グローバルな思考力の磨き方とは?
グローバル化の波に、ともすれば乗り遅れがちな日本企業。その原因の一つは「論理力」の差にある、と戸塚隆将氏は指摘する。ゴールドマン・サックスをはじめ数々のグローバル企業に身を置き、ハーバード経営大学院で「世界基準」の論理構成を学んだ戸塚氏が推奨する「シンプルなロジック」と、思考力を高める方法とは。
「情報処理能力」より重要になるものとは?
「日本人の話は感覚的で論理性に欠ける」「何が言いたいのかわからない」といった外国人ビジネスマンの意見を耳にすることは多い。実際、その弱点が日本企業の競争力に影を落としている──と指摘するのは、世界有数のグローバル企業でコンサルティングに従事し、現在もグローバル人材の育成・支援に携わる戸塚隆将氏。「論理力」は今後、世界中どこにおいても、必要性を増すだろうと語る。
「いわゆる『頭の良さ』の基準はさまざまです。情報処理の速さや機転、発想力、論理力ももちろん含まれます。この中で、今後最も必要とされ、かつ誰でも磨ける力が論理力。機転や発想力のように、先天的要素を含みませんから、何歳からでも伸ばすことができるのです」
現在は重視されている「情報処理能力」も、論理力ほどには必要とされなくなるだろう、と予測する。
「情報処理は今後、AIの役割になります。人間が必死にこの能力を磨いたところで、速さも正確性も敵いません。我々が磨くべきは、さらに『上流』──つまり問題の定義とそこから導き出す望ましい結論、その方策や根拠といった『設計図』を作る力です」
自身が接してきたグローバルエリートは、AIの台頭を恐れてはいなかったと振り返る。
「世界中で成果の出せる人に共通しているのは、『独自の意見』を持っていることです。どんなテーマに対しても『こうしたい』『こうあるべき』といった絵が描けている。そうした人々はAIを脅威とは感じません。AIを動かすプログラムを考える、つまり機械に指示する側に回れるからです。
以前、Google の前CEOにして現アルファベット社会長であるエリック・シュミット氏のインタビュー記事を読んだのですが、彼はAIに対する人間の優越性として三つの思考力を挙げていました。一つは概念的思考、大元のコンセプトを考える力です。二つ目は、その実現までの筋道を立てる戦略思考。三つ目が、それをアクションに落とし込む計画的思考。彼がこの中で一番重要視していたのは、恐らく概念的思考でしょう」
それは戸塚氏が語るところの「設計図」であり、グローバルエリートの「独自の意見」ともイコールの関係だ。さらに言い換えれば「正解のない問いに答を出す力」でもある。
「ほとんどの課題には、あらかじめ用意された正解などありません。ですから我々は、自分の頭で考えて答えを出さなくてはならない。論理的に考えて結論を出す力が必要なのです」
「なんとなく」の質問に答えられるか
論理的思考と聞いて多くのビジネスマンが連想するのは、「ロジカルシンキング」──ロジックツリーやMECE といった緻密な論理構成力だろう。しかし戸塚氏は、その類のスキルは必須ではない、と語る。
「論理の構成は単純で良い、というより単純なほうがいいと思います。シンプルな思考、シンプルな結論こそ人に訴える力があるからです。『結論はこう、理由は三つ、だから結論はこう』と伝える、結論→根拠→結論のパターンさえ身につけておけば十分です」
その際、結論がユニークである必要もないという。
「結論の質よりも、結論を持っているか否かが重要です。斬新でなくとも、これが自分の意見だと言えるものを持つこと、そしてそこに根拠があることが不可欠。『なんとなくそう思う』では説得力がありません」
まさにその点こそが、日本人の弱点だと戸塚氏は指摘する。
「海外、とくに英語圏では、些細なことでもしょっちゅう理由を問われます。たとえば『その食べ物が好きな理由』など。日本人なら『なんとなく』としか答えられないような問いですよね(笑)。結果、言葉が見つからず、会話が停滞する。
よく、日本人の英語力が低いといわれるのは、この問題が絡んでいることが多い。つまり、英語力はあっても伝える内容が思い浮かばない。ですが、そんな問いに対しても、『美味しいし、ヘルシーだし、安いから好き』などと、明快に答えられなくてはならないのです」
日本人の論理力の弱さは、コミュニケーション以外の領域にも悪影響を及ぼしている。
「たとえば電機業界。技術力はトップレベルであるにもかかわらず世界に遅れをとっているのは、製品がニーズとマッチしていないからだと思われます。海外製品は、作りはシンプルでも『誰が、いつ、どう使うか』が非常に明確。対して日本製品は、どう使えばいいのかわからないような機能がいくつも搭載されている。これもまた、『概念思考』──コンセプトを組み立てる力の弱さではないでしょうか」
周りの出来事すべてに「自分なら」と考える
では、具体的にはどうやって思考力を鍛えればよいのか。
「まずは『言語化』してみることです。何かについて考える際には、まず頭の中にあるものを言葉にしましょう。私はノートに考えを書き下すようにしています。最初はランダムに思いつきを書くだけですが、次第に『こことここが因果関係でつながる』などの発見が出てきます。繰り返し書き直すうち、明快な論理構成へとブラッシュアップされていきます」
その際は、「伝える相手」を意識することも忘れてはならないという。
「相手にどう伝えるかを考えながら書き出すことにより、どう伝えればムダなくスキなく、心に訴えるものになるかも見えてきます」
日常生活で論理力を鍛える方法は、他にもあるという。
「お勧めできる方法は二つ。一つは日常のあらゆる物事について、結論と根拠を考えてみる習慣を持つことです。『好きな食べ物は何か』『その理由を三つ挙げる』というように、どんな小さなテーマでも説明できるようにしておくと、実際のコミュニケーションでも役立ちますし、思考力も鍛えられます。
もう一つは、『自問』の習慣。これは、『結論を持つ力』を鍛える練習です。自分に直接関係ないニュースや場面に遭遇した際、『自分ならどうする』と問いかけてみましょう。たとえば、顧客への説明に手間取る上司や同僚を見たら、自分なりの説明を頭の中で組み立ててみる、といったことです」
管理職なら、部下に同じ習慣を持たせることも大事だ。「一方的に指示をするのではなく、『君ならどうする?』『その結論に達した理由は何?』と、こまめに問いかけましょう。これは部下育成と同時に、自分を鍛える効果もあります」
戸塚隆将(とつか・たかまさ)シーネクスト・パートナーズ代表取締役
1974年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックスにて、日米欧アジア企業のM&Aアドバイザリー業務に従事。ハーバード経営大学院(HBS)にてMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーに転じ、多国籍企業の戦略立案、組織改革、事業譲渡・提携などの戦略コンサルティングを手がける。2007年、シーネクスト・パートナーズを設立。企業のグローバル事業開発およびグローバル人材開発を支援するほか、HBSの教材を活用した英語プログラム「CLUB900」を開発・運営している。著書に、ベストセラー『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(朝日新聞出版)など。英語学習プログラム「CLUB900」を主宰( www.club900.jp )。《取材構成:林 加愛》(『The 21 online』2018年2月号より)
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