秘密

誰も書けなかった「銀行消滅」の地図帳
(画像=wutzkohphoto/Shutterstock.com)

「仕組み債」と呼ばれる商品について耳にしたことがあるだろうか。

この名前では印象が悪いので、違う名前を使っているところもあるだろう。簡潔に言えば非常に高いリスクを伴う金融派生商品(=ディリバティブズ)の絡むものが多い。

ディリバティブズには、オプションやらスワップやら、外国為替など多様なバリエーションがある。一番よく使われるのは為替だが、その場合、例えばこんな感じで商品が説明される。

銀行の窓口:「オーストラリア・ドル(豪ドル)建ての債券ですが、クーポンが何と3%もあります。15年後の償還時には円貨で返ってきます。マイナス金利の昨今、とてもお得ではありませんか?」

客:「そうですね。今時、年利が3%だなんて夢のようです」

窓口:「一言、申し添えますが、購入される際の豪ドルと円の交換レートは償還時に変わっている可能性があります。それだけお含みおき下さい」

客:「そうですか。為替レートは変動しますからね。了解です」

これが不幸の始まりとなる。

年利3%に釣られてこのような商品を買うと、最良のケースでも15年後の償還時には元本部分が55%ほどに減っていて、15年間の利息の累計45% (3%×15年)と合わせてチャラとなるだけ。

最悪は想像もしたくないが、元本が1割ほどになっていて、45%の金利を得ても元本損の90%に相殺されて差し引き45%の損が計上される。まさかと思われるかもしれないが、そもそも償還時の為替レートには巧妙な仕掛けがあって、概ね損が出る。

さもなくば年率3%といった高利は保証できないので、売り手(銀行や信金の窓口スタッフ)には為替リスクがあることをサラッと説明するだけにせよとマニュアルに書いてあるようだ。

売り子自身も商品の仕組みがよく判っていないので、客から詳しいことを聞かれても答えられず、そういう時は先輩や本部から手伝いに来ている人間が、代わって説明するということになってしまう。それでも客が納得しないと商品を設計した部署と話してくれということになる。

私がこうした仕組み債などの危険性を指摘してから10年以上経つが、未だに類似商品が銀行や信金に出回っている。

客を煙に巻きやすいということなのだろうが、「うまい話にはウラがある」ということを忘れないで欲しい。

振り込めサギと同じと言うと語弊があるかもしれないが、こうした不当な商品が尽きないのは、騙されるほうにも責任がある。

2つ、3つ質問をすれば不思議なカラクリがあることが透けて見える、それさえもしないで説明を鵜呑みにしてしまう。これではまるで「どうか耳障りの良いことだけを教えて下さい」と言っているようなものだ。

こうした「似非」金融商品を売り続けていると本格的に顧客離れが起こる。

銀行、信金にとって一番面倒がなく、1人当りの利益も大きいシニア顧客にまで不信感を持たれてはどうしようもないと思うが、なぜ彼らの行動様式は変わらないのだろう。

ひとつには数が多いということがある。人口統計を持ち出さなくても若年層よりもシニア層のほうが多いことは明白だ。

次に現役世代よりもまとまったカネを持っている。

未だに政府などは日本人の個人金融資産が1700兆円だとか1800兆円と言っているが、この多くは60歳以上によって保有されている。

働き盛りの30代、40代は収入が多くても支出も相当にあり、預金額はたいしたことはない。50代くらいになると少し余裕ができて預金額も増えてくるが、定年を迎えた60代以降には及ばない。

3番目の理由は、カネがある割に知識がないということだ。

先述の仕組み債などを最も喜ぶのはこうしたシニア層である。何しろ「考えなくてもよい」から。皮肉っぽく言えば、どうせ15年先のことは判らないのだから(男性の場合、購入時に70歳なら償還時の85歳にはこの世にいないかもしれない)。

これもひとつの哲学なので一概に批判はできないが、こうしたお客さんが相手なら銀行も信金もとても楽だ。しかし、結果として損失が出るような商売を続けていればやがてそれは世間に広まり、必ずしっぺ返しを食らう。

最後の理由は「根拠のない銀行、信金への信頼」だ。

金融機関には耳の痛い話かもしれないが、日本ではまだ銀行が尊敬されている。途上国も同様だが、先進国ではそんなことはなく銀行の窓口の仕事はホワイトカラーの中では最低賃金しかもらえない。

ところが間接金融がずっと主体であった日本では銀行は常に「頼れる存在」だった。この信仰がまだ生きているので、銀行員や信金職員の言うことは、ほぼ無条件にシニア層には受け入れられる。特にシニア層にはこの傾向が強い。

ただ、この状況は長く続かないはずだ。

銀行や信金、信組が今後も国民の信頼を得たいと思うなら、そろそろ自分たちの安易な顧客対応や経営姿勢を改めなければならない。これまでの100年あまりの常識は、今後はもう当てはまらない。

また戦後70年、バブル崩壊後30年の顧客取り扱いマニュアルもそろそろ無効になるだろう。

津田倫男(つだみちお)
1957年、島根県松江市生まれ。企業アドバイザー。22年の銀行、投資会社勤務を経て、2001年に独立し、その後18年にわたり企業、金融機関、自治体などに戦略(M&Aを含む)、市場開発などの助言、人材育成支援ほかを行う。著書に『老後に本当はいくら必要か』(祥伝社新書)、『地方銀行消滅』(朝日新書)、『2025年の銀行員』(光文社新書)、『銀行員は第二の人生で輝く』(電子書籍/ボイジャー・プレス)など。一橋大学、スタンフォード大学経営大学院卒。