価格決定プロセスが不透明
仮想通貨の将来価値を従来の投資のように予測することは非常に困難だ。つまり、価格の決定プロセスの不透明性が存在しているのだ。米証券取引委員会もビットコインETFを承認しない理由の一つとして、これを挙げている。現状では多くの投資アドバイザーが仮想通貨への投資が非常にリスク的であるという認識を持っている。従来の投資で言うところのハイリスク・ハイリターンにあてはまるのかもしれない。
だが、ハイリスクの仮想通貨には、将来どれほどの確率でハイリターンが得られるかも知るのが非常に難しい。仮想通貨が登場してかなりの時間がたったが、仮想通貨には全く価値がないと言う専門家もいれば、仮想通貨が希少で将来に秘められた可能性から何十倍または何百倍もなると言う専門家もいる。また、多くの国で仮想通貨の使用によって金融秩序が乱れるという考えから、厳しい制限が課されている。このことも仮想通貨の将来の価格決定に影響するだろう。
情報の非対称性による不公平な取引がなされる可能性
仮想通貨の売買における情報の非対称性が大きいことも注意しなければならない。上述の通り、情報の非対称性とは取引をする際に当事者の間に情報の差があることを指す。仮想通貨を売買する際に情報の非対称性が大きいと、不正な価格操作が行われる可能性が大きい。
例えば、対象となる仮想通貨の価格を適正価格以上に吊り上げて過剰なプロモーションを行い、市場参加者を引きつけ、投資家の買いが積んだところで売り抜ける。このような手法で荒稼ぎする。仮想通貨の売買が可能になったのは、ごく最近なことなので、仮想通貨の仕組みや技術的にどんなものかを十分に理解できていない投資家が多い。
ただ皆がもうけていると聞いて投資を始めた人も少なくないだろう。このようにして容易に本当の価値が分からないまま不確かな情報にしたがって、被害者となってしまう。特に現在の仮想通貨取引所は情報の非対称性の解消に向けた規制等がほとんどないため、価格操作が行われやすい環境となっている。
仮想通貨取引における特有のリスク
仮想通貨への投資には従来の投資には見られないリスクもある。大手仮想通貨取引所のビットフライヤーが公示する「仮想通貨におけるリスク」を見ると、その点がよく分かる。
例えば、価格変動リスクとして、「仮想通貨の価値が購入時の価格を下回るおそれがあること、またはゼロになる可能性があることも重ねてご認識ください。」という文がある。従来の投資においても投資家の投資金額がゼロになるというのは起こりうることだが、株式や債券への投資とは違った意味で、仮想通貨への投資には注意が必要だ。価格変動が大きいだけでなく、仮想通貨の価値がいまだに不透明であるためだ。
また、法定通貨でもなく電子データにすぎないということも大きい。技術的なリスクとして「仮想通貨は法定通貨ではありません。インターネット上でやりとりされる電子データです。特定の者によりその価値を保証されているものではありません。
また、仮想通貨は、必ずしも裏付けとなる資産を持つものではありません」と説明されていることからも分かるように、今後、技術的欠陥などの理由で価値がなくなることもあるだろうし、もしそうなったとしても、法定通貨でもないため国の関与も限定的だと考えられる。
さらに、「仮想通貨は電子的に記録され、その移転はネットワーク上で行われるため、消失のおそれがあります。」との説明もある。従来の投資においては自分の投資した資産が突然消えたりすることはありえない。政策として投資家の権利が守られる仕組みとなっている。しかし、仮想通貨の取引において突然消失することもありうる。これまでもハッキングにより投資家が持っている仮想通貨が盗まれることは現実に起きている。
仮想通貨への投資はリスクを十分に把握した上で
仮想通貨の特徴といくつかの特有のリスクについて考えた。現時点では、単純にこれまでの投資と同様に考えるには限界があるだろう。
新しい投資方法として魅力的かもしれないが、技術的問題が発生する可能性や投資環境の整備が不十分であることなど、ハイリスク・ハイリターンだけでは説明がつかない点も少なくない。そうした点を投資家は十分に理解する必要もあるだろう。(潮見孝幸、金融ライター)