住宅ローンには三つの金利タイプがあり、金利の低い変動金利型や固定期間選択型の固定期間の短いタイプには、金利が低い、つまり値段が安いなりの理由があることを、連載の前回で紹介した。今回は、その「安いなりの理由」の恐ろしさについて、より具体的にみていくことにしよう。

住宅ローンも「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」

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(画像=PIXTA)

どんな商品でもそうだが、安いには安いなりの理由があり、高いには高いなりの理由がある。たとえば、野菜は姿形のいいものは高く売れるが、不揃いで形の悪いものは商品にならずに廃棄されたりする。でも、それではもったいないということで、姿形など気にしない、味さえよければOKという人向けに、訳あり商品などとして、安く販売されたりする。

こんなふうに安い理由が姿形だけであれば問題はないのだが、手間暇をかけずにすむように農薬をたっぷり使ったものだったり、売れ残って賞味期限切れになったものだったりしたらどうだろうか。金利の低い商品にもそれと似たような恐怖があるのだ。

そんな危ない商品には手を出さないのが一番だが、それでも金利の低さは捨てがたいという人もいるだろう。そんな場合には、内在するリスクをシッカリと理解して、十分に対策をとった上で利用しなければならない。孫子の兵法ではないが、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」ということだ。まずは、その「敵を知る」ということから始めよう。

変動金利型は5年後に返済額が最大25%アップ

変動金利型の住宅ローンは、前回も紹介したように、市中の金利変動に応じて、適用金利が変わり、金利が上がった場合には、返済額が増える。ただ、そうそう返済額が変わっては計画を立てにくいので、5年間は返済額を変えずに、5年後に見直すことになっている。金利が上がっていれば、返済額が増えるが、その場合には増額率を25%までに抑えることになっている。

最悪でも25%の増額だから、その準備さえしておけば大丈夫――そう考える人がいるかもしれないが、それではほんとうの意味で「敵を知る」ということにはならない。敵は、もっともっと恐ろしい存在なのだ。

というのも、5年間は返済額を変えないのだが、その間に金利が上がったときにどうするのかというと、金利上昇分を銀行がかぶってくれるわけではない。金利の変化は毎月の返済額のうちの金利分と元金分を調整する仕組みになっている。銀行がリスクを取るのではなく、あくまでもリスクは利用者に押しつけられる。

金利が上がると残高がなかなか減らないようになる

借入額3000万円、金利1%、35年元利均等・ボーナス返済なしの場合で試算してみよう。この条件の当初の毎月返済額は8万4685円だ。2年、24回の返済が終了した後、次回25回目の返済額のうちの利息分の計算式、24回終了後の残高×1%(金利)÷12か月だから、これに具体的な数字をあてはめると、こうなる。

2855万3730円(残高)×0.01(1%)÷12(か月)≒2万3794円

利息は2万3794円だから、返済額8万4685円からこの利息分の2万3794円を引いた6万891円が元金分になる。つまり、金利変化がなければ、25回目の返済では元金が6万円強減ることになる。

しかし、金利が上がるとそうはいかない。金利が1%から2%上がって3%になっていると、次のようになる。

2855万3730円(残高)×0.03(3%)÷12(か月)≒7万1384円

利息分が7万円強に増えるわけだが、返済額は8万4685円のまま変わらないので、元金分は1万3301円に減ってしまう。せっかく返済しても、金利上昇のおかげで元金は1万円ちょっとしか減らないことになるわけだ。

約定通り返済しているのに残高が増えてしまう!

