はじめに

住宅着工床面積,長期予測
(画像=PIXTA)

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成 30 年推計)」によれば、2030年以降、全都道府県で総人口の減少が始まり、本格的な人口減少局面を迎える。また、老年人口比率(65歳以上人口の占める割合)は、2015年の 26.6%から、2035年に32.8%へ上昇し、約3人に1人が高齢者となる。住宅供給やまちづくりを中長期な視点で考えるにあたり、人口減少と高齢化の進展は無視できない問題である。

また、住宅供給・まちづくりの担い手である建設業は、地域に根ざした産業であり、地域経済や雇用に及ぼす影響が大きい。地域経済の今後を見通すうえでも、人口動態が住宅供給に及ぼす影響を考えることは意義があると思われる。

そこで、本稿では、人口動態と新設住宅着工床面積に関する計量分析に基づき、人口減少・高齢化が新規の住宅供給量に及ぼす影響を考察したい。

住宅着工床面積の長期予測

●予測方法

本章では、人口動態と新規住宅供給の関係について計量分析を行った上で、国立社会保障・人口問題研究所の人口予測(「日本の地域別将来推計人口(平成 30 年推計)」)に基づき、住宅供給量(都道府県別)を予測する。

具体的には、被説明変数に「新設住宅着工床面積(都道府県別)」、説明変数に人口規模を表す「総人口」と、人口構造を表す「従属人口指数(1)」を採用し、回帰分析(パネルデータ分析)を行い、人口動態が新規の住宅供給量に及ぶ影響を推定する。その上で、「日本の地域別将来推計人口(平成 30 年推計)」)における人口予測に基づき、2035年までの新設住宅着工床面積を予測する。

説明変数に採用した「総人口」は、総務省「国勢調査」では直近の2015年調査で減少に転じた。今後も減少は継続し、2035年には約1億1500万人(2015年対比▲9%)へ減少する見通しである(図表1)。

また、「従属人口指数」は、生産年齢(15~64歳)人口100人で、年少者(0~14歳)と高齢者(65歳以上)を何名支えているのかを示す指数である。一般的に、「従属人口指数」が低下する局面は、全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり、人口構造が経済にプラスに作用すると考えられている(「人口ボーナス」と呼ぶ)。反対に、「従属人口指数」が上昇する局面は、生産年齢人口の割合が低下し、人口構造が経済にマイナスに作用する(「人口オーナス」と呼ぶ)。先行研究(2)では、「従属人口指数」は、住宅供給量と強い負の相関関係があると指摘されている。

住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

図表2は、従属人口指数(全国)の推移を示したものである。1990年の年少人口は約2,300万人、生産年齢人口は約8,600万人、老年人口は約1,500万人であり、「従属人口指数」は43.5であった。1990年以降は、生産年齢人口の減少と老年人口の急激な増加に伴い、「従属人口指数」は上昇し続けている。2015年の「従属人口指数」は64,5となった(年少人口;約1,600万人、生産年齢人口;約7,700万人、老年人口;約3,400万人)。2035年には、年少人口は約1,200万人、生産年齢人口は約6,500万人、老年人口は約3,800万人となり、「従属人口指数」は過去最高水準の77.3に達する。今後も「人口オーナス」の状況が継続すると見込まれている。

住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)従属人口指数=(年少人口+老年人口) ÷ 生産年齢人口× 100
(2)森祐司『高齢化と不動産市場-高齢化・人口減少による地価への影響』九共大紀要第4巻第2号、2014年3月

●予測結果

パネルデータ分析による推定結果を図表3に示した。自由度修正済み決定係数は、0.70と一定水準以上を確保しており、人口動態により新規の住宅供給量が概ね説明できることが分かった。

人口規模と人口構造(「総人口」と「従属人口指数」)は、新規の住宅供給量(「新設住宅着工床面積」)に対して統計的に有意な影響を与えている。具体的には、「総人口」が1%上昇すると「新設住宅着工床面積」は約0.3%増加、「従属人口指数」が1増加すると、「新設住宅着工床面積」は約2.8%減少することが示された。

住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

上記の推定結果に基づく新設住宅着工床面積の予測結果を図表4(全国)、図表5(地方別)、図表6(都道府県別)に示した。新設住宅着工床面積(全国)は、「総人口」の減少および「従属人口指数」の上昇に伴い、2017年の約7,800万m2から2035年には約5,500万m2(2017年対比▲29%)まで減少する見通しである。過去最高水準であった1996年の着工床面積(約15,800万m2)に対して約3分の1の水準まで減少する(図表4)。

住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

地方別の予測結果をみると、「東北」と「北海道」では、新設住宅着工床面積が対2017年比で40%以上減少する見通しとなる(図表5)。最も減少率が大きかったのは、「東北」であり、新設住宅着工床面積は、2017年の約550万m2から2035年には約290万m2(2017年対比▲47.9%)まで減少する予測結果となった。最も減少率の小さい「中国」でも2017年対比▲20.1%であり、大きく減少する。

住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

都道府県別の予測結果をみると、青森県・秋田県・福島県・山梨県では、新設住宅着工床面積が対2017年比で50%以上減少する見通しとなった(図表6)。これらの県では、「総人口」は2017年対比で15%以上減少し(図表7)、「従属人口指数」が20以上上昇する(図表8)。上記の都道府県では、人口減少および高齢化が急速に進み、新設住宅着工床面積が大幅に減少する。

また、最も減少率が小さい東京都でも、2017年対比で16%減少するように、新設住宅市場の縮小が全国レベルで進行する可能性が高い。

住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)
住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)
住宅着工床面積,長期予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

おわりに

新規の住宅供給量は、経済環境や金利動向、税制改正等の様々な要因に左右されるが、本稿の分析から、長期的にみると人口動態に大きな影響を受けていることが分かった。

本稿の予測結果から、2035年の新設住宅着工床面積(全国)は、現在の7割程度の水準まで減少し、一部の都道府県では、半分以下の水準まで落ち込む可能性があることが示された。今後の経済環境等に影響される部分があるものの、人口減少・高齢化に伴い、新築住宅市場が大幅に縮小することは免れないものと考えられる。

このような状況下で、中古住宅市場や修繕・リフォーム市場を整備・活性化させる動きが始まっている。国土交通省「未来投資戦略2017年」では、「既存住宅流通・リフォーム市場を中心とした住宅市場の活性化」を取り上げており、2025 年までに既存住宅流通の市場規模を8兆円、リフォームの市場規模を 12 兆円に倍増することを目指している。今後、新築住宅市場の縮小や政策の後押しを受けて、中古住宅流通事業や修繕・リフォーム事業に企業活動の軸をシフトする不動産・建設事業者が増えると思われる。

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

吉田資 (よしだ たすく)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・総合政策研究部兼任

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