「良い感情の渦」を作れるリーダーだけが成功する!
「リーダーシップのモデルが、ひと昔前とはずいぶん変わっている」と指摘するムーギー・キム氏。社会や価値観や会社のルールが変わっていく中で、リーダーに求められることはどのようなものだろうか。多くの一流ビジネスパーソンを見てきた、ベストセラー『最強の働き方』、話題の新刊『最強の生産性革命』の著者であるムーギー氏に、「これからの時代の最強のリーダー」について話をうかがった。
時代遅れの働き方に縛られすぎ
これまでさまざまな外資系投資会社やプライベートエクイティファンドなどで、世界一流のビジネスパーソンとともに仕事をしてきたムーギー・キム氏にとって、今の日本人の働き方はどのように見えるのだろうか。
「1月に刊行した竹中平蔵氏との共著『最強の生産性革命』(PHP研究所)でも述べましたが、ひと言で言えば、『時代遅れ』な思い込みに縛られている人が、とても多いようです。グローバルな観点で見ると、優秀な人ほど大企業での生活に飽き足らなくなってきています。MBAを卒業して、最初はコンサルティングファームに就職したとしても、3年も経てば、かなりの数が起業しています。
ところが、私たちの社会はまだまだ大企業エリート信仰から抜け出せない。さらに、『一つの仕事に一生懸命打ち込む』ことこそが美徳であると考えている人も多いかと思います。しかし今や、兼業だろうが起業だろうが、極端な話、資産があれば無職だろうが、さまざまな選択肢が可能になっているのです。
また、社会や会社の仕組みやルールについても同様です。経済が右肩上がりで、若い人の人口が多い時代だったからこそ成り立った、終身雇用や年功序列、退職金制度などの仕組みや制度を、その前提が崩れているにもかかわらず維持しようとしているから無理が生じている。時代遅れの制度を、画一的に全員に押しつけようとしているから歪みが出てくるのです。まずは、働くうえで『当たり前』と思っているこれらのことが、実は時代遅れなのだと認識することが、新しい働き方への第一歩です」
会社から与えられた仕事を黙々とこなしていく働き方はもはや時代遅れ。では、どのように仕事を選べばいいのだろうか。
「成功している多くの人を見ていると、自分が好きなこと、面白いと思うことをやり続けています。好きなことだからこそ頑張り続けることができるのです。
ただ、好きなことがわからないという人もいることでしょう。今の30、40代は、なんとなく周りに合わせて就職活動をして会社に入り、与えられた仕事に取り組んでいるという人も多いのではないでしょうか。
まず、胸に手を当てて考えてみたいのは『今の仕事は本当に自分がやりたいことなのか』ということです。その仕事がたまたま自分に合っていて楽しくて仕方がないのなら言うことはありません。でもそうでないなら、仕事を見直したほうがいい。今は、若い人に限らず、仕事の内容や働き方、生き方を自分でカスタマイズしている人がたくさんいますし、それができる時代になっています。
自分が本当に好きなもの、やりたいことを見つけるためには、若いときや子供の頃の原体験にまで遡って考えてみるといいでしょう。すると、自分が無意識のうちに大切にしてきたことや、これだけは実現したいということが浮かび上がってくるものです。それが今の会社の中で実現できそうならば努力を続ければいいし、そうでないなら転職を視野に入れてもいい。また、転職をしなくても、兼業を認める会社も増えてきていますしね」
信頼関係構築能力こそがリーダーシップの基本
そんな社会の変革期の只中で、リーダーがするべきこととは?
「今の若い世代の仕事に対する考え方も昔とは異なり、仕事を通じて自己実現したいという気持ちがとても強くなっています。
天職の基本は、興味もあって、なおかつ市場価値が高いことです。また、成長実感を得られる仕事に対しては前向きに取り組みますし、意欲も長続きします。つまり、どれだけ上司が一人ひとりの部下に目を配り、彼らの興味関心や成長段階にフィットする仕事を与えられているかが、部下の成長を促し、さらには『良い感情が渦巻く職場』を作っていくうえでカギを握るのです。
この、『良い感情が渦巻く職場』については、INSEADのEMCCCというコーチングの修士号プログラムのMichaelJarrett教授も説いておられ、メンバーが高い意欲を持って働くことができている職場には、必ず良い感情が渦巻いています。
良い感情というのは、『会社は自分のことを大切にしてくれている』『だからこそ、この会社、上司、同僚のためにひと肌脱ごう』といったもの。このような信頼関係構築能力こそがリーダーシップの基本とも言えます」
仕事への情熱を周囲に伝えられているか?
