景気の現状判断DI(季節調整値):景況感は停滞した状況が続く
7月9日に内閣府から公表された2018年6月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は48.1と前月から1.0ポイント上昇し、2ヵ月ぶりの改善となった。家計動向関連は3ヵ月ぶりに改善したが、企業動向関連は2ヵ月連続で悪化し、1年2ヵ月ぶりに節目となる50を下回り、まちまちの動きとなった。2017年後半と比べるとDIの水準は低く、景況感は停滞した状況が続いている。
家計動向関連では、天候に恵まれて小売店では客数が増え、消費意欲も高かった一方で、飲食店では依然客数が伸び悩んでいる。企業動向関連では、好調が続く受注だが、一部の企業からは受注の落ち込みがみられる。また、原材料費や人件費の増加により収益が圧迫しており、広告費を削減する企業もみられる。雇用関連は企業の採用意欲は高いが、人材を採用できずに募集をあきらめる企業もみられる。なお、内閣府は、基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」に据え置いた。
家計動向関連は改善する一方、企業動向関連は悪化
現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、企業動向関連(前月差▲0.9ポイント)は悪化したものの、家計動向関連(同+1.7ポイント)、雇用関連(同+0.1ポイント)ともに改善した。家計動向関連の内訳については、飲食関連(同▲3.3ポイント)は大幅に悪化したものの、小売関連(同+2.2ポイント)、サービス関連(同+1.9ポイント)、住宅関連(同+2.5ポイント)とも大幅に改善するなどバラつきが出た。
コメントをみると、家計動向関連のうち小売関連では、「6月に入り、余り雨が降らなかった影響もあり、店頭に来る客は例年と比較すると多くなっている。買物の客単価が上がり、例年と比較すると売上も増加している」(九州・その他専門店[コーヒー豆])や「購入単価、商品単価共に前年比プラスが続いている。紳士、婦人共に衣料品に加え帽子などシーズンアイテムも好調に推移している。セール前ではあるが定価品の動きも良く、単価が上がっている。また、お中元ギフトの動きも例年になく単価が上がっている」(南関東・百貨店)など、天候に恵まれて客数が増えただけでなく、単価も伸びたとするコメントがみられた。一方で、飲食関連では、「3か月前と比べて来客数は全く増えず、逆に減少している。客の様子及び来客数からも景気が良くなっているとはなかなか感じられない」(南関東・一般レストラン)や「ボーナスが出ているはずなのに、余り来客数が増加しない」(東海・一般レストラン)など、飲食店は客数が増えず苦戦している。
住宅関連では、「見学会やセミナーなどのイベントへの来客数が増加しており、いずれも真剣に購入を検討している模様である」(中国・住宅販売会社)や、「この3か月の受注が前月と比較して増加している。来年の消費税引上げへの影響が少しずつ出てきている」(九州・住宅販売会社)など、来年度の消費税率引き上げを意識して購入意欲が高まってきているようだ。
企業動向関連では、製造業(同▲1.1ポイント)、非製造業(同▲1.3ポイント)ともに悪化した。コメントをみると、「取引先では、2年後以降の受注の要請を受けている。その会社も工場を増設するが、当社においても現在工場を新設中である」(九州・電気機械器具製造業)など引き続き受注が好調な企業がみられる一方、「目立って受注量、販売量が減少している業種は特にないが、全体的に減少しており、採算面についても悪化している」(東海・パルプ・紙・紙加工品製造業)など受注が落ち込んでいる企業も出てきている。また、「受注量が減少している。原材料の値上がりに伴う価格の改訂を進めているが、以前の価格のままでの受注も半数くらいあり、利益を圧迫している」(東海・金属製品製造業)や「運転手及び構内の現業員が不足し、仕事を断らざるを得ない。人件費や軽油価格の高騰で利益も減少している」(東海・輸送業)など原材料費や人件費の増加により収益が圧迫している。加えて、「広告費を抑える傾向が強く、イベントや印刷案件の作成中止などが相次いでいる」(東北・広告代理店)など、経費削減に動く企業もみられる。
雇用関連では、「人材不足で多くの企業では必要な人員の採用ができておらず、派遣の求人依頼が多い」(南関東・人材派遣会社)など企業の採用意欲は高いが、「求人需要はあるものの、応募者が少なく結果として企業が求人募集を諦める傾向が続いており、景気回復の足かせになっている」(東北・新聞社[求人広告])など人材を採用できずに募集を取りやめるケースも出てきているようだ。
景気の先行き判断DI(季節調整値):節目の50を境に一進一退の動き
先行き判断DI(季節調整値)は50.0(前月差+0.8ポイント)と2ヵ月ぶりに上昇した。節目の50を境に一進一退の動きとなっている。DIの内訳をみると、雇用関連(前月差▲2.9ポイント)は大幅に悪化したが、家計動向関連(同+1.3ポイント)、企業動向関連(同+0.6ポイント)は改善した。
家計動向関連では、「今年は暑くなるという長期予報もあり、エアコン、冷蔵庫に前年とは違う売上が期待される。全体的に家電エコポイントの影響を引きずっていた感があったが、ここに来て一巡したようにも見受けられ、映像商品の動きも良くなってきている」(東海・家電量販店)など、気温の上昇や買い替え需要から家電の売上増加を期待するコメントがあった。一方で、「今夏のボーナス増加分は、食品やガソリン等の生活必需品の値上がりによって打ち消されることとなり、耐久消費財の購入抑制やレジャー・娯楽消費への支出削減が生じる」(東海・百貨店)や「ガソリン、光熱水費の値上げなどが著しいが、その分給与が上がっているとは思えない。経済の活性化は図れない」(南関東・ゴルフ場)など、賃金の伸びが物価の伸びに追いついておらず、消費は盛り上がりに欠けると慎重にみるコメントもあった。
企業動向関連では、「取引先の受注の要請に応えるため工場増設をしている。スペースと人員がいれば仕事量は確保できる状態である」(九州・電気機械器具製造業)など、受注が好調な中、供給体制を強化する企業もみられる。一方で、「原油価格の高騰で、包装資材の値上げが始まり、輸送費も上がって、利益を出すのが厳しい状態である」(甲信越・食料品製造業)など、コスト増加による収益圧迫が懸念されている。また、「米国の輸入関税問題により、特殊鋼のほか、裾野の広い自動車関連部品や、その材料に影響が出る」(近畿・金属製品製造業)など、米国の通商政策による悪影響を懸念するコメントもみられた。
雇用関連では、「人材不足が継続している。求人は増えているものの、採用にはなかなかつながらない(東京都)」(南関東・人材派遣会社)や、「新卒求職者数に大きな変化がない状況では、企業が人材を確保することは難しい」(中国・学校[短期大学])など、人手不足により企業が人材を確保できていないことを不安視するコメントがみられた。
景況感は2018年に入り停滞している。特に弱い状況が続いていた家計動向関連は底打ちの兆しもみられるが、企業動向関連は、受注が落ち込んでいる企業も出ており、コスト増加による収益圧迫や米国の通商政策など先行きに対する懸念が強まっている。また、雇用関連では、コメントからは雇用環境の改善に言及するコメントはみられず、企業の人材難を懸念するコメントが目立つ。景況感は引き続き停滞した状況が続こう。なお、6月中旬に発生した大阪北部地震の影響は限定的(近畿の現状判断DIは前月差+1.1ポイントの48.6)だったが、7月初めの西日本を襲った豪雨は各地で甚大な被害が出ており、来月公表される7月の景況感は悪化が避けられず、今後の景況感改善の重しとなるだろう。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員・総合政策研究部兼任
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