要旨

●雇用の着実な増加が続いており、特に2018年に入ってからの増加が著しい。足もとの雇用増の牽引役は主に「高齢者」や「女性」である。これに加え、学生が中心と考えられる「18-21歳」の雇用者数増加が目立ってきている。

●若者雇用を産業別にみると、増加しているのは宿泊業・飲食サービス業や小売業など人手不足の深刻化が指摘される業種や、教育・学習支援業などだ。昨今の外国人労働者の増加も、この年齢層の雇用が増加している一因になっているとみられる。

●今後も若年人口の減少に伴い、若者労働力に対する企業の引き合いは強まっていくことが予想される。これは賃金増、待遇改善などを通じて、若者の労働参加を促すだろう。就職前の若者は、女性・高齢者に次いで労働供給余力を有するもう一つのセグメントとして、存在感を増していくことが予想される。

●足もとの若者雇用は、飲食サービスや小売業など労働集約産業の人手不足を補完する役割に留まっているのが現状だ。将来の若年層人口の減少が深刻な日本だからこそ、若者と企業とが互いにメリットを享受できる労働参加のあり方が、もっと模索されるべきだろう。

雇用増に若者が一役

 雇用増が著しい。総務省の「労働力調査」(1-3月期平均)によれば、国内の就業者数は6,587万人で前年同期に比べて144万人の増加となった。2017年には50~60万人増のペースで推移してきたが、2018年に入って一段と増勢が加速している(資料1)。

(総務省の「労働力調査」にみる2018年1-3月期の就業者・雇用者数は2018年以降増勢を強めており、異常ともいえるほどに急増している。そして、「労働力調査」は、2018年1月から調査項目の変更に伴う調査票の変更が行われている。2018年1月を境に雇用増の勢いが増していることを踏まえ、筆者はこの影響が何らかの形で足元の雇用急増に影響している可能性を考えた。しかし、就業者数等のカウントにかかわる設問については概ね変更はなく、この調査変更は就業者数や雇用者数の値に影響を及ぼすものではないと判断した。また、気にかかるのが厚生労働省の「毎月勤労統計」の常用雇用指数などの増勢は強まっていないこと。しかし、これについては本稿で見るように学生や70歳以上の高齢者の就業者が増加している点を踏まえると、「常用(1年超の契約期間)」でない雇用が増えていると解釈すれば、両者が整合する可能性が残っている。ただ、この検証は現在難しい状況にある。労働力調査は2018年1月以降、雇用者の契約期間に関する調査項目の変更を行っており、それ以前と以後の時系列比較が困難になっているためだ(詳細は、総務省「労働力調査の結果を見る際のポイントNo.19 http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/point19.pdf ) 本稿では雇用増加が実勢に即したものとして論を進めている。もっとも、労働力調査自体が標本調査であり、サンプルバイアスが発生している可能性は常にある。本稿で述べた若者雇用の改善トレンド自体を疑う必要は薄いと考えられるが、1~3月の増加ペースに関しては、もう少し先の数字も見て判断した方が良さそうである)

雇用好調の背景に「働く学生」あり
(画像=第一生命経済研究所)

 雇用増を牽引しているものは何か。資料2は2018年1-3月期・就業者数の前年同期からの変化幅を年齢階層ごとにみたものだ。増加を牽引しているのは70-74歳の高齢者(前年同期比+39万人)や50-54歳の女性(同+17万人)などが中心であることがわかる。それに加えて、18・19歳(同+12万人)、20・21歳(同+16万人)の若者就業者数が増加していることがわかる。本稿で指摘したいのはこの若者雇用の好調さだ。

  若者雇用の堅調さは尺度を変えるとより一層鮮明になる。就業者「数」は年齢階層ごとの人口多寡の影響も受ける。例えば、70 歳に到達しはじめている団塊世代、40 代半ばに差し掛かっている団塊ジュニア世代の増加幅は必然的に大きくなる。この影響を除くため、就業者数/人口の比率(就業率)の変化をみたものが資料3だ。60 代以上の高齢者層の就業率は上昇しているが、18・19 歳、20・21 歳は、それを上回る改善をみせていることがわかる。

