開業医を含むほとんどの方が万が一に備えて加入している生命保険。節税や相続の対策、アーリーリタイアのためにとマンション投資を始めるとき、ローン残高の弁済制度がある「団体信用生命保険(団信)」に加入することから、「それまで加入していた生命保険は必要ないのでは?」と感じる開業医の方も多くいます。
しかし団信でカバーしきれない保障もあり、安易に解約や見直しをしてしまうと、思わぬ落とし穴にはまることがあり、注意が必要です。
生命保険の役割と適用範囲は?
生命保険の基本的な仕組みについておさらいしましょう。消費者庁が所管する国民生活センターは生命保険について、「年齢や性別などに応じた保険料を支払い、その対価として、あらかじめ決めた条件に該当したときに、保険金や給付金を受け取ることができる契約」と説明しています。
生命保険は一般的に、保険の主体となる定期保険や終身保険などの「主契約」と、ガン特約や入院特約などの「特約」という2つを組み合わせたもので、特約だけでの契約はできません。
生命保険に加入していれば、加入直後に加入者が亡くなった場合においても、約款に基づいた金額を受け取ることができます。また生命保険の加入者本人がその保険金を誰が受け取るのか指定することができるので、本人が大切だと思っている人にそのお金を残すことができるという特徴もあります。
住宅金融支援機構も生命保険について「万一のことがあった場合のご家族の生活費やその他支出全般に備えるためのものです」と説明しています。
団体信用生命保険の役割と適用範囲は?
団体信用生命保険は、マンション投資などを始めるときに組んだ住宅ローンが対象となる保険です。加入者が死亡したり、所定の高度障害状態に陥ったりした場合、住宅ローンの残金を保険金で全て弁済するという仕組みで、残された家族の方にとっても安心です。
ローンを組んでマンション投資を始めるとき、この団体信用生命保険への加入はほぼ義務付けられており、住宅ローンの返済額に含まれる形で既に団体信用生命保険が付帯されているローンもあります。
団体信用生命保険では、保険によって高度障害状態に該当する状態の定義がそれぞれ細かく規定されています。実際に障害を負っても弁済の適用範囲外だった場合には、失職・失業したり、働けなくなったりしても、残りのマンション投資ローンの残金が弁済されるわけではありません。
生命保険を止めてもいいの?見直したほうがいいの?
既に生命保険に加入している人がマンション投資を始めた場合、記事の冒頭で触れたように「団体信用生命保険に加入するなら既存の生命保険はいらないのではないか?」という疑問を持つことがあります。果たしてその考え方は正しいのでしょうか?
国民生活センターが生命保険と団体信用生命保険の関係と加入の是非について説明していますので、その内容を読み解いていきましょう。
生命保険の加入を続けた方がいい理由とケースは?
国民生活センターが公表しているチャートによると、本人(加入者)に経済的に支えている人がいて、団体信用生命保険の付いていない借金がある場合、その借金を貯蓄や死亡退職金などで清算できない場合は、生命保険の加入を検討した方がいいとしています。既に加入している人は、そのまま継続した方がいいということです。
また同様に加入者が経済的に支える相手がいたとして、団体信用生命保険の付いていない借金がなかったとしても、葬儀費用や遺品整理など、本人が亡くなった後に必要な費用に充てる貯蓄がない場合は、生命保険に加入しておいた方がいいと説明しています。つまり先ほどの例と同様に、生命保険を解約せずに継続しておいた方がいいという判断になります。
このように本人の貯蓄などや年金の加入状況などによって、団体信用生命保険に加入したとしても、生命保険を続けていた方がいいケースがあるということです。そのため安易にそれまで加入していた生命保険をやめてしまうという選択をすると、将来思わぬ事態に直面してしまうかもしれません。慎重に判断をすることがとても重要です。
団信への加入は生命保険の見直しタイミングでもある
一方で、マンション投資を始めるときの団体信用生命保険への加入を機に、それまで加入していた生命保険の内容の一部を見直す人もいます。これはどのような理由からなのでしょうか?
国民生活センターも生命保険の見直しをするタイミングの一つとして、「住宅ローンを組んで住まいを購入したとき(団信に加入するため)」としています。団体信用生命保険に加入すれば加入者に万が一のことがあってもローンが残る心配がなくなることが理由の一つです。
ローンが残る心配がないなら、生命保険の保障額を減らして、保険料も抑えてみようか…。こうした発想から既に加入している生命保険の見直しを実際にする人もいるわけです。
正しい知識を身に付けた上で慎重な判断を
この記事では生命保険と団体信用生命保険のそれぞれの役割や仕組み、団体信用生命保険に加入した時点で生命保険の解約や見直しをすべきかなどについて説明してきました。判断には正しい知識と冷静さが求められます。本人の貯蓄状況なども加味しつつ、慎重に検討するようにしましょう。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio)
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