もう少し金利の上昇幅が大きくなるのとどうか。金利が3%上がって、4%になった場合には、こうなる。

2855万3730円(残高)×0.04(4%)÷12(か月)≒9万5179円

こうなると、利息分だけで毎月の返済額を上回ってしまう。利息支払いにも満たないわけで、これが“未払い利息”といわれるものだ。必要な利息が9万円を超えているのに、毎月返済額は8万4685円で変わらない。足りない利息の9万5179円-8万4685円の1万494円が未払い利息として残高に上乗せされることになる。

つまり、毎月約定通りに返済しているのに、残高が減るどころか、反対に毎月1万円強残高が増えてしまうという恐怖の事態だ。これが1年続けば12万5928円、3年だと37万7784円になる。

もちろん、現在のような経済環境で、住宅ローン金利が2%も3%も上がることは考えにくいかもしれないが、過去には1年に2%、2年で3%上がったこともある。決してあり得ないと断言はできない。

最悪の場合には、それぐらいのことが起こっておかしくはない。それでも、自分の年収なら何とか対応できる――そんな自信のある人でないとこの変動金利型の住宅ローンはお勧めできないのだ。

固定期間選択型には変動金利型以上の増額リスク

固定期間選択型の固定期間の短いタイプには変動金利型以上の返済額増額リスクがある。固定期間選択型は2年、3年、5年、10年などの特約期間中は金利が固定しているが、その固定期間終了後には、その時点の金利でもう一度固定期間選択型にするか、変動金利型に切り換えるかを選択できる。いずれにしても、固定期間終了後には返済額が変わる可能性が高い。金利が上がっていれば、当然返済額が増えるが、この固定期間選択型には先にみた変動金利型のように、増額率を25%までに抑えるというルールは適用されない。

そのため、未払い利息の発生リスクはないのだが、反面、増額率が3割、4割になる可能性がある。よほど当初の返済に余裕がないと、大変なことになりかねない。中でも、注意が必要なのは当初の固定期間中だけ金利引下げ幅が大きくなっているローン。当初の金利をできるだけ低く設定して、金利の低さを前面に打ち出してお客を獲得しようという戦略的な商品だ。

金利が横ばいでも適用金利が上がるリスク

ある銀行で3年固定の金利が0.505%という、変動金利型よりも低い金利を設定している場合を考える。3年固定の店頭表示金利は2.95%の場合、そこから当初の固定期間3年に限って、金利を2.45%も引き下げている。しかし、3年後からはこの引下げ幅が最大でも1.85%に縮小される。つまり、3年後の店頭表示金利が2.95%のままで変わらなかったとしても、2.95%-1.85%で、適用金利は1.10%になり、0.60%適用金利が上がることになる。金利が1%上がっていれば、1.6%上がって2.10%に、2%上がっていれば3.10%に、3%上がっていれば4.10%になるということだ。

実際、どれくらい変化があるのか、借入額3000万円、35年元利均等・ボーナス返済無しの場合でみてみよう。当初の0.505%の毎月返済額は7万7875円で、変動金利型で金利1%の場合の8万4685円より少ないのだから、ついつい使いたくなってしまう。

金利上昇によっては増額率が天井知らずに

しかし、3年後の返済額はこうなる――。

金利変化なしの適用金利1.10%  8万5388円(増額率9.6%)
金利1%上昇の適用金利2.10%  9万8874円(増額率27.0%)
金利2%上昇の適用金利3.10%  11万3530円(増額率45.8%)
金利3%上昇の適用金利4.10%  12万9294円(増額率66.0%)

金利が変わらなかった場合でも、金利引下げ幅が小さくなるために、適用金利が上がって、3年後には9.7%も返済額が増える。それに金利上昇が加わるとたいへんなことになる。金利1%の上昇で27.0%の増額と、変動金利型の25%ルールを突破し、2%上がっているとほぼ1.5倍近い返済額になり、3%のアップだと6割以上の増額。まさに青天井、天井知らずの増加だ。

そんなに金利が上がるはずはない――そう思うのは勝手だが、どんな世界にも絶対はあり得ない。少なくともこうしたリスクを十分に理解して、そうなっても焦らなくてすむぐらいのゆとりある資金計画を立てる必要があるということだ。

それが難しいなら、少し値段は高くなるのが、絶対に増額のリスクのない全期間固定金利型を利用するのが安心。そこで、次回は、その全期間固定金利型をできるだけ安く、変動金利型や固定期間選択型の固定期間の短いタイプ並みの金利で利用する方法を紹介しよう。

山下和之
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『家を買う。その前に知っておきたいこと』(日本実業出版社)、『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)などがある。山下和之のブログ: http://yoiie1.sblo.jp/