6月18日に発生した大阪北部地震。突然の災害に驚いた人も多いのではないでしょうか。この地震で小学校のプールのブロック塀が倒れ、小学4年生の女の子が下敷きになり死亡するという痛ましい事故がありました。小学4年生といえば私から見ると孫に近い年頃……やりきれない気持ちで一杯になります。
ちなみに、共同通信社が各教育委員会に実施した調査によると、全国で少なくとも721の公立小中学校や特別支援学校で、地震で倒壊の恐れがあり「危険と判定」された塀があるといいます。また、843校に建築基準法に合致しない疑いがある塀があることも判明しています。ただ、この調査結果は6月26日現在のもので未だ調査中の学校もあるとのことです。
「塀の倒壊」事故で責任を負うのは誰か?
そもそも塀が倒壊して人にケガを負わせたり、建物等に損害を与えた場合、誰が責任を負うのでしょうか? 民法717条1項によると、土地の工作物、設置しているものに瑕疵(不具合)があり、他人に対して損害を与えた場合は「その土地の所有者」が賠償を負う責任があります。つまり、自分の所有するモノの維持管理に落ち度があったと見なされます。
では、地震によって倒壊した場合は、どうでしょうか? 震度6弱の「予期しない災害」の場合は、基本的に損害賠償の対象とならないと考えられています。しかし、実際は様々なケースがあり、個別の具体的な検証も必要になってきます。たとえば今回のように「建築基準を満たしていない」ケースでは管理者の責任と見なされる可能性が濃厚です。また、維持管理に問題があり「倒壊する可能性があったモノ」を放置しておいたケースも同様に管理者の責任となる公算大と言えます。
地震保険と火災保険、2019年に保険料値上げへ
ちなみに、地震による被害は火災保険で対応できると思っている人も少なくないようですが、それは間違いです。なぜなら火災保険は、地震の被害について「免責規定」に入っているからです。地震で建物が壊れても、家財が壊れても火災保険から保険金は支払われません。たとえ火災で家が全焼したとしても、それが「地震による火災」だった場合は、火災保険の補償はありません。地震災害は被害額が大きすぎるため、火災保険は「免責」されるからです。
地震による被害に対応できるのは地震保険しかありません。ただ、地震保険は単独で入ることはできない点に注意が必要です(※少額短期保険は別)。地震保険は「火災保険の特約」で加入することができます。火災保険の補償額の最大50%までが地震保険の補償額となります。火災保険と同じく「建物」と「家財」があり、別々に入ることも可能です。
読者の中には、今回の大阪北部地震をきっかけに地震保険への加入を検討している人がいるかもしれません。そんな人はできれば年内に加入することをお勧めします。というのも、2019年1月に地震保険の保険料が引き上げられるからです。全国平均で約3.8%引き上げられます。さらに火災保険も2019年に「保険料を算出する料率」が平均5.5%引き上げられます。来年は火災保険と地震保険の保険料が「ダブルで引き上げ」られますので、加入するなら年内がお得といえるでしょう。
「個人賠償責任保険」は日常の様々なトラブルに対応
ちなみに、地震以外の原因ーーたとえば古くなったブロック塀が崩れて通行人にケガを負わせたり、駐車中のクルマに損害を与えた場合に対応できる保険に「個人賠償責任保険」があります。
個人賠償責任保険は上記以外にも日常生活の様々な「法律上の賠償責任」に対応することができます。
「自転車で通行人にぶつかってケガをさせた」
「買い物中に子供が商品にさわって壊してしまった」
「犬の散歩中、通行人に噛みついてケガをさせた」
「ベランダから植木鉢を落として通行人にケガをさせた」
「喫茶店でコーヒーをこぼして隣の人のパソコンを壊した」
……など多様なトラブルに備えることができるので、この機会に検討して見るのも良いかもしれません。
悲惨な事故を繰り返さないために
個人賠償責任保険にも地震や自然災害等の「免責規定」があります。自然災害で個人に賠償責任が発生するケースは少ないとされていますが、免責規定に「なる」「ならない」は自然災害の程度など個別の事例で判定されますので、保険会社に確認する必要があるでしょう。
「もしも」に備えるという意味において、保険は有効な備えとなります。しかし、それ以上に大切な備えは日頃からブロック塀等の維持管理をしっかり行うことです。冒頭で紹介したように全国の721校で地震で倒壊の恐れがあり「危険と判定」された塀が存在します。843校に建築基準法に合致しない疑いがある塀があります。小学4年生の女の子の命を奪った悲惨な事故を2度と繰り返さないためにも、早急に「もしも」に備えることが求められます。
長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。