日本人はもっと「直感」や「感覚」に頼っていい!

ライフシフター的仕事術,小暮真久
(画像=The 21 online)

テクノロジーが進化し、グローバル化が進む現代において、働く場所や環境を変え、自ら人生をより良い方向に導いていく「ライフシフター」的な働き方が重要だと、NPO法人TABLE FOR TWO Internationalの代表・小暮真久氏は言う。そんな働き方を実現するために必要なスキルとはどのようなものだろうか。

働く環境を柔軟に変えるライフシフターとは?

途上国の飢餓と先進国の健康問題の解消に同時に取り組むという独自のプログラムを展開するNPO法人「TABLE FOR TWO(TFT)」。代表の小暮真久氏は、海外の大学院で人工心臓の研究をしたのち、外資系コンサルティングファームや日系企業を経て、TFTを起業。海外経験も豊富で、2014年から3年間はイタリアに移住するなど、働き方を次々と変えてきた人物だ。そんな小暮氏が考える「これからの時代の働き方」とはどんなものだろうか。

「私が新しい働き方のキーワードになると考えているのが、“ライフシフター”です。

これは、働く場所や環境を柔軟に変化させ、人生をより良い方向に転換しながら自分らしい生き方を見つけていく人たちのこと。他人から見れば、『あの人、脈絡のないことばかりやっているよね』と思われても、本人の中では自分が好きなことや得意なことを常に探していて、挫折や失敗がありつつも、最終的には自分の中に一本の軸を作り上げていく。それが、これからの時代に幸せになれる働き方であり、生き方ではないかと思います。私がいろいろな仕事や職場を経験してきたのも、別に最初から計画していたわけではなく、常に面白いことやワクワクすることを探し続けた結果ですから」

といっても、小暮氏はすべての人に転職や起業を勧めているわけではない。「一つの会社で働き続けたとしても、ライフシフターとして生きることは可能」というのが小暮氏の考えだ。

「同じ組織にいても、自分で工夫しながら仕事や働き方をアップデートしていける人は、立派なライフシフターです。反対に、職場を変えても、過去の成功体験にしがみついて同じことを繰り返していたら、時代にフィットした働き方を実践するのは難しいでしょう」

イタリアで学んだ別の居場所」の重要性

では、ライフシフター的な働き方を実現するには、どのようなスキルが必要なのか。

「これまで日本は何事も米国流をお手本としてきました。私もコンサルタント時代に、ロジカルシンキングに代表される左脳的思考のハードスキルを徹底的に叩き込まれた経験があります。

でもイタリアで暮らしてみて、観察力やコミュニケーション力といったソフトスキルを磨いて、感覚的な判断をもっと大事にすべきだと考えるようになりました。イタリア人と議論していて、『なぜそう考えるのか』と聞くと、返ってくる答えは『だってそう思うから』(笑)。もちろんあとから裏付けのためのロジックは組み立てますが、先行するのは個人のセンスやひらめきです。

最初は驚きましたが、今では私も、イノベーションや新規事業を生みだすには、もっと自分の直感や五感に頼っていいと考えるようになりました。

タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太さんは、ハワイ生まれのレストラン『Eggs'nThings(エッグスン・シングス)』を日本で大ブレイクさせるなど、次々とヒットビジネスを生みだしています。その秘訣をご本人に聞いたところ、『海外旅行や出張先で出合ってビビッときたものをビジネス化する』とのこと。これはまさに“アイデア直感力”と呼ぶべきソフトスキルですよね」

イタリアで得た気づきはもう一つある。それは、会社とは別の世界を持つことの重要性だ。

「イタリアの人は、自分が所属するソーシャルサークルをいくつも持っています。家庭と職場だけでなく、共通の趣味を持つ人たちの集まりやボランティア活動などに参加して、それぞれの場で密な人間関係を築いている。そこで余暇や娯楽を楽しむ中で、『この映画で使われている技術は、自分の仕事にも使えるんじゃないか』といったひらめきを得て、本業とシナジーを生みだすこともよくあります。会社と自宅の往復だけでなく、別の居場所を作ることで良い刺激を受け、楽しみながらソフトスキルを磨いているのです。

皆さんにも、会社以外の場に積極的に出て行くことをお勧めします。大企業に勤める人が、休日に我々のようなNPOに参加するだけでも、普段と違う体験ができますよ。きっと『人手もお金も全然ないじゃないか!』とびっくりすると思いますが、何もないからこそ知恵や工夫が生まれる。それがソフトスキルを磨くことにもつながります。

NPOでなくても、地域の活動に参加するくらいなら、誰でも気軽に始められるでしょう。

大事なのは、無理をしないこと。劇的に環境を変えなくても、ライフシフターの生き方を疑似体験する方法はいくらでもありますから、まずは自分の気持ちに素直になり、面白そうだと思うことをやるのが一番です」

「聞きだす力」がイノベーションを生む

小暮氏は近著『人生100年時代の新しい働き方』の中で、ライフシフターに共通する「5つの力」を挙げている。小さな気づきからアイデアを生む「見いだす力」、未知の環境でも危機を回避する「嗅ぎとる力」、チームや人を動かす「つかむ力」などだ。中でも40代の中間管理職世代にぜひ磨いてほしいのが、「聞きだす力」だと話す。

「相手に共感しながら本音を引きだしたり、適切な質問をして情報を深掘りするスキルは、多くの日本人が苦手としています。一方、欧米の人たちはこれらのスキルが非常に高い。聞き役に徹しつつ、『Amazing!』『Good!』と褒め言葉を挟みながら相手の考えを引きだす様子には、いつも感心します。

聞くスキルが弱いと何が問題かといえば、新しい情報が入ってこないこと。相手の話を聞かず、『それは俺の考えとは違う』と一蹴してしまったら、周囲から『あの人には何も話したくない』と思われて当然です。

これからの時代にイノベーションを生みだすには、若い人のクリエイティブなアイデアやセンスが不可欠。そのためにも、上の世代は自分と異なる意見に耳を傾ける力が求められます」

異なる世代が互いの力を引きだし、協力し合う組織が増えれば、日本のビジネスは面白くなると小暮氏は期待する。

「若い人は発想力や企画力には優れていても、それを事業化するために必要な経営的視点や社会的信用が不足している。そこで、日本のビジネスシーンで求められるスキルや経験を身につけたベテランが若者の弱みをサポートすれば、実現する可能性は格段に高まります。

さまざまな得意分野を持つ人を集め、一つの事業やプロジェクトを組み立てるのが、今の働き方の主流モデル。管理職やリーダーだからといって自分一人ですべてをやろうとせず、周囲の人たちの強みを上手に引きだす力とマインドが、今後ますます重要になるはずです」

小暮真久(こぐれ・まさひさ)TABLE FOR TWO International 代表 1972年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で人工心臓の研究を行なう。99年、修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に入社し、幅広い業界のプロジェクトに従事。2005年、松竹入社、事業開発を担当。経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに感銘を受け「TABLE FOR TWO」プロジェクトに参画。07年、NPO法人TABLE FOR TWO Internationalを創設。著書に『20代からはじめる社会貢献』(PHP新書)、『人生100年時代の新しい働き方』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:塚田有香 写真撮影:吉田朱里)(『The 21 online』2018年3月号より)

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