顧客の「ネック」にフォーカスすべし
営業というと、人間関係が大事だという意識があるだろう。しかし、ベストセラー『御社の営業がダメな理由』著者で営業コンサルタントの藤本篤志氏は、「そうした人間関係だけに依存した営業はもう通用しない」と話す。どういうことなのだろうか。また、今の時代に必要な営業スキルとはどのようなものなのか。詳しくうかがった。(取材・構成=西澤まどか)
「昭和の営業」が通じなくなった理由
ビジネス環境の変化にともない、営業に求められるスキルも変わりつつあります。その変化についてひと言で言うならば、「人間関係に依存した営業の時代は終わった」ということです。足繁く通ったり接待をしたりして顧客と親しくなることだけで契約を取ったり、「長いつきあいだから」と自動的に受注したり、といった昔ながらの営業は難しくなっているのです。
背景にあるのは、企業のコンプライアンス意識が高まったことです。今までは「社長が気に入っているから」「恩のある会社だから」という理由で、取引先を選んでいたかもしれません。しかし、今ではコンプライアンス意識から、「同業他社との比較」「コンペ開催の有無」などが確認される時代です。
もう一つの背景として挙げられるのは、IT化です。昔は、商品の情報は営業マンの持ってくるパンフレットだけが頼りでした。しかし、今は検索すればさまざまな情報がすぐに手に入り、ライバル社との比較や口コミなども確かめることができます。仲のいい営業マンが言っているから、とすべて信用してもらえる時代ではありません。
よって、今は正統派の営業スキルで勝負する時代と言うことが言えるのです。
商品をアピールするより「ネック」を探せ
では、正統派の営業スキルとは、どのようなものか。細かく言えば多岐に渡りますが、まずは何よりも、相手の「ニーズ」と「ネック」をつかむこと。
ニーズとは、お客さんはどのようなものを欲しがっているのかということ。ネックとは、たとえば、価格が高い、機能面に不安がある、などの「買わない理由」のことです。
ニーズを喚起し、ネックを解決する――これが営業の仕事です。とくに、「ネック」を解消し、他社より自社を選ぶだけの理由があると思わせることが重要なのですが、商品の売り込みばかりを考えて、相手が何に躊躇して決定しないのかに気づかない営業マンは多いのです。
ネックはニーズに比べると見つけにくいものです。ヒアリングをしても、顧客はネックを隠すことがあるからです。単純に指摘しづらい場合もあれば、顧客自身にもネックが何なのかはっきりわかっていないという場合もあります。
解決策は、ヒアリングを重ねること。多くの場合、ふとした言葉の中にネックを示すシグナルが現われます。そのシグナルを読み取る力も、営業が磨くべきスキルです。ここで大事なのは、顧客との関係性です。「人間関係に依存しない営業」と言っても、人間関係を軽視して良いわけではないのです。顧客と直接会うことで担当者の人柄、趣味など周辺環境を把握するとともに、その人の発想や価値観を知っておくことは必要です。
「そのままメモ」でシグナルを見落とさない
顧客が言葉に出さないシグナルをキャッチためには、何気ない雑談にも気を配ることです。
たとえばお客さんが「先日、社の忘年会で○○ホテルに行った」と言った場合。従来、その会社ではもう少しグレードの低いホテルを使っていたはず、ということを、以前の雑談で知っていたとします。すると、業績が良いのでホテルをグレードアップしたのではないか、という予測が立ち、となるとネックは資金面ではないかもしれない、などとつなげることができます。
ここで「メモを取る」技術も大事になってきます。とくに営業マンが若手の場合、顧客との話の内容を上司に報告・相談することで、営業マン本人が気づかなかったシグナルを上司が見つけ、経験に基づいて前述のような仮説を立てることができるかもしれないからです。
ここで大事なのは、お客さんが発した「台詞をそのまま」メモに記すこと。勝手に要約したり、変換してしまうと情報を劣化させる恐れがあります。
企画書・提案書作りのスキルはなくてもいい!?
一方で営業マンにとってもはや不要なスキルがあります。レイアウトに凝った企画書・提案書を作成するスキルです。
企画書や提案書は、「相手のニーズを叶え、ネックを潰している」ことが伝われば、箇条書きでも良いのです。極論すれば、それをうまく伝えることができれば、企画書や提案書はなくてもいいと私は考えます。大事なのは体裁ではなく中身です。
にもかかわらず、企画書や提案書に膨大な時間を使っている営業マンは多いものです。私は営業コンサルタントとして、営業マンの仕事についてリサーチしていますが、多くの営業マンが商談に費やすのは1日90~120分だけ。かたや、企画書作りやメールを含めたデスクワークには200~300分も費やしています。
営業担当が、商談よりも書類作成に時間を取られていたのでは、契約が取れるわけがありません。1件でも多くの取引先に足を運び、ニーズとネックを探るべきです。
部下指導の方法も変えねばならない
こうした時代の変化にともない、もう一つ変わらねばならないことがあります。それは営業マンの育成です。
従来は、直属の上司が自分のやり方を教えるのが一般的だったかもしれませんが、それではその人のやり方しか吸収できず、合わない場合は成果があがらないことになります。チーム全員のスキルを共有し、マニュアルを作り、営業の基礎を新人全員が学べるようにすべきです。
もう一つ、「日次CAT」というやり方もお勧めです。これは、毎日の部下の仕事について一対一ミーティングを行い、Check・Advice・Trainingすることです。すべての取引先に上司が同行できれば、シグナルを見逃すことも少なくなるかもしれませんが、それは物理的に不可能です。ならば毎日、顧客とのやり取りを報告してもらい、その中からシグナルをピックアップし、次の一手を指導し、場合によっては勝負商談のときに同行する、といったやり方ができます。
藤本篤志(ふじもと・あつし)グランド・デザインズ代表取締役
1961年大阪生まれ。大阪市立大学法学部卒。株式会社USEN取締役、株式会社スタッフサービス・ホールディングス取締役を歴任。2005年7月より現職。営業現役時代に営業プレーヤーとしても、営業マネジャーとしてもトップの成績を収めた経験を活かして、営業コンサルティング事業を始める。2013年4月、長年のコンサルティングで培ったノウハウを活かした画期的な営業プロセスマネジメント・クラウドシステム「営業ミエルマップ」を完成させ、販売を開始する。『御社の営業がダメな理由』『社畜のススメ』(新潮新書)をはじめ多数のビジネス書を執筆する。(『The 21 online』2018年3月号より)
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