金融政策の概要:政策金利を据え置き、景気判断を一部上方修正
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が7月31-8月1日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利の据え置きを決定した。バランスシート政策にも変更はない。
今回発表された声明文では、景気の現状認識部分で、経済活動や家計消費の判断が上方修正された。また、物価についても小幅に表現変更されたが、こちらは判断の変更を意味しない。経済見通しや、ガイダンス部分の表現変更はなかった。
一方、今回の金融政策は全会一致で決定されたものの、ニューヨーク連銀総裁のポストが、前回まで投票メンバーであったダドリー氏から、同じく投票メンバーで元サンフランシスコ連銀総裁のウィリアムズ氏に交代となった。このため、今回は代替要員として、カンザスシティ連銀のジョージ総裁が投票に加わった。
金融政策の評価:政策金利据え置きは予想通り。9月会合では利上げが決定される見込み
政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。また、先日発表された4-6月期のGDPで成長率や個人消費が強かったことから、これらの景気判断が上方修正されたことも予想通りであった。
一方、トランプ大統領が中国からの輸入品に対する追加関税措置を強化するなど、米中貿易戦争が激化しているため、今回のFOMC会合では最近の通商政策が景気や物価に与える影響について議論されたとみられるが、声明文にこれらの内容は盛り込まれなかった。
通商政策が非常に流動的なこともあって、これらが金融政策の意思決定に与える影響については不透明な部分はあるものの、景気や物価など、足元の経済指標はFRBの想定通りに堅調な結果となっていることから、FRBは政策金利見通し(18年に年4回利上げ)に沿って、次回(9月)会合で政策金利の引き上げを決定することが予想される。
また、仮に次回会合までに発表される経済指標が多少弱い結果となったとしても、先月トランプ大統領が政策金利の引き上げに難色を示す発言をしたことから、FRBは独立性を金融市場に示すためにも、政策金利の引き上げを実施せざるを得ないだろう。
当研究所は、今回のFOMC会合の結果を受けて、18年に年4回利上げとのこれまでの見通しを維持する。次回会合で通商政策の影響について、パウエル議長がどのような判断を示すのか注目される。
声明の概要
●フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し
- 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを1.75-2.0%に据え置いた(政策金利の据え置きを反映)
- 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、強い労働市場の状況や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(変更なし)
- FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化目標と対称的な2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
●景気判断
- 労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強いペースで拡大した(経済活動の判断を「堅調な」”solid“から「力強い」”strong“に上方修正)
- 最近数ヵ月を均せば雇用増加は強く、失業率は低位に留まった(失業率の判断を「低下した」”declined”から「低位に留まった」”stayed low”に表現変更)
- 家計消費と民間設備投資は力強く成長した(家計消費の判断を「持ち直した」”picked up”から民間設備投資を併せて「力強く成長した」”have grown strongly.”に上方修正)
- 前年比でみた総合および食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は、2%近辺に留まっている(「2%に近づいた」”have moved close to 2 percent”から「2%近辺に留まっている」”remain near 2 percent”に表現変更)
- 長期物価見通しを示す指標は、全般的には変化に乏しい(変更なし)
●景気見通し
- 委員会は、FF金利の目標レンジの更なる漸進的な引き上げが、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、中期的に委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率、と整合すると予測している(変更なし)
- 前年比でみたインフレ率は、中期的に委員会の2%で対称的な目標近辺で推移すると予想する(変更なし)
- 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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