要旨

コンビニ,高齢化
(画像=PIXTA)
  • コンビニ市場のシェア4割を占めて業界首位のセブン-イレブンの来店客の年齢分布を見ると、1989年から2017年にかけて、20代以下は6割から2割へ、50歳以上は1割から4割へと増え、人口以上に高齢化が進んでいる。「コンビニは若者のもの」から「シニアのもの」へと移り変わっている。

  • コンビニ来店客が高齢化した背景の1つには、企業側が戦略的にターゲット層を変えた可能性がある。高齢化に加えて未婚化や核家族化の進行で、今後、高齢単身世帯が増える。コンビニの小分け食品や住宅街などにある店舗立地、店のコンパクトさは、もともと高齢単身世帯の生活と調和している。

  • 一方、かつてコンビニの主力客であった若者は1人暮らしが減り、少子化の影響で単身世帯に占める若者の割合も減っている。さらに、今の若者は価格感度や情報感度が高く、モノを出来るだけ安く買う術に長けており、若い世代ほどコンビニ離れが進んでいるようだ。

  • さらに、コンビニでは公共料金や税金の支払い、住民票発行など行政関連サービスの代行など生活上のサービスの取扱いが増え、消費者にとって暮らしの拠点の1つとなりつつある。また、高齢者の見守り支援や災害時の物資支援など自治体との連携協定も広がることで、コンビニは社会インフラとしての価値も高まっている。

  • モノでも惣菜等の更なる充実、生鮮食品の取扱いやプライベートブランド商品の拡充、淹れたてコーヒーの販売など付加価値を高める取組みが見られる。幅広い消費者における魅力を増していることが、伸び続ける売上高の背景にあるのだろう。少子高齢化は事業成長の脅威ではなく機会と捉えることが成功の鍵だ。

はじめに~勢いを増すコンビニ、近い将来、スーパーの売上高を追い越す可能性も?

コンビニエンスストアの勢いが増している。売上高は2009年に百貨店を上回り、近い将来、スーパーも上回りそうだ(図1)。店舗数や来店客数も増加傾向にあり、客単価もじわりと増えている(図2)。コンビニは消費者にとって、もはや欠かせない存在だが、利用者層には何か変化があるのだろうか。

コンビニ,高齢化
(画像=ニッセイ基礎研究所)

人口以上に進む、コンビニ来店客の高齢化~セブン-イレブンの来店客は4割が50歳以上へ

コンビニ利用者の属性について業界全体を捉えた統計は見当たらないため、マーケットシェア4割(1)を占めて業界首位のセブン-イレブンの統計を参考にしたい。セブン-イレブンの来店客の年齢分布を見ると、若者が減り高年齢層が増えている(図3)。1989年では20代以下が6割を超え、「コンビニは若者のもの」であった。しかし、2000年代に入ると半数を下回り、2017年では2割でしかない。一方、50歳以上は1989年では1割に満たなかったが、2017年では約4割を占めている。つまり、1989年から2017年にかけて、20代以下は3分の1に減り、50歳以上は4倍に増えている。50歳以上のうち65歳以上の高齢者も増えているとすれば、「コンビニは若者のもの」から「シニアのもの」へと移り変わっているようだ。

少子高齢化が進む中、ある程度はこのような変化が予想されるものだが、セブン-イレブンの来店客は人口における高齢化を上回る速度で進んでいる(図4)。1989年と2016年にかけて、50歳以上の割合は人口では30%から46%へと1.5倍に増えているが、セブン-イレブンでは約4倍に増えている。なお、この期間において、同社の売上高や来店客数、客単価は増加傾向にある。

コンビニ,高齢化
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)株式会社セブン&アイHLDGS.「統合レポート2018」

コンビニの注目は若者からシニアへ~人口減・ニーズ弱の若者、人口増・ニーズ強の高齢単身者

セブン-イレブンの来店客が高齢化している背景の1つには、企業側が戦略的に若者からシニアへターゲット層を変えた可能性があるのではないか。日本では高齢化に加えて、未婚化や核家族化の進行により、今後、高齢単身世帯が増えていく(2)。現在、単身世帯は総世帯の3割超だが、2040年には約4割となる。また、単身世帯のうち、60歳以上は、現在は約4割だが、2040年には半数を超える。

