最近になって日本でも聞くことが多くなった「プロボノ」とは、ラテン語の「pro bono publico」(「公益のために」という意味)が語源で、仕事などを通じて得た専門知識やスキルなどを活かしたボランティア活動のことをいいます。
アメリカやヨーロッパなどでは、法律に詳しい弁護士や会計士などがプロの能力を活かしてこうしたボランティアを行う活動が以前から広がっており、近年では海外や日本を含めて弁護士や会計士以外での職業、例えば医師やITなどの専門スキルを持った人の活動も増えてきています。
プロボノでは薄謝を受けるケースもありますが基本的には無報酬で、見返りを得るために行う活動ではなく、社会貢献を通じて自己実現や本人の成長のために参加するというのが一般的です。
開業医などの医師の中にも、本業とは別にプロボノとして高度なスキルを活かしてボランティア活動に携わる方も多くいます。実際にどういった事例があるのか紹介していきます。
事例(1) 健康保険証を持っていない路上生活者や生活困窮者を支援
日本にも健康保険証を持っておらず、治療費を支払うことが困難な路上生活者の人たちがいます。そうした方々にプロボノとして無料診療を提供している医師がいます。それぞれ本業の仕事を持ちつつ、勤務の合間や休日などの時間を利用して、無償の副業として交代で生活に困窮しているホームレスの人たちを支援しています。
ある無料診療所では、精神科や内科、外科、皮膚科、泌尿器科、整形外科と、無料ながらさまざまな医師が専門スキルを活かして無料診療を提供しています。路上生活者の中には普段の厳しい生活環境が原因で体調を崩している人も少なくありません。そうした方にとっては、まさに「駆け込み寺」的な存在であると言えるでしょう。
無料診察に附随して、衣服や毛布などの生活に必要なものの提供や無料で食事を配る炊き出しなどを行うことも、さまざまな経緯で路上生活者になった人たちのサポートにつながります。こうした活動は、医師にできる一つの社会貢献の形です。
このような団体では医師のボランティアなどを募集していることもあり、プロボノとしての活動を始めることを検討している人は相談してみるのもよいでしょう。
事例(2) 発展途上国で十分な医療を受けられない人たちを支援
発展途上国には、医療費を支払うお金が無かったり、公的保険制度が整っていなかったりすることが理由で、十分な医療を受けられない人々が多くいます。日本の医師の中には、こうした人たちに無料でボランティア診療を行っている人もいます。
実際にその国のスラム街などに出向いて日本語が話せる現地の人とともに診療にあたったり、現地の住民コミュニティを訪れて育児指導を行ったりします。
しかし、本業を持っている医師は、常にこうした活動に携わることはできません。また突然現地に出向いても無料診療をする機会はなかなかないでしょう。そのため、海外で医療ボランティア活動を行う団体に協力したり、現地で医院を開業している日本人と連絡を取ったりして、海外でのプロボノ活動に参加する人たちもいます。
開業医の人たちの中には短期間の休みを取ることさえ難しい人たちも多いでしょう。この場合は、自身が経営する医院の医師に活動に参加させるのも一案です。これも間接的な社会貢献と言えます。
このような海外でのボランティア活動は、海外の国の現状を知る機会にもなります。社会的貢献という自己実現という目的のほか、本人の成長にもつながります。
事例(3) 自分たちの地域が抱える医療的な課題にチームで支援
地域コミュニティの互助の精神から、その地域で活動する医師や看護師、リハビリ専門職の人たちがチームを作り、専門知識を活かして地域の人々に病気予防などに関するボランティアを提供しているケースもあります。
介護が必要な状態に陥らないように、病気にならないようにするためにはどうすれば良いかを、無料講演会で地域の人々に伝えたり、高齢者の自宅を訪問したりして相談を受けるケースもあるようです。
1人よりは2人、2人よりは3人と、関わる人が増えると、よりきめ細かいプロボノ活動ができるようになります。本業を通じて知り合った同業者と一緒に計画を立てて取り組んでいくことも一つの方法でしょう。
地域によって抱えている課題は異なります。まず自分たちが住んでいる地域にどういったことが求められているのか、見つめ直してみることが必要です。
さまざまな国・地域、さまざまな支援の方法
3つの事例を取り上げましたが、どの事例も医師が営利目的で取り組んでいるものではなく、社会貢献や自己実現のために行っているものです。
本業で培った専門スキルを求めている人たちはさまざまな国・地域にいます。そしてプロボノとしての支援の方法もさまざまです。医師のようにスキルのある存在は社会で広く必要とされています。プロボノ活動に関心が生まれたら、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio)
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