シンカー:失業率は昨年の後半に3%をトレンドとして下回り、現在は2.5%程度まで低下するなど、マーケットの予想を大きく上回る好転を見せてきた。基調には、業績の良好な企業の積極的な採用活動とともに、働きやすい環境が整い、女性や高齢者の就業が増加していることがある。労働制度の改善や、IT技術の発達により、短期間でも働くことのできる環境が整う中、就業のハードルが下がり、企業とのマッチングを含め、労働者が職を見つけることもかつてないほど容易になってきた。結果として、就業率は長期平均の65%から70%を上回る水準まで上昇した。現在の1.9%程度の求職者比率のトレンドと71%程度の就業率のトレンドを前提とすると、失業率の推計値は2.5%程度となり、これまでの低下は行きすぎではないことがわかる。日本経済は構造的に就業率が65%前後で安定していたため、65%程度を前提とすれば、3%台の失業率が下限であったが、就業率の構造的な上振れなどにより、2%台も可能となったと考えられる。今後、景気拡大と労働改革が継続し、1.75%程度の求職者比率と72%程度の就業率を前提とすると、失業率はバブル期の1990年前後の最低である2%程度まで低下していく可能性も出てきたと考える。
失業率は昨年の後半に3%をトレンドとして下回り、現在は2.5%程度まで低下するなど、マーケットの予想を大きく上回る好転を見せてきた。
基調には、業績の良好な企業の積極的な採用活動とともに、働きやすい環境が整い、女性や高齢者の就業が増加していることがある。
求職者は大きく減少し、求職者比率(求職者の15歳以上75歳未満人口に対する割合)は1.9%程度まで低下し、求人数は大幅に増加しているため、有効求人倍率は6月には1.62倍まで上昇し、1974年1月以来の高水準となっている。
労働制度の改善や、IT技術の発達により、短期間でも働くことのできる環境が整う中、就業のハードルが下がり、企業とのマッチングを含め、労働者が職を見つけることもかつてないほど容易になってきた。
結果として、就業率(就業者の15歳以上75歳未満人口に対する割合)は長期平均の65%から70%を上回る水準まで上昇した。
失業率は、求職者比率と、この就業率でうまく推計できることがわかっている。
失業率(12MMA)=7.98+2.13求職者比率(12MMA)-0.14就業率(12MMA); R2=0.97
現在の1.9%程度の求職者比率(低下=失業率低下)のトレンドと71%程度の就業率(上昇=失業率低下)のトレンド(12ヶ月移動平均)を前提とすると、失業率の推計値は2.5%程度となり、これまでの低下は行きすぎではないことがわかる。
日本経済は構造的に就業率が65%前後で安定していたため、65%程度を前提とすれば、3%台の失業率が下限であったが、就業率の構造的な上振れなどにより、2%台も可能となったと考えられる。
今回の景気拡大局面で、求職者比率に対して失業率の方が低下が速く、マーケットの予想を大きく上回る好転の理由となっている。
横軸に就業率、縦軸に求職者比率をとり、失業率の推計値のマトリクスを作る。
求職者比率はまだ下げ止まっておらず、6月のスポットでは1.86%まで低下している。
景気拡大が継続していれば、1.75%程度まで低下することは想定の範囲内である。
就業率はまだ上昇が止まっておらず、6月のスポットでは70.6%まで上昇している。
働き方改革や労働市場改革が継続していけば、72%程度まで上昇することは想定の範囲内である。
1.75%程度の求職者比率と72%程度の就業率を前提とすると、失業率はバブル期の1990年前後の最低である2%程度まで低下していく可能性も出てきたと考える。
バブル期には、失業率が2.5%から2%へ低下する中で、賃金上昇と物価上昇がわずか1年強で急激に加速していった。
失業率と物価上昇率の関係を示すフィリップス曲線の分析では、3%台までは失業率低下の物価上昇への影響は小さく、2%台に入ると影響がしっかり見えるようになり、2.5%から2%への低下で物価上昇がかなり強くなっていくことが確認できる。
今回は就業率の上昇という労働供給の増加もあり、その動きはより緩やかで時間がかかるだろうが、賃金上昇と物価上昇がマーケットの予想を大きく上回る可能性があると考える。
図)求職者比率と失業率
図)就業率
図)失業率と推計値
表)求職者比率と就業率のマトリクス
図)フィリップス曲線
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司