コンビニは、もともと高齢単身世帯の生活と調和している。コンビニで売られている食品や惣菜は、スーパーと比べて小分けのものが多く、単身者が必要な時に必要な量だけを買いやすい作りだ。また、店舗が小規模であるため、住宅街やマンションの1階などにも多い。遠方まで出歩かずに近所で用事を済ますことができる上、店内もさほど歩かずに済む。

一方で、かつてコンビニの主力客であった若者は1990年頃と比べて1人暮らしが減り(3)、コンビニで食品などを買う必要性が低下している。また、少子化の影響で単身世帯に占める若者の割合も減り、1990年では35歳未満が約半数だったが、2015年では3割弱となっている。さらに、価値観も変容している。景気低迷の中で生まれ育った今の若者は価格感度が高く、デジタルネイティブであるため情報感度も高い。コンビニよりもディスカウントストアや百円ショップ、格安ネット通販などを利用して、モノを出来るだけ安く買う術に長けている。

若い世代ほどコンビニ離れが進む一方、1990年代にコンビニ生活に慣れ親しんだ若者が歳を重ねることで、来店客の年齢分布が高齢化した影響もあるだろう。しかし、コンビニ側が、人口が減りニーズが弱まる若者よりも、増加傾向にありニーズの強い高齢(単身)者へと、ターゲットを積極的に移した可能性もあるのではないか。例えば、近年、コンビニ各社では、高齢者をはじめ食事や買い物に不便さを感じる消費者に向けて、食事配達サービスや買い物支援サービスを提供するようになっている。このような代行サービスは増加傾向にある共働き世帯でも強いニーズがあるだろうが、業界2位のローソンでは、高齢者というよりも、共働き世帯や子育て世帯を主力ターゲットとしているようだ(4)。

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(2)久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)(2)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/5/9、8/21)
(3)久我尚子「ひとり暮らしの若者の家電事情」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/4/16)
(4)ローソンの提供するネットスーパー「ローソンフレッシュ」ホームページより

コンビニのサービス面の充実と社会インフラ化~身近な暮らしの拠点へ

さらに、コンビニでは生活上のサービスの取扱いが増えている。公共料金や税金の支払い、住民票発行など行政関連サービスの代行、銀行ATMサービス、宅配便やクリーニングの受け取りや預かり、無料Wi-Fiサービスなどにも対応し、消費者にとって暮らしの拠点の1つとなりつつある。特に高齢単身者にとって、身近に暮らしの拠点があることは安心だ。また、コミュニケーションの場としての価値もあるだろう。さらに最近では、コンビニは社会インフラとしての価値も高まっているようだ。

セブン&アイ・ホールディングスの「CSRレポート2017」を見ると、「高齢化、人口減少時代の社会インフラの提供」を重点課題の1つにあげている。人口減少により生活拠点の空洞化が進んでおり、2030年には徒歩圏内に生鮮食品店がない高齢単身世帯数が現在の約2倍になるそうだ。そこで同社では、前述の買い物支援や食事宅配サービスなどに加えて、自治体との連携協定を進めている。例えば、店舗や宅配サービス提供時に高齢者の異変などを察知した際は自治体と連携して対応すること、また、近年、日本では深刻な災害が起きているが、災害時の迅速な物資支援、帰宅困難者への水道水やトイレ、周辺情報の支援などの協定が進められている。なお、同業他社でも同様の取組みが見られる。

おわりに~人口構造やニーズ変化を脅威ではなく機会に

コンビニ各社ではサービス面の強化とあわせて、モノでも付加価値を高める取組みが見られる。小分けの食品や惣菜の更なる充実に加えて、生鮮食品の取扱いや独自のプライベートブランド商品の拡充、淹れたてコーヒーの販売などもある。また、正月にはお節料理が注文でき、節分には恵方巻きが、春には苺のスイーツが売られ、もはや旬さえも楽しむことができる。高齢単身者だけでなく、主婦や家族世帯にとっても魅力的だ。これら全ての取組みが、伸び続ける売上高の背景にあるのだろう。

少子高齢化による人口減少が脅威となる業界は少なくない。しかし、人口構造や世帯構造、消費者のニーズの変化は事業成長の機会にも成り得る。変化をどう捉えるかが成功の鍵となる。

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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