求められる文章スキルは「ほどよく丁寧」かつ「簡潔」

メール,中川路亜紀
(画像=The 21 online)

ビジネスのコミュニケーションは、もはや対面のコミュニケーションや電話よりもメールが主流になっている。しかし、細かいルールがわからない人も多く、文章だけでやり取りするメールでは、誤解も生じやすい。また、メールのコミュニケーションに求められるスキルも時代によって変化している。ビジネス文書やメールのコミュニケーションについての著作を多数手掛ける中川路亜紀氏に詳しくうかがった。(取材・構成=塚田有香)

メールのトレンドは「丁寧」から「簡潔」に

ビジネスメールに必要なスキルや心得るべきマナーは、時代とともに変化してきました。

メールが仕事で使われ始めた頃は、パソコンのスペックが低かったので、データ容量が大きくならないよう、宛名も挨拶もなしで電報のように用件のみを書くのがマナーでした。しかしIT環境が進化するにつれ、時候の挨拶や丁寧な前置きを書く人が増え、メールは次第に長くなる傾向が続きました。

それが最近は、再び短さや簡潔さが求められるようになりました。仕事の効率や生産性の向上が求められるようになったことに加え、LINEやメッセンジャーなどのSNSが普及し、短文でのやり取りが増えたことも大きく影響しています。

とはいえ、内容を省略しすぎて必要な情報が抜けてしまったら、ビジネスメールとして成立しません。また、最低限の丁寧な表現まですべて省くと、相手に不快感を与えてしまいます。

短く端的かつ、ほどよい礼儀正しさを備えたメールを書くこと。これが今、あらゆる人に求められるスキルになっています。

相手との関係によって表現を変えていく

では、そのためにはどうすれば良いのでしょうか。何よりも基本となるのは、読む相手のことを思いやることです。対面のコミュニケーションとは違い、メールはお互いの表情や声などがわからないので、相手に冷たい印象や威圧感を与えることがあります。こちらは笑顔で「明日までにお送りください」と書いても、相手は「無理強いされているようで怖い」と感じる可能性もあるのです。かと言って、あまり過剰に丁寧な表現で長文を書くのも、メールのコミュニケーションにはふさわしくありません。

そこで提案したいのが、文末の表現を工夫したり、気の利いた一文を添える方法です。前述の例ならたとえば、「お送りくださいますようお願いいたします」と語尾を変えるだけで、相手が感じるプレッシャーは和らぎます。また、頼みごとをするなら、「お忙しいところ恐縮ですが」「お手数をおかけしますが」などと添えるだけで印象は大きく変わります。

相手との関係性やコミュニケーションの回数によって書き方を調整するのも端的かつ礼儀正しく伝えるコツです。たとえば、初めてメールを送る相手には、文章に最大限の配慮をすべきです。とくに最初のメールが依頼であれば、「不躾なお願いで恐縮ですが」などといった丁寧なひと言を添えましょう。

一方、気心が知れた相手ならば、こうした表現は省いて構いません。むしろ頻繁にやりとりする相手にルーティンな連絡をする場合は、簡潔かつワンパターンな文章でOK。「お世話になっております。今月分の請求書をお送りください」といった定型文が毎回届けば、相手も「特別なことはなく、いつもどおりでいい」とわかって効率的です。

件名は「検索性」を重視してつけよう

「件名」と「署名」も重要です。 メールの主題は仕事の依頼なのに、件名が「先日はありがとうございました」だったら、後で依頼内容を確認したい時に該当のメールを探すのが大変です。これも相手の立場になり、具体的で検索しやすい件名をつけるのがコツ。「請求書をお願いします」ではなく、「請求書のお願い(○○社)」と補足をつけるだけでも、他社から送られる同様のメールと区別しやすくなります。

件名にヘッドを入れるのも効果的。【決定】【変更】などと入っていれば、相手もひと目でメールの重要度を理解できます。

最近はSNSの影響か、末尾の署名を省く人が増えましたが、これも相手に迷惑をかける可能性があるので要注意。相手に郵送したいものがあるときなど、署名がないとわざわざ名刺を探したり、住所や電話番号を問い合わせる手間がかかります。今はメールのやりとりだけで仕事が進む案件も多いので、署名は名刺代わりと考えて、必要事項をきちんと書きましょう。

すべての「ツール」を使い分ける時代に

また、そもそもメールを使うべきではない場面もあります。とくに相手に損害を与えるようなトラブルが発生した際は、まず電話で第一報を伝えるのがマナー。どんなに丁寧に書いても「そんな大事なことは、直接伝えるべきだろう」と不快に感じる人が多いものです。

コミュニケーションツールが多様化したからこそ、その特性に合わせて上手に使い分けることも、これからの時代に求められるスキルと言えるでしょう。

言いにくいことをメールで伝えるときに使える表現

(1)お願いの表現

急なお願いで申し訳ありませんが、1週間ほどでご確認いただきたくお願いいたします。
→気を使う相手には、「ご確認いただくことは可能でしょうか」など、遠慮を含めた言い方に。

誠に厚かましいお願いではございますが、なんとかご協力いただきたく、平にお願い申し上げます。
→「平に」は、平身低頭している様子を表現する言葉。

☆お願いの文末表現、下にいくほど遠慮がち
お送りください。
お送りください(いただき)ますようお願いいたします。
お送りいただきたくお願い申し上げます。
お送りいただけましたら幸いです(幸甚に存じます)。
お送りいただけますでしょうか。
お送りいただくことは可能でしょうか。

(2)交渉の表現

取引条件についてご相談したい点があり、ご連絡いたしました。
→提示された取引条件では不都合がある場合、このように切り出すとよい。

見積もりについては了解いたしました。スケジュールについては、もう少しご相談させてください。
→条件のうち、合意できる部分とできない部分を分けて書く。

これはご相談なのですが、思い切って新機種に交換していただくという方法もございます。
→「これはご相談なのですが」という表現で、「強制ではありません」というニュアンスが伝わる。

(3)催促の表現

期日が過ぎましたが、お進み具合はいかがでしょうか。
→締切を過ぎてから催促する場合だが、このいい方ならあくまで確認するニュアンスになる。

明日はラフデザインを出していただく予定になっております。楽しみにしておりますので、よろしくお願いいたします。
→締切の前に、念を押すメールを送る場合に使える。

本日中に企画書をいただけない場合、申し訳ありませんが、企画会議への提出を見送らざるをえません。
→催促を重ねてきたものの間に合わないかもしれない、というときの最後通告。

中川路亜紀(なかかわじ・あき)コミュニケーション・ファクトリー代表
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経て、98年にコミュニケーション・ファクトリーを設立。ビジネス文書の作成やメール・電話・SNSの使い方など、ビジネスコミュニケーションに関する著述・講演活動を行う。著書に『気のきいた短いメールが書ける本』(ダイヤモンド社)などがある。(『The 21 online』2018年3月号より)

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