「資本論」で有名なマルクス。言わずと知れた経済学の「巨人」です。一方で、マルクスは共産主義というイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。マルクスが分析の対象とした時代は19世紀の資本主義です。資本家が労働者に長時間労働を強いるような状況がありました。もし、そんな時代を分析対象としていたマルクスが、現代の最新の評価経済を見てみたらどうなるのでしょうか。
マルクスの分析した「資本家」と「労働者」の関係性
マルクスの打ち立てた経済学において、資本家とは工場の機械のように生産手段と労働者の労働力を用いて資本を生み出す存在です。資本家にとって、労働者が働いた結果生み出した「剰余価値」(働きから給料を引いた残り)が「もうけ」となります。
もうけを大きくするために労働者を長時間働かせたり、労働者の賃金を下げたりする存在。それが、マルクスにとっての資本家でした。
そして、機械を導入して、雇用する労働者や給料を減らせば、生産性は変わらないのにコストを下げることも可能です。こうして剰余価値=資本家のもうけは増え、労働者は困窮するとというのがマルクスの分析です。
資本主義が進展すればするほど両者の格差は開く一方ですから、「労働者は団結して共産主義革命を起こすべきだ」というのが広義の意味でマルクスの主張だったといえるかもしれません。
マルクスの主張に共鳴して、ロシアをはじめとしたいくつかの国で「共産主義」「社会主義」を標榜する政権が生まれました。しかし、20世紀の末までにそのほとんどが崩壊しています。マルクスの学説は、アカデミックな世界では研究対象になっているものの、実際に政治や社会を動かす力を失っているのが現状です。
評価経済では「労働者」がパワーアップ?
評価経済とは、個人がSNSを始めとしたさまざまな手段を通じて「信用」を集め、商品の売上や人々の考え方に大きな影響力を持つというものです。
労働市場においても、個人が影響力を高める機会は増えています。例えばネットサロンでのコミュニティ形成、クラウドファンディングでの資金調達、シェアリングサービスでの能力の提供など、企業に属していなくても、自分の力を発揮する機会は増えています。
つまり、評価経済が一般化すると、個人が自分のスキルを生かして他者からの信用を集め、自分の価値を高めることができるようになります。マルクスのイメージした「か弱い労働者」とは異なる労働者像を形作れる時代になったのです。
もちろん、以前から今と同じように価値を高める活動はできたかもしれません。しかし、ごく限られた場面でしか自分のスキルを広く伝える手段がありませんでした。それが、インターネットやSNSの発達が個人の影響力と価値を高める手段に大きく貢献したと考えられるでしょう。
評価経済は個の力が信用を集める
労働者が結束し、「革命」や「社会」に頼らなくても、資本家に搾取されない生き方ができるのだとしたら、マルクスも好ましいことだと考えるのではないでしょうか。「暴力的な革命によって資本主義を打倒する」という武闘派イメージのあるマルクスですが、それはあくまで手段に過ぎません。
マルクスが望んだのは、一日20時間も働かされて健康を害し、若くして死んでいく「搾取」としか呼びようのない労働者が救われることでした。労働者が自分の価値を高め、資本家と対等な立場で生きられるのだとしたら、革命がないとしてもマルクスが否定することはないでしょう。
評価経済では、個人が力をつけることで、企業や組合などの形で組織を作らなくても、個として社会を生き抜く時代だといえます。実際、アメリカでは労働人口の35%、実に5,500万人がフリーランスであるといわれています。評価経済が一般的になると、経済のキープレイヤーは企業ではなく個人となるのです。
経済手段が個人に還元される時代は、ある意味で資本主義以前の原始的な経済形態と酷似しているという見方もできます。原始的な経済形態も、個人と個人が自分の「生産物」を持ち寄って交換しあうものでした。それは、フリーランスの個人同士が自分のスキルを交換しあう評価経済のあり方とほとんど変わらないのかもしれません。
マルクスは「21世紀の資本論」をどう描くのか?
個人が物々交換する原始的な経済から、資本家と労働者による産業資本主義を経て、最終的に共産主義に不可逆的に到達するというのがマルクスの主張でした。ところが、評価経済は共産主義よりも個人が主役となる原始的な経済に似ているのです。きっとマルクスは困惑することでしょう。
進んでいるつもりが、もといた場所に違う形で戻りつつある……。私たちの社会は、DNAのように「進化のらせん階段」を歩んでいるのかもしれません。マルクスが21世紀の現代に蘇って「資本論」を書くとしたら、書き出しはきっとこうなるのではないでしょうか。
「資本主義は不可逆的な行程をたどって打倒されるのではなく、らせん階段のように姿形を変えつつある」と。(提供:J.Score Style)
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