「片づけ脳」を作る脳番地の鍛え方
「小さな頃から片づけが苦手」「片づけろと言われても、どこから手をつければいいのかわからない」。どうしても整理整頓ができない人はいるものだ。だが、それを生まれつきだと諦めるのは早い。実は片づけられない理由は「脳のクセ」であり、それさえ直せば整理整頓は誰にでも可能。自らも片づけ下手を克服した脳科学者の加藤俊徳氏に、「片づけ脳」の鍛え方をうかがった。
「できる人は片づけ上手」は本当か?
仕事ができる人のデスクは整理整頓されている。巷ちまたで噂されるこの言葉は本当なのか。脳科学者の加藤俊徳氏は、「仕事ができる人」と「整理整頓」の関係を次のように説明する。
「仕事ができる人は、仕事や自分自身、身の回りにあるモノをコントロールする能力に長けています。納期から逆算して計画を立てる、風邪をひかないよう体調管理をする、デスクを整理整頓する……。つまり、デスクが綺麗だから仕事ができるというより、整理整頓ができる人だからこそ、仕事ができることが多いのです」
ただ、世の中には整理整頓は苦手でも仕事ができる人もいる。
「そういう方も一部いますが、脳のメカニズム的にも、整理整頓はしたほうが良いでしょう。散らかったデスクで仕事をすれば意識が分散されて集中力が落ち、必要な資料がすぐに見つからなければ、そのぶん生産性も下がります」
片づけられない人は、脳に余裕がない!?
そもそも、なぜ整理整頓ができないのだろうか。加藤氏はその原因を次のように指摘する。
「私は、脳を1枚の地図に見立てて、それぞれの部位を『脳番地』と呼び、働きが異なる脳を機能ごとに8種類に分けています。整理整頓が苦手な人は、このうち非言語理解を司つかさどる『理解系脳番地』の発達が弱い。つまり、空間や図形といった視覚情報を理解する力が乏しく、デスクが散らかっていても、散らかっているという状況を正しく認識できないのです」
整理整頓できない人には、さらに4つの特徴が見られるという。
「1つ目は、物事を俯瞰する力が弱いこと。状況を整理して把握することが苦手なので、『片づけろ』と言われても、どこから手をつければいいのかわからず、脳がフリーズしてしまうのです。
2つ目は、ワーキングメモリが少ないこと。情報を蓄積する『記憶系脳番地』が弱いので、元々あった場所をすぐに忘れてしまい、『使ったらもとに戻す』という片づけの基本ができないのです。また、メモや資料を捨てると記憶も一緒に消えてしまうような気持ちになり、モノを捨てられない傾向もあります。
3つ目は、脳に余裕がないこと。整理整頓が苦手な人は、多忙かどうかにかかわらず、マルチタスクが苦手です。一点に集中しすぎるあまり、脳に余裕がなくなり、整理整頓にまで意識が向かなくなるのです。この原因も、記憶系脳番地が弱いためについ時間を忘れて作業や考え事に没頭してしまうことにあります。一方で、こうしたタイプはアイデアが豊富という側面もあります。
そして4つ目は、脳が覚醒していないこと。オンとオフの切り替えが苦手な人は、帰宅後も仕事のことを引きずりがち。仕事のことを考えながらダラダラと夜更かししてしまい、朝になっても脳が覚醒しない。そのような状態では、整理整頓する気が起きないのです」
まずは「一箇所」集中して片づけてみよう
脳のメカニズムは、今さら変えることができないように思えるが、加藤氏は「脳は一生変わり続ける」と主張する。実際、ちょっとした心がけで、「片づけ脳」を手に入れられるという。
「まずは、朝早く起きる習慣をつけましょう。脳が覚醒しない状態では、片づけようにもどこから手をつければいいのか判断できません。また、記憶力も落ちてしまうので、ますますデスクにモノが溜まっていきます。
こうした悪循環を断ち切るには、朝早く起きてしっかりご飯を食べ、脳を覚醒させること。朝早く出勤すれば、整理整頓する時間的余裕も生まれます」
また、一箇所だけ集中して整理整頓するのもお勧めだ。
「多くを望まず、まずは『今日は引き出しの上段だけ』といった具合に、片づけるエリアを狭め、そこに集中すれば、整理整頓を習慣化しやすい。そのうえで、徐々に範囲を広げていきましょう。
その際のコツは、他の人の整理整頓の方法を学ぶこと。整理整頓が苦手な人は、どう片づければいいのかが判断できません。そこでまずは、整理術の専門家の方法を徹底的に真似するのです。なるべくシンプルな方法が良いでしょう」
片づけ脳を鍛える!三つのトレーニング
これらの習慣をつけたうえで、「片づけ脳」を強化すれば、さらに効果は高まる。加藤氏は次の3つを勧める。
「1つ目は、日記でその日の出来事を振り返ること。記憶系脳番地を鍛えることになり、モノの置き場所を忘れることが少なくなるはずです。日記は簡単な内容で構いません。『○○でお茶を飲んだ』などといった短い文章や、今日計算した数字を思い出して書くだけで良いでしょう。
2つ目はアルバムの整理。過去を振り返って記憶を整理することは、記憶力を鍛えると同時に時間軸で物事を考える訓練になります。これで、作業に没頭し過ぎて整理整頓を忘れることもなくなるはずです。
3つ目は二者択一のトレーニングを繰り返すこと。昼食のメニューや今日着ていく洋服など、日頃から『どちらかを選ぶ』機会を意識的に作るのです。これにより判断力が鍛えられ、迷ってモノを捨てられないことも少なくなるでしょう」
実は、加藤氏はもともと整理整頓ができない人だったという。
「学生時代は、家に帰れば靴下をその辺に脱ぎ捨てるくらい、片づけができない人でした。ただ、脳のクセを理解してから、改善策がわかったのです。読者の皆さんも脳を鍛えて、片づけ下手を克服してください」
加藤俊徳(かとう・としのり)医師・医学博士、加藤プラチナクリニック院長
MRI 脳画像診断、発達脳科学の専門家。新潟県立長岡高校、昭和大学医学部、同大大学院を卒業後、1991年脳活動の計測原理fNIRSを発見。1995 年より、米国ミネソタ大学放射線科MR 研究センターに研究員として6 年間在籍。帰国後は慶応大学、東京大学などで脳の研究。2006 年、株式会社「脳の学校」設立。現在もMRIを使って幅広い年齢層の脳の個性を診断し脳番地トレーニングを実施している。著書は『脳の強化書』(あさ出版)、『脳の学校ワークブック』(ポプラ社)など多数。《取材構成:吉川ゆこ》(『The 21 online』2018年5月号より)
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