「つい怠けがち」「頭に入らない」人、必読!
社会人は忙しい。しかも記憶力は低下し、気力も湧いてこない。「勉強できる人はもとから勉強好きなのでは」と思う人もいるだろう。それを否定するのは、難関の税理士を含む数々の資格を取得し、専門学校講師としても活躍するスーパーサラリーマンの石川和男氏。学生時代にはほとんど勉強してこなかった石川氏だが、30代で「1日30分」の勉強を始めて以来、人生を大きく変えるに至ったという。その社会人ならではの勉強法とは。《取材・構成=林加愛》
まずは目的を「書く」。カラーバス効果とは?
勉強が身につくか否か――その分かれ目はいくつもありますが、最初のポイントは「目的意識の明確さ」です。
子供の勉強の目的は、好き嫌いを問わず、さまざまな分野の知識に触れ、自分に向いていることを見つけることです。対して大人はもう自分の適性をある程度つかめています。そのうえで、独自の目的を定め、それに即した分野を学ぶべきなのです。しかし、ここで目的設定を誤ると失敗します。よくあるのは、「資格取得」など目に見える結果をゴールにしてしまうこと。この場合、取得後にモチベーションが続かず、せっかく学習したことも、活かせないまま記憶から抜け落ちていくでしょう。
大事なのは目先の目標ではなく、学びを「何に活かしたいか」を考えることです。「語学を学んで海外事業に参加したい」などの長期的ビジョンが不可欠なのです。ここが明確かつ具体的であればあるほど勉強は実りあるものとなります。モチベーションはもちろん、学習内容の吸収力もぐっと上がります。
目的は、ぜひ紙に書き出すことをお勧めします。その夢の「関連物」が目につきやすくなるからです。これは心理学用語で「カラーバス効果」と呼ばれるもの。私も、「税理士になる」という目標を書き出したとたんに、合格のために必要な情報を得ようと意識するようになりました。日常生活の中で忙殺されると忘れてしまいそうな目標・目的標を心に留めておくために有効です。
計画は、立てたあとで「2割引き」しよう!
次の関門は「計画」です。「勉強をしよう」と思い立った直後、人はたいてい高揚感に満ち溢れているもの。しかし、その気分のまま作ったスケジュールを実践するのは困難です。
なぜなら、そうした計画は勢いづいて「詰め込み過ぎ」になりがちだからです。高揚感が鎮静化した後、だんだん負担になってきて挫折する、というケースは少なくありません。
ですから、計画は「立てた後に20%削る」のが得策です。達成までのスピード、かける時間、テキストを読むページ数など、抑えるポイントは何でも構いません。最終的に「少し」頑張れば達成できそう、という程度に収めるのがコツです。
加えて、1週間に少なくとも1日は、勉強の予定を入れない日を作りましょう。これは、それ以外の6日間で達成できなかった部分をフォローする日です。
仕事であれ勉強であれ、予定には必ず遅れが生じます。あらかじめ、「予備日」を用意しておくことで追いつくことができます。
「忘れる」のは当たり前!その日のうちに反復を
着手後に苦しむポイントと言えば、やはり「なかなか頭に入らない」ことでしょう。しかし、気にすることはありません。なぜなら、それが当たり前だからです。
有名な「エビングハウスの忘却曲線」によると、人間は、情報を認識した20分後に42%、1時間後には56%、1日後には74%も忘れてしまいます。ですから、なかなか覚えられなくても気にしないこと。それよりも、繰り返し反復することが大事です。3回覚えてダメなら5回、5回でダメなら10回。「勉強は復習が八割」と心得ることが、継続と進歩の秘訣です。
朝に覚えたことは、その日のうちにもう一度おさらいしましょう。通勤の時間は、大いに有効活用できそうですね。通勤は、時間のリミットが決まっているのもよいところ。あと10分で電車を降りなくては、というプレッシャーが集中力を高めます。その意味では、勉強の際はいつも「10分」「30分」「1時間」といった時間制限を設けると良いでしょう。
いずれの場合も「完璧に理解してから進もう」とは思わないこと。理解できなければとりあえず覚えておくだけでいいのです。その先で知識が深まれば、自然と理解できるようになります。「わからないから進めない」という思い込みは時間のムダを招きます。
スキマ時間活用の三つの極意とは
多忙なビジネスマンにとっては、「スキマ時間」をいかに活用できるかも勝負どころ。その極意は、三つあります。
一つは、事前にやることを決めておくこと。今日は何を覚えようか、どのテキストを開こうかと悩んでいたら、あっという間に時間が過ぎてしまいます。
