景気の現状判断DI(季節調整値): 1年10ヵ月ぶりの低水準
8月8日に内閣府から公表された2018年7月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は46.6と前月から1.5ポイント低下し、1年10ヵ月ぶりの低水準となった。地域別では、全国11地域中8地域で現状判断DIが低下した。特に、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)で甚大な被害を受けた中国(前月差▲6.5ポイント)、四国(同▲5.6ポイント)の現状判断DIは大幅に低下した。
今回の調査では家計動向関連、企業動向関連、雇用関連の全てで現状判断DIが低下したが、特に、家計動向関連は大幅に悪化した。猛暑がコンビニや家電量販店での売上増加に寄与した一方で、レストランやレジャー施設などでは外出を控える消費者が多く、来客数が伸び悩んだ。また、西日本豪雨により中国・四国地方に限らず、ホテルの予約キャンセルなど旅行を取りやめる動きがみられた。企業動向関連では、中国・四国地方では、企業の設備への被害や物流網の寸断など影響が出ているが、全体としては好調な受注が続いている。雇用関連は企業の採用意欲は高いが、なかなか人材を採用できない企業もみられる。なお、内閣府は、基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、平成30年7月豪雨によるマインド面の下押しもあり、引き続き一服感がみられる」とした。
猛暑、西日本豪雨により、家計動向関連のサービス関連が大幅に悪化
現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差▲2.1ポイント)、企業動向関連(同▲0.2ポイント)、雇用関連(同▲0.3ポイント)全てで悪化した。家計動向関連の内訳については、小売関連(前月差0.1ポイント)、住宅関連(同▲0.3ポイント)はほぼ横ばいとなったものの、サービス関連(同▲6.9ポイント)、飲食関連(同▲1.8ポイント)とも大幅に悪化した。
コメントをみると、家計動向関連のうち小売・飲食関連では、「過去にない猛暑のお陰で、エアコンの売上が前年の2倍以上に膨らんでいる」(南関東・一般小売店[家電])や「暑さのせいもあり、前年より売上はプラスで推移している。特に、ジュース、アイス等の夏物商材が前年を大きく超えている」(北関東・コンビニ)など、猛暑による消費が活発になった業態もあったが、「連日の異常な暑さで、日中の人通りはまばらで、午前中に買物を済ませ商店街を回遊せず帰宅する客が多い」(九州・商店街)や「7月に入り急に暑い日が多くなり外出を控えているような感じで、来客数が前年に比べてやや少ない」(東海・一般レストラン)など、外出を控えたり、外出しても長時間は避けたりするなどの悪影響を受けた業態も目立った。サービス関連でも、「最近の猛暑で客が激減している。延べ数で1,000人だった来場数が800人くらいまで落ち込んでいる。単に高齢者層が家から出なくなった可能性もある」(南関東・競輪場)など、猛暑によりレジャー施設の来客数が伸び悩んだ。加えて、「平成30年7月豪雨災害で出張や旅行などのキャンセルが発生し、売上は減少している。団体は秋口に決定していたものもキャンセルが多数発生しており、大きなマイナスが見込まれる」(中国・旅行代理店)や「平成30年7月豪雨による災害が発生し、気の毒と思って、なかなか行楽地へ足を運ぶということが遠のいてしまっている」(南関東・旅行代理店)など、西日本豪雨により旅行を取りやめる動きが中国・四国地方以外の地域でもみられた。
企業動向関連では、製造業(前月差+0.8ポイント)は改善したが、非製造業(同▲1.2ポイント)は悪化した。コメントをみると、「物件の動きが活発化してきており、受注状況は好調といえる。心配なのは処理能力や原材料価格の高騰がどのような悪影響を及ぼすかである」(東海・金属製品製造業)など、コスト上昇が懸念されてはいるが、受注は好調を維持しているようだ。また、「平成30年7月豪雨の影響で、事務所や工場、車両や機械等に被害を受けた取引先があり、道路や鉄道の毀損で貨物物流量も減少している。また、同業者団体の催事等も開催中止が相次ぎ、心理的にも停滞感が出てきている」(中国・会計事務所)など、中国・四国地方では、企業の設備への被害や物流網の寸断など企業活動に影響が出ている。
雇用関連では、「企業においては人手不足感が強く、求人件数、求人数共に増加傾向は変わらない」(東北・職業安定所)など、引き続き企業の採用意欲は旺盛であるなか、「人材不足が特に中小企業で深刻である。募集を行っても人材が充足できることはまれな状態が慢性化しており、疲弊している企業が多い」(四国・求人情報誌)など、人材を採用するのに苦労している企業もみられる
景気の先行き判断DI(季節調整値):節目の50を境に一進一退の動き
先行き判断DI(季節調整値)は49.0(前月差▲1.0ポイント)と2ヵ月ぶりに低下した。節目の50を境に一進一退の動きが続いている。DIの内訳をみると、雇用関連(前月差+0.8ポイント)は改善したが、家計動向関連(同▲1.3ポイント)、企業動向関連(同▲1.0ポイント)は悪化した。
家計動向関連では、「大雨と酷暑の影響で、青果、精肉等の生鮮品の値上がりが数か月単位で見込まれ、食料品販売的には財布のひもが緩むことは期待しづらい状況にある」(九州・スーパー)など、天候不順による生鮮食品の価格上昇が不安視されている。また、「天候に左右されることが多い業種であるが、今回も残暑が長引くと秋物の立ち上がりが遅れてしまうため心配している」(東北・衣料品専門店)や「天候予報では今年の暑さが長期化するらしく、客の出足は悪く、売上に期待できないため、2~3か月先の景気は変わらない」(九州・商店街)など、残暑による秋物商品の販売鈍化や客数の伸び悩みが懸念されている。
企業動向関連では、「新規取引先ができて、単価面でもとても良く、受注量も多くなっているので、今後が楽しみである」(北関東・金属製品製造業)や「国内、欧米市場共に活発な引き合いがあり、今後も期待できる」(北陸・一般機械器具製造業)など、受注が好調な企業が目立つ。一方で、「原材料、物流費、人件費が高騰し、秋口の値上げに向けての営業活動をしているが、市場価格帯や市場動向に対して大変苦戦しており、粗利を含めて売上を確保することが厳しくなる」(中国・食料品製造業)など、コスト増加による価格転嫁が十分に進んでいない企業もみられる。
雇用関連では、「求職者に選ばれるよう、企業側も条件の緩和などで努力をしており、求職者が働きやすい環境になっている」(近畿・求人情報誌製作会社)など、人材確保のため労働条件の向上に努める企業もみられる。
景況感は2018年に入り停滞している。7月は西日本豪雨が景況感を下押したが、今後は復旧が進むことで徐々にマインドが回復に向かうと考えられる。熊本地震が発生した2016年4月、九州の現状判断DIは▲13.1ポイント低下したが、その後3ヵ月で震災前の水準まで回復した。また、猛暑は景況感の改善に繋がると期待されてきたが、7月は記録的な暑さにより外出を手控える消費者もみられた。天候不順によって野菜価格も足元で上昇してきており、猛暑が続けば景況感改善が遅れる可能性もあるだろう。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員・総合政策研究部兼任
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