要旨

○ 猛暑は夏場の個人消費を刺激すると言われることが多い。しかし、今年については、気温の上昇が 行き過ぎたことで外出の手控えが生じた可能性があり、サービス消費を中心として猛暑がむしろマ イナスに働いたかもしれない。また、7月は記録的な豪雨や台風といった悪材料もあった。これら も外出機会の減少から消費を減らす要因になる。実際、7月の百貨店売上高は大幅に減少した模様 だ。

○ 猛暑による生育不良で野菜価格が上昇していることも懸念材料。生活必需品である野菜価格の上昇 は購買力の抑制を通じて消費の下押し材料になる。野菜は生活に身近で価格上昇を意識しやすいた め、マインドの悪化に繋がりやすい点にも注意が必要。個人消費は、1-3月期の停滞の後、4-6 月期はいったん持ち直していたが、今後も野菜価格上昇が続くようであれば、7-9月期には再び落 ち込む可能性も出てくる。

暑過ぎる夏が外出を減らす可能性も。猛暑効果は不発か

「猛暑効果」という言葉に象徴されるとおり、猛暑は夏場の個人消費を増やすと言われることが多い。直接的には、飲料や家電といった猛暑関連消費が増加するといった効果が挙げられる。もう一つの間接的な影響としては、外出機会の増加を通じた効果がある。夏場に気温が上昇するケースでは、 同時に好天に恵まれて日照時間も長くなることが多い。その分、外出が増え、消費が刺激されるというわけだ。実際、過去の例をみても、猛暑の夏に消費が増えることが多いのは事実である。

もっとも、今年については、気温の上昇が必ずしも消費にプラスに効くとは限らない。気温の上昇が行き過ぎ、今年のような暑過ぎる夏になった場合、猛暑が外出の手控えに繋がる可能性が高いためだ。今年は気象庁が不要な外出を手控えるように呼びかけるなど異例の状況となっており、実際に外出を取りやめた人も多かったはずだ。このことが、サービス消費を中心として消費を減退させた可能性があるだろう。また、

7月については、西日本を襲った記録的な豪雨や月下旬の季節外れの台風の襲来といった要因にも注意する必要がある。先に述べたとおり、猛暑が景気を刺激すると言われる要因の一つが、外出機会の増加による消費押し上げが期待できることにある。しかし、今年の豪雨・台風は外出機会にとって明らかにマイナスである。つまり、猛暑効果に期待される二つの要因のうち、猛暑関連消費の増加は期待できる一方、外出機会の増加については、暑過ぎる夏と豪雨・台風によって、むしろ逆に働いた可能性があるということになる。

実際、大手百貨店の売上動向から試算すると、7月の百貨店売上高は前年比で▲6%程度も減少した可能性がある。6月は前年比+3.1%と高い伸びになっていたが、7月は一転して大幅な減少になったようだ。6月については、セールが前倒しされたことで押し上げられており、その分7月の売上が落ち込んだ面もあるのだが、それを踏まえても大きな落ち込みである。特に西日本の店舗での売上が落ちた模様であり、豪雨による悪影響が大きかったことが示されている。気温の上昇が上下どちらに効いたかははっきりしないが、少なくとも猛暑により消費が押し上げられているという様子はここからは窺えない。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

猛暑による生育不良で野菜価格が上昇。再び消費を下押しか

猛暑に関連して、もう一つ懸念されるのが野菜価格の上昇だ。西日本豪雨による被害で野菜の出荷量が減少していたところに、連日の猛暑の影響により野菜の生育遅れが生じており、野菜価格が上昇している1。特に、キャベツやハクサイ、レタス等の葉物野菜への影響が深刻になっているようだ。

もともと、原油価格上昇に伴ってガソリンや電気代などのエネルギー価格は上昇し、物価押し上げ要因となっていた。そこに野菜価格の上昇が加われば、消費者への負担は一段と増すことになる。野菜にしてもエネルギー価格にしても生活に必要不可欠であり節約が難しい。その分、他の消費を削らざるを得なくなるというわけだ。特に、野菜への支出比率が高い高齢者層への影響は大きくなりそうだ。また、野菜は生活に身近で購入頻度が高い分、他の財と比べて価格上昇を意識しやすいという特徴をもっている。こうした体感物価の上昇が心理的な面を通じて消費に悪影響を及ぼす可能性にも注意したいところだ。

去年の冬には台風や大雪の影響で野菜価格が急上昇し、今年の1-3月期の個人消費が下押しされたことは記憶に新しい。春になってようやく野菜の値段も落ち着いたことで消費も持ち直してきたところに、また今回の野菜価格の上昇が起きてしまった。猛暑の影響で今後も野菜価格の上昇が続くようであれば、7-9月期の個人消費が再び落ち込む可能性も出てくるだろう。個人消費は最近、天候要因によってアップダウンを繰り返す展開が続いているが、7-9月期についてもそれは当てはまるかもしれない。個人消費は均せば緩やかな増加基調とはいえ、天候次第で振らされる程度の強さでしかないともいえる。足元の景気は鈍化しつつも回復傾向が続いているが、それはあくまで輸出と設備投資を中心とした企業部門主導の回復という状況は変わっていない。

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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。(提供:第一生命経済研究所

新家 義貴
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト