働き方改革の一つとしての健康支援

 2018年6月、働き方改革関連法が成立した。長時間労働の是正、有給休暇の取得促進により、働く人々が健康を保ちながら、多様な働き方を選択できる社会の実現に向けて、大きな前進である。

 また働き方改革は、女性活躍推進を後押しするものとしても注目されているが、女性特有の健康上の理由で、働き続けることが困難な状況にある女性も少なくない。女性が働き続けるにあたり、健康面に対する配慮を企業や社会がもっと意識する必要があるのではないだろうか。本稿では、働く女性が抱える健康課題について考える。

若い女性ほど健康面で困った経験があると回答している

 まず、どのような健康課題を働く女性たちは感じているであろうか。経済産業省の調査によると、女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状により、勤務先で困った経験をしたことがあるという女性は半数以上にのぼる(図表1で「該当するものはない」と回答した人以外)。特に若い年代の女性ほど、「該当するものはない」の回答割 合が少なく、何らかの困った経験がある人が多い。

 具体的な内容をみると、「月経関連の症状や疾病(月経不順・月経痛など)」が最も多い。特に20代、30代では半数近くが回答している。これに「PMS(月経前症候群)」が続いている。PMS とは、Premenstrual Syndrome の略で、生理が始まる前の3日~10日前に起こる、心と身体の様々な不調のことである。これについても20代、30代の回答割合が高い。若い女性の多くが、月経関連で困った経験をしているとの結果である。50代以上になると「更年期障害」が多く、約4人に1人が回答している。年代によって症状は異なるものの、何らかの健康上のトラブルを抱えながら働いている女性が少なくないことがうかがえる。

働く女性の約3割が健康上の理由により休職や退職を考えたことがある

 こうした女性特有の健康課題や症状、妊娠や出産・妊活などにより、休職や退職を考えたことがあるかをたずねた結果をみると、働く女性の30.3%が「考えたことがある」と回答している(図表省略)。年代別に考えたことがある割合をみると、20代33.7%、30代36.0%、40代25.7%、50代以上25.8%であり、20代、30代で高い傾向がみられる。

 休職や退職を考えた際に職場で必要と感じたもの、あれば助かったと思われるサポートについてもたずねており、上位には「会社による業務分担や適切な人員配置などのサポート」「受診や検診、治療のための休暇制度や柔軟な勤務形態など両立を支えるサポート」「上司や部署内でのコミュニケーション」が挙げられている(図表2)。

働く女性に対する健康支援の必要性
(画像=第一生命経済研究所)
働く女性に対する健康支援の必要性
(画像=第一生命経済研究所)

 休職や退職まで考えるほどの健康上の悩みや不安の解消のためには、人事担当や専門家などによるアドバイスよりも、業務分担における配慮であったり、柔軟な働き方が可能であったり、職場内のコミュニケーションがしやすかったりなど、身近な職場におけるサポートを多くの女性は望んでいるようだ。

働く女性の健康支援のために必要な制度

 以上のように、女性は働くにあたり、女性特有の健康課題により、様々なトラブルを抱え、悩んでいる人が少なくないようだ。特に20代、30代の若い女性については、年代的に妊娠や出産に関連する症状のみならず、月経関連による体調不良にも配慮をする必要があるということが明らかとなった。今後、女性が働き続けるためには、こうした健康課題に対応し、働きやすい環境を整備することが重要である。そのために、どのような健康支援が社会的に求められているであろうか。

働く女性に対する健康支援の必要性
(画像=第一生命経済研究所)

 図表3をみると、上位3位に挙げられた回答は「検診や受診のための有給休暇制度」「子宮頸がん、子宮体がん、乳がんなどの検診受診の促進」「生理休暇」である。女性特有の疾病等への配慮を多くの人が求めていることがわかる。なかでも生理休暇は労働基準法上で定められているものであるが、職場の理解が進んでいないなどのために活用しづらいようである。若い女性に月経関連のトラブルが多いことからも、あらためて生理休暇を職場に浸透させることが必要であろう。この他、乳がんなどのがんや不妊治療に対するサポートを求める人も多い。今後、ますます「治療と仕事との両立」がしやすい職場環境づくりという視点も重要と思われる。

 わが国は今、働き方改革によって、個人の持てる力を十分に発揮しながら働ける環境を整備し、個人や企業の生産性の向上を目指している。女性の健康課題に向き合い、これを改善することによっても生産性の向上につながる。女性の健康支援は働き方改革の延長線上にある。今一度、各職場において、女性の健康に配慮した取組を見直してみてはいかがであろうか。(提供:第一生命経済研究所

ライフデザイン研究部
主席研究員 的場 康子