それに加え、上司が部下に対して示すべきことが「パッション(情熱)」だという。
「リーダーである前に、ビジネスパーソンとして仕事へのパッションを持つことも成功の秘訣です。
どの国のベンチャーキャピタリストと話していても、投資をするかどうかの最後の判断基準は『パッションが感じられるかどうかだ』と言います。実際にビジネスを始めると、当初のビジネスモデルや市場環境はどんどん変化していきます。そんな中でお金や権力欲、社会的な成功が目当ての人は、ちょっと想定外の苦難に直面すると、すぐに諦めてしまうものです。一方、『どうしてもこの仕事を成し遂げなくてはいけない』というパッションを持っている人は最後までそれをやり遂げようとします」
パッションとは、好きなこと、やりたいことがベースにあって生まれるもの。そういう意味でも、本当にやりたいことをするのは大切なのだ。
ただし、人がついてくるかどうかは情熱だけではまだ足りない。周囲を上手く巻き込むには何が必要なのだろうか。
「昨年の衆院選での小池都知事の敗因は、『何が何でもこの政策をやりたい』というパッションの欠如に加え、周囲の支えてくれる人たちへの敬意がなく、都合がいいときに利用しただけだと見透かされたことです。
人は、リーダーが公的な大きなビジョンがなく、単に権力欲しかないと察知したとき、離れていくものです。また、年齢が若いからと言って意思決定に参加させず、決めたことを押しつけているだけでは、今時の優秀な若い人は一緒に働いてくれません。実際に音喜多氏など若い人の離反を招きました。このような時代遅れのリーダーシップスタイルの失敗からは、多くを学ぶことができると思います」
とはいえ、中には強い情熱を持っていても、その情熱が空回りして、周囲から浮いてしまっているリーダーもいる。
「部下から『あの人、また何か言っているよ。ついていけないんだよな』などと言われないために大切なのは、リーダーがやりたいと思っていることを、『これは自分がやりたいことなんだ』と部下自身に思わせるように、部下を巻き込んでいくことです。『こういうことを実現したいんだけど、あなたならどんなふうにやる?』といった問いかけをし、部下自身に考えさせるように仕向けていくのです。
部下は上司から命令されれば従いますが、イヤイヤやっているうちは成果は上がりません。でも主体的に考えたことについては積極的に取り組みますし、簡単には諦めません。最初のうちはリーダーだけが『やりたい』と思っていたことを、チーム全員が『やりたい』と思うことに共有できたとき、その物事は実現へと向けて動き出します。
多くの人が共鳴できるパッションを持っているリーダーの周りには、優秀な人が集まります。その優秀な人たちに対して、いかに適材適所な働く場を与え、意欲や能力を引き出していくかを、常に考えられるリーダーが求められていくでしょう」
ムーギー・キム(ムーギー・キム)
投資家、『最強の働き方』『一流の育て方』著者
1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、大手グローバル・コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より世界最大級の外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当したのち、香港に移住してプライベート・エクイティ・ファンドへの投資業務に転身。ベストセラー作家としても知られ、近著に、『最強の健康法―世界レベルの名医の本音を全部まとめてみた』(SBクリエイティブ)と、『最強のディズニーレッスン―世界中のグローバルエリートがディズニーで学んだ、50箇条の魔法の仕事術』(三五館シンシャ)がある。≪取材・構成:長谷川 敦≫(『The 21 online』2018年3月号より)
【関連記事 The 21 onlineより】
・人生100年時代の「ライフシフター」的仕事術
・「変なホテル」が予言する未来の働き方とは?
・竹中平蔵 × ムーギー・キム 大企業エリート信仰は時代遅れ
・「日本人の働き方」はいつからおかしくなったのか?
・あなたは大丈夫?「40代を後悔する人」の働き方とは