18年7月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比11.7%増となり、前月(同11.7%増)から横ばいだった(図表1)。輸出はスマートフォン需要の減速などから昨年に比べて鈍化しているものの、海外経済の持続的拡大や一次産品の価格上昇が全体を押し上げており、高水準を維持している。もっとも米国発の貿易摩擦の影響で、年後半は輸出の伸びが減速する懸念が燻る。

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ASEAN5カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、7月は北米向け(同9.8増)が鈍化し、EU向け(同6.7%増)が緩やかな伸びとなった一方、東アジア向け(同14.0%増)、東南アジア向け(同22.3%増)がそれぞれ上昇して引き続き二桁増となった(図表2)。

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タイの18年7月の輸出額は前年同月比8.3%増(前月:同8.2%増)と若干上昇した。輸出の基調は、海外経済の回復を背景に需要が拡大した自動車・部品や電子機器、価格が上昇した石油製品を中心に堅調な拡大を続けている。一方、輸入額が前年同月比10.5%増(前月:同10.8%増)と小幅の低下に止まった結果、貿易収支は5.2億ドルの赤字となり、前月から20.9億ドル減少した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同7.7%増(前月:同8.2%増)と小幅に低下した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、主力の電子機器(同9.2%増)と石油化学製品(同20.0%増)、自動車・部品(同9.2%増)が好調だったものの、機械・装置(同2.5%減)が8ヵ月ぶりにマイナスとなった。また鉱業・燃料は同45.5%増(前月:同24.6%増)と、石油製品を中心に12ヵ月連続の二桁増となった。農産品・加工品は同3.2%増(前月:同4.5%増)と低下した。ゴム製品(同14.9%増)が好調を維持する一方、コメ(同4.9%減)と天然ゴム(同6.0%減)がマイナスとなった。

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ベトナムの18年7月の輸出額は前年同月比14.8%増と、前月の同11.3%増から上昇した。輸出の伸び率は昨年好調だった主力の電気・電子製品を中心に増勢が鈍化してきたものの、足元でも高めの水準を維持している。輸入額は前年同月比20.2%増(前月:同4.9%増)と上昇した結果、貿易収支は前月の6.3億ドルの赤字となり、前月から14.3億ドル減少した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同25.9%増(前月:同2.9%減)と大幅に上昇して4カ月ぶりに二桁増となった。またコンピュータ・電子部品は同19.6%増(前月:同18.5%増)と引き続き好調だった。アパレル関連では、織物・衣類が同17.1%増(前月:同16.2%増)、履物が同10.1%増(前月:同4.8%増)と、それぞれ上昇した。農産品では、コメ(同10.2%減)が中国向けを中心に急減したほか、ゴム(同16.1%減)やカシューナッツ(同24.4%減)、野菜(同3.2%減)、コーヒー(同2.8%増)なども振るわなかった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同16.8%増(前月:同10.5%増)が上昇する一方、地場企業が同10.4%増(前月:同13.1%増)と低下した。

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マレーシアの18年7月の輸出額は前年同月比15.8%増と、前月の同15.5%増から小幅に上昇し、13ヵ月連続の二桁増となった。輸出の伸び率は、主力輸出品の電気・電子製品の需要拡大の影響で好調に推移している。一方、輸入額は前年同月比16.8%増と、前月の同24.0%増から低下した結果、貿易収支は20.5億ドルの黒字と、前月から5.5億ドル増加した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同27.8%増(前月:同14.0%増)と上昇し、電気・電子製品(同30.9%増)を中心に好調だった(図表8)。化学製品も同21.5%増(前月:同27.0%増)と高水準を維持する一方、動植物性油脂は同18.0%減(前月:同21.0%減)と3カ月連続の大幅マイナスとなった。鉱物性燃料については同1.4%増(前月:同16.6%増)と大幅に鈍化した。原油(同34.1%増)が大幅に増加する一方、天然ガス(同32.4%減)と石油製品(同7.1%減)が減少した。

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インドネシアの18年7月の輸出額は前年同月比19.3%増(前月:同11.3%増)と上昇した。輸出の伸び率は昨年末から主力のパーム油とゴム製品を中心に鈍化していたものの、足元では石油ガスの需要拡大を背景に加速してきている。一方、輸入額は前年同月比31.6%増(前月:同12.8%増)と大きく上昇した結果、貿易収支は20.3億ドルの赤字と、前月から37.4億ドル減少した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、全体の9割を占める非石油ガスは同19.0%増(前月:同8.7%増)と上昇したほか、石油ガスも同22.6%増(前月:同31.7%増)と好調を維持した。非石油ガスの内訳を見ると、まず輸出全体の7割を占める製造品が同15.2%増(前月:同0.5%増)と大きく上昇した。主力の製造品のうち、ゴム製品(同4.7%減)や機械類(同1.3%減)が落ち込んだものの、電気機械(同15.0%増)と自動車(同11.6%増)が二桁増を記録したほか、動植物性油脂(同5.1%増)がプラスに転じた。また農産品は同6.6%減(前月:同25.7%減)と低迷した一方で、鉱業品は同44.7%増(前月:同58.7%増)と、鉱石、スラグ及び灰(同76.5%増)を中心に引き続き好調だった。

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シンガポールの18年7月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比12.4%増(前月:同3.5%増)と上昇し、2ヵ月ぶりの二桁増となった。輸出は主力の電子製品が低調に推移しているものの、石油化学製品を中心に増加傾向が続いている。なお、総輸出額は前年同月比14.3%増(前月:同10.8%増)、総輸入額が同22.8%増(前月:同15.7%増)となり、それぞれ上昇した。結果として、貿易収支は25.2億ドルの黒字となり、前月から9.2億ドル減少した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同2.6%増(前月:同6.2%減)と上昇して6カ月ぶりにプラスに転じた(図表12)。電子製品の内訳を見ると、通信機器(同13.4%増)こそ大幅に増加したものの、主力のIC(同1.1%減)とPC部品(同11.8%減)、ダイオード・トランジスタ(同24.3%減)が低迷、PC(同0.5%増)も大きく鈍化した。一方、電子製品と同じく全体の約3割を占める化学は同40.0%増(前月:同18.5%増)と一段と上昇した。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同110.4%増(前月:同22.3%増)と急増、石油化学製品も同10.7%増(前月:同17.4%増)と高水準を維持した。

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フィリピンの18年7月の輸出額は前年同月比0.3%増と、前月(同2.8%増)に続いて低調だった。輸出は昨年後半から伸び悩み、年明けからマイナス圏で推移していたが、足元では主力の電子製品を中心にプラスに転じている。一方、輸入額は前年同月比31.6%増(前月:同24.4%増)と一段と上昇して4ヵ月連続の二桁増となった結果、貿易収支は35.5億ドルの赤字となり、前月から3.6億ドル赤字が拡大した(図表13)。こうした貿易赤字の拡大傾向は同国の通貨ペソに減価圧力がかかる一因となっている。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同5.2%増(前月:同14.0%増)と再び低下した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同7.8%増)が堅調に拡大したものの、主力の半導体デバイス(同1.5%増)が鈍化した。その他9品目は総じて増加した品目が多かった。雑製品(同80.2%増)やバナナ(同60.3%増)、電子機械・部品(同43.3%増)、その他鉱物製品(同33.6%増)、金属部品(同8.7%増)が増加した一方、イグニッション・ワイヤーセット(同18.8%減)や機械・輸送用機器(同14.4%減)、その他製造品(同7.3%減)、精錬銅(同0.1%減)が減少した。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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