AI時代を生き抜くカギは「情報編集力」にある!

藤原和博,45歳の教科書
(画像=The 21 online)

新卒から70歳まで働くとすると、 45歳がちょうど折り返し地点。この連載では、70歳までのキャリアを見越した働き方と生き方について、リクルートを経て40代から民間校長として教育の世界に新たな挑戦を始めた藤原和博氏にアドバイスをいただく。第2回目は、変革する時代に対応するために伸ばすべきスキルについてうかがった。<取材・構成 甲斐ゆかり(サードアイ)、写真撮影=清水茂>

藤原和博,45歳の教科書
(画像=The 21 online)

自分の仕事を「時給」に換算する

残業削減、ワーク・ライフ・バランスなどが話題になっていますが、自分のキャリアを見つめるときに私がいつも提案しているのは、今の仕事を、「時給」に換算してみることです。

日本の時給は、コンビニや飲食店でのアルバイトの1000円前後からマッキンゼーのシニアコンサルタントの10万円前後まで、百倍の差の間のどこかに当てはまります。ちなみにサラリーマンは、平社員から取締役までだいたい2000~5000円です。1万円以上(エキスパート)、あるいはそれより上(プロ)を目指すなら、組織内での役職や月給よりも、時間あたりの市場価値を意識すべきです。

また、労働時間と賃金のバランスも検討が必要です。たとえ月給が2割上がったとしても、3割長く働いていたとしたら、効率は悪化していることになります。「だったら時間あたりの効率を高め、時給を上げよう」という発想に自然となるでしょう。「もっと稼ぐには、もっと働かないと」というのは、経済が拡大し、何もしなくても全員の時給が自動的に上がっていった成長社会の発想です。

成熟社会では、いかに効率よく仕事を終わらせ、できた時間でどう自分のキャリアを充実させられるかが勝負になってきます。時給で考えることで、自分のための「働き方改革」ができるのです。そこで今回は、成熟社会での「生き残り」に必要なスキルについて考えてみます。

AI時代にも「残る仕事」とは何か

今後、AIが急速に発達するにつれ、人間がしていた仕事がどんどんAIを搭載したロボットにとって代わられ、やがて人間の脅威になるのではないかと議論されています。では、どんな仕事がなくなり、どんな仕事が残るのでしょうか。「鉄道」を例に考えてみましょう。

駅の改札にはかつて、切符に鋏を入れる「切符切り」の仕事をする人がいました。しかし自動改札の導入で姿を消し、今では、改札はスマホをかざせば通れるものになっています。「運転士」の仕事も、コンピュータ制御による無人運転の導入が進めば必要なくなりそうです。

それに対して、「車掌」の仕事は意外と生き残ると考えられています。急病人の対応などの突発的な事態や想定外の状況が発生した場合、柔軟に対応できるロボットが開発されるには、まだ相当な時間がかかるからです。

このように考えると、どういう仕事が生き残るかが見えてきます。AIが高度化するほど、人はより人間らしい仕事をするようになり、人間としてより必要な智恵や力、人にしかないぬくもりが求められていくのです。

なお、一つの仕事の中にも「AIに代わられる部分」と「生き残る部分」が存在します。自分が今やっている仕事がどちらの部分にあてはまるのか、よくよく考える必要があるでしょう。

ジグソーパズルより「レゴ」の力を磨こう

では、これからの時代を生き抜くためにはどんな力が必要なのでしょうか。

まずは「情報処理力」。これは、学校教育が長年得意としてきた狭い意味での基礎学力のことです。漢字の書き取りや計算問題など、より多くのことを覚え、「早く」「正確に」正解を出せる力で、AIが圧倒的に得意な分野でもあります。

次に、「情報編集力」。正解がないか、正解が一つではない問題に対して、思考力・判断力・表現力を駆使し、自分を含めて関わる人が皆、納得できる「納得解」を導き出せる力です。前者が、誰かによって定められた完成図に従って、早く正確にピースを当てはめていく「ジグゾーパズル型」の能力なら、後者は、ピースを自由につなぎあわせ、自分の世界観をつくりあげる「レゴ型」の能力といえます。

そして、この二つのチカラの土台となるのが「基礎的人間力」。家庭教育をベースに、学校時代の部活や行事などの様々な経験を通じて育まれるものです。社会人以降は、所属するコミュニティでの体験など、メインのキャリア以外の複線的な活動を通しても培うことができます。