雇用好調の背景に「働く学生」あり
(画像=第一生命経済研究所)
雇用好調の背景に「働く学生」あり
(画像=第一生命経済研究所)

宿泊飲食・卸小売が主導

 この「18~21 歳」の年齢層は学生が中心と考えられ(文部科学省「学校基本調査」(2017年度)によれば、高校卒業後の高等教育機関(大学・短大・専門学校、過年度卒含む)への進学率は80.6%)、通学しながらアルバイトなどの雇用形態で働く若者が増えていることが雇用増に繋がっているとみられる。「18~21 歳」の就業者数と就業率をより長い目でみたものが資料4だ。2013 年ごろを境に就業者数・率がともに改善傾向に転じていることがわかる。

 若者雇用環境改善の背景にあるのは、サービス産業を中心とした人手不足である。資料5は、若者雇用者数(15~24 歳)の2012 年1-3 月期以降の累積増加数を産業別にみたものだ。2018 年1-3 月期と2012 年1-3月期とを比較して最も増えた業種は「宿泊業・飲食サービス業」(+32 万人)、次いで「卸売業、小売業」(+17 万人)となっている。これらは近年の「人手不足業種」の代表格だ。企業が人手不足の深化に伴い、アルバイト時給の引き上げなど待遇改善を進めた結果、若者の労働参加が増加、雇用の増加に結びついているものと考えられる。

 また、こうした若者層の雇用増の背景には、外国人労働者の増加も一部影響しているとみられる(「労働力調査」の調査対象は「我が国に居住している全人口(ただし外国政府の外交使節団、領事機関の構成員(随員を含む)及びその家族、外国軍隊の軍人・軍属及びその家族は調査の範囲に含まれない)」。ただし書き以外の外国人労働者は調査対象)。厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」によれば、2017 年10 月末時点の外国人労働者数は127.9 万人と、2012 年の同時期と比較して59.7 万人増加している。同統計で年齢階層は明らかにはされていないが、近年の外国人労働者の増加を牽引しているのは留学生や技能実習生であり、若者層が中心になっていると考えられる。

雇用好調の背景に「働く学生」あり
(画像=第一生命経済研究所)
雇用好調の背景に「働く学生」あり
(画像=第一生命経済研究所)

「学生層」は労働供給余力を残すもう一つのセグメントだ

 資料6は、年齢階層ごとの労働参加率を時系列比較したものだ。昨今の労働力人口や雇用増加を牽引してきたのは、主に女性や高齢者である。それに加えて、18-21歳の若年層の労働力人口比率がはっきりと上向いていることもまた、労働供給を下支えしている。将来を見据えると、若者人口の減少に伴って、若者労働力に対する企業の引き合いは強まり、労働力人口比率には上昇圧力がかかることになるだろう。就労前の若年層が労働供給余力を残すもう一つのセグメントとして存在感を増していく可能性は相応にあると考えられる。

 働く学生が増える、という点に対しては、「学生は本業の勉学に専念すべき」という意見もありそうだ。足もとの若者雇用は宿泊業・飲食サービス業や小売業など、人手不足業態の穴埋め役を果たしているのが現状であり、ここは問題含みかもしれない。しかし、学生がキャリア形成の一環として就労体験を積むこと自体は、一概に否定されるべきものではないだろう。学生は将来のキャリア形成を考慮して在学中にも就労体験を積む一方、企業はその場を提供、一労働力として活用するという、Win-Winの関係を築くことが理想形だ。将来の若年層人口の減少が深刻な日本だからこそ、若者と企業とが互いにメリットを享受できる労働参加のあり方が、もっと模索されるべきだろう。

雇用好調の背景に「働く学生」あり
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也