二つ目は、スマホの電源はオフにするか、音が出ないようにしておくこと。着信音が鳴るたびに注意をそがれてしまい、これまた時間のムダになります。
三つ目は、オーディオブックをフル活用すること。「耳で覚える」学習は、通勤電車内や移動中に最適です。既存の音源がなければ、自分でテキストを読み上げた音声を録音した「自家製」でもOK。1.2~1.4倍速で聴けば、それだけスピーディにインプットできます。
さて、これらすべての工夫を「継続させる」には何が必要でしょうか。継続を阻む最大の原因は「飽き」です。飽きずに勉強を続けるためには、「目先を変える」工夫を随所に取り込むのがコツ。たとえば、私が税理士試験の勉強をしていたときは、「簿記論」に飽きたら「財務諸表論」をやるなど、科目を変えることで変化をつけるようにしていました。
場所を変えるのも良い方法です。家での勉強に飽きたらカフェや公園に行って勉強すれば、気分もリフレッシュできます。
また、一人では集中力が続かないという人は、仲間を見つけて一緒に頑張るのも良い方法。競争意識が推進力になりますし、疲れたときも励まし合えます。
このように、勉強はロールプレイングゲームのように、あの手この手で目的を攻略する営みであることがわかります。ゲーム感覚で行なえば、決して「苦行」にはならないでしょう。
石川氏流・目標を達成する勉強のポイント5
1 スケジュール=「1日30分」をとにかく続ける
成果が出るか否かは「継続」にかかっていると言っていい。従って、やる気が出ないときも「とにかくやる」のが基本。一日に少なくとも、30分は勉強時間を持とう。
どうしてもやりたくないときは、「3分だけやってみる」。実際には3分では止まらず、10分程度は勉強を続けられるだろう。 それさえおっくうなら、「逆三日坊主作戦」を。「3日だけ休む」と決めて勉強を一時停止するのだ。こうすると、4日目から新たな気持ちで再開できるはず。
2 テキスト・問題集=1冊を徹底的にやり込む!
知識を頭に入れるには、反復が不可欠。ということは、一冊のテキストを何度も読み込むのがもっとも効率的。逆に、新しい参考書を次々に買うのはNG。覚えるべきポイントが散漫になり、かえって頭に入りづらくなる。 問題集はたくさん解くべきだが、同時並行で何冊も手を出すのはお勧めできない。まずは1冊とじっくり向き合い、完璧に正答を出せるようになるまで繰り返し解こう。それができた段階でさらにもう1冊買い足す、という形が望ましい。
3 記憶術=手と口を動かす
情報は「複数の動作」を同時並行させて覚えると定着しやすい。たとえば黙読だけではなく、手を動かして書く動作も加えよう。さらに「読む+書く+音読」なら聴覚情報も加わる。移動中なら「聞く+歩く+音読」が最適。このように、五感をフル活動するのが暗記の極意だ。 なお、書くときは赤やピンクのペンなど、色を多用するのもおすすめ。通常の黒ならば、左脳が「文字情報」を認識するだけだが、色が加わることで右脳も刺激できる。
4 ノートの使い方=「間違いノート」を作る
参考書・問題集・模擬試験の解説本など、覚えるべき知識が載っている場所はともすると分散しがちだ。 そこで役立つのが「間違いノート」。覚えられない部分、理解できない箇所、間違った問題など、克服できない部分だけを抜き書きして、バインダーノートに一元化しよう。抜き出す際は手書きだけでなく、テキストのコピーを貼り付けてもOK。見た目は悪くなるが、利便性は満点。スキマ時間に何度も見直せば、弱点克服の最強ツールになる。
5 モチベーション維持=「ゼロなら水道水」でとっかかりを!
モチベーションコントロールには「賞罰」の活用が有効だ。たとえば「今日中にここまで進めばビール!」「ここで終われば発泡酒」と、報酬に段階を設けると、より良い報酬を目指して頑張れる。
一方で、一番おっくうな「最初のとっかかり」でやる気を出すには、報酬より罰がものを言う。着手できたら「ノンアルコール飲料」、まったくゼロなら……「水道水」。それならば3分だけでも着手したほうがマシ、と思えるだろう。
石川和男(いしかわ・かずお)税理士/専門学校講師
1968年、北海道生まれ。建設会社の経理部に勤務中の30代から勉強を開始、日商簿記3級を皮切りに、建設業経理事務士1級、税理士と数多くの資格を取得。現在は税理士、大学・専門大原簿記学校講師、建設会社総務経理担当部長を務める他、セミナーや講演でも活躍。著書に、『人生逆転! 1日30分勉強法』(三笠書房)などがある。(『The 21 online』2018年2月号より)
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