これまでの日本社会では、「情報処理力」と「情報編集力」を9:1の割合で身につけておけば、たいていの場面で通用していました。しかし成熟社会を生き抜くには、この割合を7:3くらいにしておく必要があります。実際、これから情報処理力をいくら鍛えても、発達するAIには太刀打ちできないことはわかるでしょう。

それよりも、自分の経験やセンスが生きる情報編集力を磨いたほうが、キャリアを高めるうえでは遙かに賢明です。

「想定外」を演出しモード変更の練習をする

「情報処理力」は、知識をインプットすることで高められます。しかし、「情報編集力」は、誰かから教え込まれて身につくものではありません。

情報編集力を鍛えるには、「想定外」のことが起こる場を数多く経験する必要があります。子供時代でいえば、その最たるものが「遊び」です。「突然雨が降ってきた」「ゲームに必要な人数が足りない」など、「予定調和でない経験」を重ね、自分で獲得するものなのです。

社会人では、この場が「仕事」になります。仕事と遊びは違うというかもしれませんが、「想定外」なことが起こるのは同じです。私の場合は、20代で3回ほど仕事上での異動を体験し、そのたびにモード変更を求められました。30代ではメニエール病にかかり、それまでのモーレツな働き方を変えるきっかけとなりました。40代でリクルートを辞めてからも、教育・介護(医療)・住宅の分野での起業・廃業を経験しました。

このように、仕事を通してモードを変える練習をしてきた=情報編集力が鍛えられたことで、全く畑違いの学校教育の分野に飛び込んだときにも、スムーズに溶け込み、改革ができたのだと思います。「本当の自分はこうだ」と頑なにモードを変えない=情報編集力を鍛えないことは、自分の市場価値を読み違え、ここぞというときの変化に遅れることにつながります。

いつもの駅の一つ手前で降りて歩いてみるとか、昼休みに行く場所を変えてみるとか、まずはそんなちょっとしたことでもいい。40代のうちに情報編集力を磨き、変化に耐えられる準備をしておくことが、その後の人生に効いてくるでしょう。

今の生活に少しずつ10年後のエッセンスを

それでも10年、20年後のキャリアのことまで考えられないというなら、今の生活に少しずつ10年後のエッセンスを紛れ込ませてみてはどうでしょう。

前回、一つの仕事をマスターするにはおよそ1万時間かかることを述べました。10年で割れば1年で1000時間。1日ならおよそ2.7時間。通勤時間と昼休みを足せば、それくらいの時間はできるかもしれません。

また、計算するだけでなく、ひとまずやってみることも大事です。私が東京都で義務教育初の民間校長になる初めの1歩は、息子の小学校のボランティアに顔を出したことコンピュータルームの前時代的な使われ方に唖然とし、父親五人でサポート隊を作ったことが始まりでした。校長になろうとか、教育を変えてみせるとか、そんな考えはなく、「小学校に行くのは久しぶりだな」くらいの気持ちでした。

そういえば、今着ている紺のベスト(トップの写真参照)。これは校長を務めている一条高校の制服のリデザインを検討した際、使いにくかった布のベストをニットに変えて仕立ててみた試作品です。学校でずっと着ていたところ、「ハリー・ポッターに出てくる制服みたい」と生徒の間で評判になり、そのうち部活で使いたいという先生が出てきました。やがて保護者からも「作ってほしい」という声が高まり、正式に制服となりました。

もし、これを校長の権限でいきなり刷新しようとしたら、大きな反発や批判を生んだでしょう。躊躇せず、頓着せず、少しの遊び心をもって1歩踏み出してみる。それは「若さ」でもあるし、スジがいいものだったら、道は絶対に開けていくはずです。

藤原和博(ふじはら・かずひろ)教育改革実践家
1955年、東京都生まれ。78年、東京大学卒業後、〔株〕リクルートに入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。メディアファクトリーの創業も手がける。93年よりヨーロッパ駐在。96年、同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務める。08~11年、橋下徹大阪府知事特別顧問。14年から佐賀県武雄市アドバイザー。16年から奈良市立一条高校校長。『藤原先生、これからの働き方について教えてください。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、著書多数。(『The 21 online』2018年2月号より)

【関連記事 The 21 onlineより】
30代→40代→50代「磨くべき能力」はどう変わるのか?
【連載】藤原和博 45歳の教科書<連載終了>
【連載】藤原和博 45歳の教科書(1)
・【連載】藤原和博 45歳の教科書(最終回)
人生100年時代の「ライフシフター」的仕事術