1on1ミーティングで個人的なヒアリングを!
ダイバーシティが進み、モチベーションも多様化していると言われる昨今、求められるマネジメントのスキルも変わってきている。組織変革のプロフェッショナルである世古詞一氏に、マネジャーに求められるスキルの変遷と、効果的なマネジメントの手法である「1on1ミーティング」についてうかがった。(取材・構成 前田はるみ)
「とにかくやりなさい」が通用しない時代に
マネジメントのあり方の変化として一つ目に、個人のプライベートを考慮したマネジメントが求められていることが挙げられます。たとえば二十年前なら、「子供が熱を出した」というのが遅刻や早退の理由として納得感をもって認められる会社は少なかったと思います。それが今は、多くの職場で普通に認められるように変わってきています。
こうした変化に伴い、個人のモチベーションや感情の部分も無視できなくなっています。これが2つ目の変化です。
以前のように「仕事だからやりなさい」という一方的な仕事の渡し方が通用せず、本人のやる気をどう高めていくかが重要になっています。しかも、かつてはやる気の源だった給料や出世は、今の若い世代には響きません。それよりも、「この仕事にどのような意味があるのか」「それを私がやる意味があるのか」といった意味づけが大事。そのため、マネジャーは仕事の意味や背景を丁寧に伝える必要があります。
加えて、若手世代が求めているのは、「自分がここにいていいんだ」という安心感です。最近は「心理的安全性」という言葉が注目されているように、「自分が人として認められている」「存在を否定されない」といった安全性がベースにあってはじめて、自分の個性が生かされる感覚があります。安心感を満たしてあげる必要があるのです。
3つ目に、若い世代に求められる上司像も大きく変化しています。リクルートマネジメントソリューションズの2016年新入社員調査によると、最近は「厳しい指導でぐいぐいと引っ張っていく力強い上司」よりも、「一人一人に対して丁寧に指導する上司」が好まれる傾向にあるようです。
「おいしい」と口に出すことの重要性
このように、マネジメントのあり方や求められる上司像が変化する中で、上司に求められるマネジメントスキルも変わってきていると言えます。しかし、今の管理職や中間管理職世代は、そのような上司に育てられているわけではないため、自分が教えられたように部下に接するとうまくいかないのが難しいところです。自分が部下だった時代とは違うことを認め、時代の変化を捉えて自分を変えていくことも、今の上司には求められていると言えます。
そこで今、求められるマネジメントスキルとその高め方について考えてみます。
まず、「わかりやすく伝える力」です。すでに述べたように、仕事の意味や背景を丁寧に伝えて本人のやる気を高める必要があるからです。今は、難解な解説書を自分で読み解いたり探究したりする機会が減っているなど、世の中全体がわかりやすさを求める傾向にあります。わかりやすさに慣れた若者にも理解できるよう、わかりやすく伝える力が求められているのです。
とはいえ、さらなる育成段階では、あえて自分で考えさせるマネジメントも大切です。これには時間と忍耐が要りますが、部下の成長のためには、いずれそうした関わり方も必要です。
もう一つ、今の時代だからこそ必要なマネジメントスキルを挙げるなら、「ほめる力」です。以前から言われてはいますが、ますます必要になっています。今の若者にとって、自分の存在が認められている安心感が仕事のモチベーションにつながります。ところが、当たり前のことをわざわざほめる必要はないと考える上司が多いようです。
ほめるのが苦手な人はまず、「承認する」ことを意識してみてください。「ほめる」と「承認する」の違いは、「ほめる」は主観を伝えることで、「承認する」は認めた事実を伝えることです。たとえば、「髪、切ったんだね。似合うよ」が「ほめる」で、「髪、切ったんだね」が「承認する」です。承認は客観的事実を伝えるだけですが、そこには「あなたのことを見ています」というメッセージが込められています。これが相手に安心感を与えます。
ほめる力を磨くには、「観察力」と「観察したことを伝える力」の両方を鍛える必要があります。まず、部下に意識的に目を向けて、仕事の進め方や会議での発言内容などのプロセスに着目して変化を観察します。そして、これが一番肝心なのですが、気づいたことを口に出して部下に伝えます。
とくに男性は、できて当たり前のことに対して「いいね」と口に出すことに抵抗がある人が多いようです。普段から「おいしい」「うれしい」のように、感情を口に出すトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。慣れてくれば、自然に言えるようになります。
部下のことを知るために徹底的にヒアリングを
冒頭で、今は一人一人の状況や働き方、モチベーションに合わせたマネジメントが求められているとお話ししました。そのためにも、部下との一対一の対話の時間が不可欠です。
とはいえ今、多くの職場では、上司と部下が対話をする時間は減っている傾向にあると思います。いわゆる「飲みニケーション」の機会が減ったうえに、残業削減・業務時間短縮の影響から、普段の対話でも雑談をする余裕がなく、個人的なことを話す時間が物理的にも減っていると言えます。
そこでお勧めしたいのが、私が提唱している「1on1ミーティング(1on1)」です。従来の面接との一番の違いは、従来の面接が評価や指導を目的とする「上司のための時間」であったのに対し、1on1は部下の不安解消や、能力・キャリアを考える「部下のための時間」だということです。そのため、上司は部下に質問し、部下の話を聞くことに徹します。共感の姿勢で部下に安心感を与えることが、対話のスタートです。個の状態を把握し、信頼関係を構築してこそ、個の成長を支援することができます。
個を見るとは、つまり「人間を知ること」とも言い替えられます。働き方や価値観が多様化する中、マネジャーには多様性を理解する器を持つことが求められます。つまり、「人間力を磨く」ことがマネジャーにとって大きなテーマと言えます。
そのためには、仕事に励むだけでなく、遊んだり、本を読んだり、人と交流したり、さまざまな経験を積むことが大切です。人生を豊かに楽しむことで、人間力は磨かれます。これからのマネジャーは「仕事人間」では務まらなくなるということです。
世古詞一(せこ・のりかず)〔株〕サーバントコーチ代表取締役
1973年、千葉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。東証一部上場企業のVOYAGE GROUPの創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年に独立。月1回30分の1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントのプロフェッショナル、組織人事コンサルタントとして活躍として活躍中。著書に『シリコンバレー式 最強の育て方――人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング』(かんき出版)がある。(『The 21 online』2018年3月号より)
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